腹黒王女
「アリーシャ、私に紹介したかったのはこの者達か」
「そうでございます、王様」
玉座に座るダンディで男前なおっさんが俺とセレナを観察するように見てくる。
この人がベルン王国の王様なのか、なんかイメージと違うな。王様っていうと、もっと太っていて偉そうにしている裸の王様を想像していたから意外だった。
俺とセレナは今ベルン王国の王宮にいる。
アリーシャの服を木端微塵にした後、彼女にやや強引に連れられて王宮に辿り着き、あれよあれよという間に王様の御前まで来てしまったのだ。
「貴様ら、王の前で頭が高いぞ!」
「って言われても、俺この国の人間じゃないしな」
「女神である私が何で王如きに頭を下げなくちゃなんないんですかぁ」
王の横に控えているブルドッグ顔の大臣らしきハゲのおっさんが顔を真っ赤に染めて怒鳴ってくるが、普通の高校生の俺が王様に対する礼節なんて知っている訳がないのでどうしようも出来ません。
まあ、知ってても頭は下げないけどな。
だがセレナ、お前はもう少し自重しろよ。誰も女神なんて信じないから。
「よい、気にするな」
「ですが王よ!」
「アリーシャの知人なのだ。ならば私にとっても同じようなものだ」
「くっ!」
大臣が食い下がるが、王様の一言でしぶしぶ引き下がる。心が広い王様で助かった。
アリーシャって王様に信頼されているんだな。
「王様、この者達はヘイタとセレナです。先程ギルドにてヘイタと手合わせをしたばかりなのですが、はっきりと申し上げます。彼は私よりも強いです」
「何……アリーシャ、それは真か」
「間違いありません」
断言するアリーシャに、王様の声のトーンが上がる。
それはそうか、国の最高戦力が自分より強い奴がいるって宣言しているんだから。
「そうか、それが事実ならば喜ばしい事だな」
言葉だけは喜びを顕著にしているが、その眼光は鷹のように鋭い。
流石王と褒めるべきか。その頭では今、俺という存在が味方なのか敵になり得るのか、有用なのか邪魔になるのかを計算していることだろう。
「私はオブライアン=ザート=ベルン。ベルン王国の十代目の王だ。ヘイタ、セレナ、よろしく頼む」
「ヘイタです、よろしくお願いします」
「うぐっ!?……セレナですぅ、よろしくお願いしますぅ」
王様自ら名乗ってくれたのでこちらも頭を下げる。セレナが余計な事を口走る前に、頭を掴んで下げさせた。
「挨拶も済ませたことだ。アリーシャよ、早速要件を聞こうか」
「はい。私は任務により魔王軍の偵察をしていたのですが、緊急で王様に報告するべきことがあったので帰還しました」
「ほう、報告とは何だ」
「奴ら……魔王軍の動きが活発になっています。恐らく、近い内に我が国へと攻め込んでくることでしょう」
「……そうか。ご苦労であった、アリーシャよ。実は最近、ブロード平原にて上級の魔物が多数確認されているのは配下から報告で聞いていたのだ。……警戒せねばならぬな」
セレナが鬼や蛇は普段王国付近に出現しないと言っていたが、こういう事だったのか。
へえ、と納得しているとアリーシャが俺に視線を向け、王様に進言する。
「そこで王様、迫り来る魔王軍に備え、ヘイタに協力を仰ごうと思っているのです」
「おお!それは良い考えであるな。アリーシャのお墨付きならば大いに賛成だ。どうだろうかヘイタよ、我が国の為にその力を振るってはくれまいだろうか」
王様が頭を下げて頼んでくる。
俺としては願ってもない話しだ。なんせこっちは魔王をぶっ飛ばしたいのに、誰かさんが役立たずのせいで居場所が分からなくて困っていたからな。
「全然構わない。"魔王を"倒すのは任してくれ」
「おお、なんと頼もしい。よろしく頼むぞヘイタよ」
「ありがとうヘイタ、君の力を借りられて本当に嬉しいよ」
そこまで言われると照れるな。
「あれ?私は?」
気にするな、お前は最初から空気だから。
「お待ち下さい王様!!」
バンッ!と突然扉が開き、甲冑を身に纏った男が慌ただしく入ってくる。
……なんだこのおっちゃん。
「一体どうしたというのだ騎士団長」
「話しは扉の外から聞いておりました。王様、私は反対です。このような得体の知れない者と肩を並べて戦うのは我慢がなりません」
「……そうか」
騎士団長って呼ばれたおっさんが険相な表情で王様に申し立てる。
どうやら俺と一緒に戦うのがお気に召さないようだ。
まあ、その気持ちは分からなくもない。スポーツで例えるならば、今まで一緒に苦難を乗り越えて戦ってきた最高のメンバーの中に、突然スペックがずば抜けた転校生を大事な大会前に監督にメンバー入りさせるからって言われるようなものだ。
そんなの誰だって納得出来ないし、ブチ切れてもおかしくない。要はそんな感じだ。
「ですがハリマンさん、ヘイタの実力は本物です。彼に力を借りられれば、魔王軍に勝つ可能性が上がるのですよ」
「こんな若造がおらずとも、我が騎士団の力のみで魔王軍に打ち勝てるわ」
アリーシャが必死に説得しているが、おっさんは聞き耳持たず、頑として首を縦に振らない。
一方通行のままだ。
「平太さん平太さん」
「何だ」
「どうするんですかこの状況」
「知らん、もう帰りたい」
気づかれないようにため息を吐いた。
話しが終わらないし空気がギスギスしてきたので、本当に帰ろうかと思ったその時--花のような美しい声音が聞こえてきた。
「では、おじ様とその方が試合をして決めてはいかがでしょうか」
「王女様ッ!?」
「……リオン様」
話しに割って入ったのはベルン王国の王女様だった。
「うわー綺麗な方ですねぇ」
「ああ、お前と違って気品があるな」
「それ……どういう意味ですか」
セレナがジト目で問いかけてくる。
そのまんまの意味だよ、気にすんな。
それにしても王女様は本当に美人だな。
腰元まである金髪は純白のドレスに良く映えている。体型や顔つきはまだ幼いが、右目にある泣き黒子が色っぽく大人びていた。
アリーシャにリオンと呼ばれた王女様は、おっさんの元まで歩むと、
「どうかしらおじ様、あなたが勝てば魔王軍の事は騎士団にお任せします。ですが、もしおじ様が負けたのなら、この方のお力を借りる事に納得して下さい」
「王女様、万が一にも私が負ける可能性はあり得ませぬ」
すげー自信だな。
「私もおじ様が地に膝をつくお姿は想像できません。でも、騎士団長のあなたが負けたのなら下の者も認めざるを得ず、遺恨も少ないでしょう。どうかしらお父様、私の案は」
「あ、ああ……私は良いと思うぞ」
「……分かりました。王様や王女様がそう仰るのならば」
遂におっさんが折れて認めた。
可愛い顔してこの女すげえな、飾りの王女なんかじゃねえ。こりゃいつか傑物になるわ。
王様も娘にたじたじだし、おっさんも素直に言う事を聞いている。
……全く、男ってホントバカなんだから。
「あなたも、それでよろしいですか?」
「最初からこっちに拒否権なんて無いんだろ」
「あら、よく分かりましたね」
ふふっと意味深にほほ笑む王女様。
……女って怖えな。
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