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想い





『―――ィ―』


『シ――ィス』


 薄れゆく意識の中、誰かの声が微かに聞こえてくる。


 誰の声だっただろうか。

 思い出せない。


 でもその声は暖かく、抱き締めてくれるようだった。

 とても力強くて、安心させてくれるような……。


 聞いた事がある気がする。

 この声は誰……誰が私を呼ぶの。


『シ―ティス』


『システィスッ!!』


「ヘイタ……さん?」


 呼ばれた。誰かの名を。自分の名を。

 大切な人が。カッコいい人が。好きな人が。


 薄っすらと瞼を開ける。

 すると、眩い光の中から、平太が自分の名を呼びながら手を差し伸べていた。


『おいシスティス、なに呑気に寝てやがんだ!さっさとこの手を掴め!』


「あはは、ごめんなさい、ヘイタさん。もう体が動かないんです」


 そう。

 その手を取りたくても、システィスの体は言う事を聞いてくれない。

 こうやって話すだけで精一杯だった。



『腑抜けたこと抜かしてんじゃねえぞ! 俺との修行に比べたら屁でもねぇだろうがッ!!』


「ふへへ、そうですね。でも……ダメなんです」


『勝手に諦めんじゃねぇ、カタリナがお前を待ってんだぞ! 今にも死にそうな顔してんのに根性見せてんだよ!!』


「カタリナが……」


『ああそうだよ、お前が帰ってくるのをあいつは待ってる。おいシスティス、お前は親友を裏切るのか。カタリナを想うお前の気持ちは、そんな簡単に諦めちまうもんなのかよ!?』


「私は……私はッ」


 カタリナの笑顔が思い浮かぶと同時に、ピクリと右手が動く。


 カタリナが……親友が自分を待ってる!!


「ぅ……ぁ……あああああ"あ"ッ!!」


 魂から叫ぶ。

 動かない筈の右手が、どうしようもなく燃え滾った。

 必死に、必死に手を伸ばす。


『く……そっ』


「う……」


 でも届かない。

 あとたった一歩分。けどその一歩が、果てしなく遠い。

 と、その時だった。


「ちょっとシスティス、何ちんたらしてんのよ」


「お母……さん?」


 懐かしい声が鼓膜を震わす。

 背中に、暖かい手が添えられていた。


「私の子だったらね、好きな男の手ぐらい自分から掴みに行きなさい」


 背中を押される。

 その力で、平太の手に届いた。


『やればできんじゃねぇか、馬鹿野郎』


「……うん!」


 声だけで、感触だけで、顔は見えなかった。


 幻だったかもしれない。


 でも、きっと。


 背中を押してくれたのは、自分を愛してくれた、母の手だったのだ。







「ヘイタさん……」

「あん?」

「好きです」

「ばーか、今言う事じゃねえだろ」

「ふへへ」


 平太の腕の中には、儚気に微笑むシスティスの姿があった。


 彼女の体は無事であり、対してデウス・エルス・マキナは跡形も無く消滅している。


 平太は、システィスを救うことが出来たのだ。


「シス……ティス、システィスッ!!」


 ぶっ倒れかけていたカタリナが、蹌踉めきながらも駆け寄る。

 平太にそっと降ろされたシスティスへと、倒れ込むように抱きついた。


「このバカ! 一人で死のうとしてんじゃないわよ……良かった、本当に良がっだ!!」

「ごめんね……あと、ありがと。カタリナの声、ちゃんと届いたよ」

「当たり前じゃないッ、私以外に……誰がいんのよ」


 カタリナが大粒の涙を流しながら想いを伝えると、システィスは感謝を告げ、眠りに落ちる。

 平太はカタリナとシスティスの頭に優しく手を乗せると、


「カタリナ、良く頑張った。よく耐えた。正直駄目かもしれんと思ったけどな、すげぇよお前」


 既に平太は力を封印し、髪や瞳の色も元に戻っていた。


 解放時、カタリナは平太の魔力によって命の灯火が消えかかっていたのだが、寸前の所で持ち堪えた。


 それは偏に、システィスを想う彼女の強き心によるものであったのだ。


「アンタが褒めるなんて……ハァ……珍しぃじゃない」

「アホ、俺だって褒める時は褒めるんだよ」


 そう言いながら、平太は眠っているシスティスを預ける。


「あともう少しだけ待っていてくれ。終わらせてくるから」

「うん、頼んだわよ」




 任された少年は、最後の敵へと振り返る。


 平太の力の影響によって息切れを起こしているクルスは、驚愕の表情で呟いた。


「何故だ……何故なんだ。どうしてデウス・エルス・マキナが消滅して、同化した筈の彼女が生きているんだ……」


 彼の疑念を、平太が淡々とした声音で答える。


「俺の力であの機械を消滅しつつ、取り込まれたシスティスを救い出したんだ。これでも一か八かの賭けだっただぜ」

「何で……すと」


 星皇拳――"蝕星"は、平太の力がその存在を破壊し、消滅させ、取り込む技だ。

 "喰べる"といった表現の方が近いかもしれない。


 彼はこの技を余り使用した事がなく、ましてやデウス・エルス・マキナだけを侵蝕し、システィスだけを救うなど、冗談ではなく万に一の可能性もなかった。


 平太と、親友を想うカタリナの心と、それに応えたシスティスと、何らかの力が働いた事によって起きた奇跡中の奇跡。


 それを、平太はやってのけたのだ。


 その奇跡が信じられないのか、クルスは焦点の合わない目を平太に向けて、


「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な!! デウス・エルス・マキナは神兵器なんですよ!? それが、たかが子供一人に……。何なんですか、君は。こんなの……化物どころの話じゃ」

「…………」

「ヒィィィィィィイイッ!! 来るな、来るな来るなぁあ! エレクトリックバーストッ!!!」


 雷系上級魔法。


 歩み寄る平太に、得体の知れない恐怖を抱いたクルスは咄嗟に雷を放出する。


 平太はそれをペシッと弾き返した。


「あがあ"あ"あ"あ"あ"あ"ががが!!?」


 弾かれた雷はクルスへ反射し、その身を焼き焦がしていく。

 絶叫を上げる彼へと、能面の如く感情を消した平太が迫った。


「よくも俺の弟子に手ぇ出しやがったな。この落とし前、きっちりつけさせてもらうぞ」

「ひっ、や、やめ、来るな!」



――必殺、




「――トラウMAX」












「あぎゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!!!!」

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