王国騎士団長
「引き下がるのなら今しかないぞ、若造」
「俺のことより自分の心配した方がいいんじゃないか」
「口は達者だな」
場所は王宮近くにある闘技場。
なんでも普段は騎士達が訓練に使っていて、年に何回か冒険者や騎士による腕試しの祭りがあるんだとか。その祭りで優勝すると騎士団にスカウトされたりもするそうだ。だから騎士団には冒険者上がりも多くいるらしい。
今、観客席には多くの騎士達によって埋め尽くされている。
我らが団長にケンカを売った愚か者が現れたぞ、と噂が広まって瞬く間にこれだけの人数が集まった。
暇そうだな騎士団。俺も就職候補に騎士団を入れておこう。あっ地球に騎士団ねえや。
「はーい、熱々の焼き鳥にキンキンに冷えたエールはいかがっすかぁ!!」
「おう姉ちゃん、焼き鳥二本くれ!」
「こっちも頼む」
「俺はエールだ!」
「毎度ありですぅ。いやぁ安い原価の食べ物をぼったくり価格で売り飛ばせる祭りは最高ですねぇ。じゃんじゃん稼いじゃいますよぉ」
おい女神、そこで何をしている。
売り子なんてしてお前に女神としてのプライドは無いのか。……無いんだろうなぁ。
「さあ、どっからでも掛かって来い」
「戦う前に一つだけ言っておく事がある。俺は女に手を出さないが、野郎には一切容赦しねえからな」
「良い心掛けだ。そこだけは認めよう」
「どうも」
さて、どう戦おうか。一瞬で終わらせてもいいが、後でインチキだーとか文句を言われても面倒だからな。はっきりと力の差を見せつけるように戦ってやるか。
「行くぞ」
風の如く駆け出し、木刀を構えているおっさんに肉薄する。
俺の拳は回避されることなく腹部を捉えた。
「中々良い正拳突きだった。だがまだまだ鍛錬が足りんな」
「さいですか」
このおっさんわざと受けやがった。ちきしょードヤ顔がうぜえ、手加減しすぎたか。
「今度はこちらの番だな」
近距離から繰り出される鋭い剣戟を、俺は紙一重で避け続ける。おっさんの太刀筋は、大柄な図体に似合わず一太刀一太刀が洗練されており、卓越した技量を兼ね備えていた。なんだ、結構強えぞ。
「逃げ足だけは速いな」
「そりゃどうも。にしてもおっさん強えな、アリーシャと同じぐらい力があるんじゃないか?」
「勘違いされても困るな。特級の冒険者が四人しかいないだけで、それと同等かそれ以上の者は他にも多くいるぞ」
へえ、そうなのか。てっきりアステリアでは特級冒険者が一番強いんだと思っていたが、違うんだな。
避け続けるのも舐められてしまうので、俺は手の平で木刀を受け流したり、手の甲で弾いたりする。
「むっ!?」
「おいおいあのガキ、団長の攻撃を全て受け流してるぞ!!」
「そんな馬鹿な!?」
「団長手を抜いてるんじゃないか?」
「いや、まだ本気を出してはないが、いつもと同じだ」
さて、観客の反応も温まってきたし、そろそろ攻めてみようか。
「よっ」
「ぐっ!?」
木刀を払い、腹に膝を打ち込む。ちょうど殴りやすい位置に頭が下がったので顎に一発入れた後、頭を掴んでハンドボール投げのようにおっさんを投げ飛ばした。
「……」
「そんな……あり得ない」
「団長が一方的にやられるなんて」
信じられない光景を目の当たりにして騎士達が驚愕している。
仕方ないか、自分達の"最強"が子ども扱いされているんだから。
「……想像以上だな」
「はい、私も驚いています。あのおじ様が、あんな風にされているのは初めて見ましたわ」
王様や王女様も目を丸くしていた。
もう終わりか、これで気絶してたら拍子抜けもいいところだぞ。
「……やるな若造」
「だよな」
そう簡単に倒れはしないか。
と、不意におっさんの魔力が膨れ上がる。どうやら本気を出すようだ。顔つきも一変して鷹のように鋭くなっている。
ここからが本番だと言わんばかりのご様子だ。
「はあ!!」
気合が入った渾身の一撃。さっきまでのとは、威力も速度も段違いだ。
されど、俺には蚊が止まっているほど遅く見える。
「むっ!?」
「どうしたおっさん、王国騎士団長の実力ってのはこの程度のモノだったのか」
「舐めるなあ!!」
おっさんの力がさらに上がる。煽ったかいがあったな。
しかし、残念ながらおっさんの剣は一向に俺には届かない。まあ、こんなもんか。
「もう引き出しは無いようだし、終わらせてもいいよな」
木刀を弾き飛ばした俺は、目を見開いて一驚するおっさんの背後に周り込むと、
「必殺--蹴玉」
「--#$%%&@?¥!!?」
金玉を蹴り上げた。
おっさんは声にならない絶叫を上げると悶絶し、男の大事な所を抑えながら朽ち果てるようにその場に倒れた。
説明しよう。
必殺--蹴玉とは、敵の背後に気付かれないように現れ、金玉を蹴り上げるという男子小学生がやたらと大好きな技である。
しかし侮るなかれ、男性なら一度は経験があると思われるが、この技は割とマジで死ぬほど痛い。大の大人だって涙が出ちゃう。
そんなヤバい技を、俺がタマタマを潰さないようにしながら力を最大まで上げた蹴りだ。騎士団長だろうが何だろうが、この痛みに男が抗うのは不可能と言っていい。
「「……………………」」
勝負は決したが、闘技場はなんとも言えない雰囲気に包まれていた。
やっちまった感が半端ないな……なんかゴメン。
「伝令ッ!!魔物の軍勢が接近中!!魔王軍が攻めてきました!!!」
「何だと!?」
「すぐさま迎撃の準備を整えろ!!」
突然の魔物の襲撃により、騎士達が慌ただしく動き出す。
「助かりましたね」
「……ああ」
セレナが憐みの表情でポンッと肩を叩いてくる。
今だけは、この空気を変えてくれた魔王様に感謝だな。
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