真実
「ちっ……居ねえな」
「ねぇ……もしかして」
待ってもらっていた噴水の場所に、システィスとクルス先生の姿はなかった。
俺が離れていた時間は体感で十分から十五分程。その間に殺られてしまったのか?
いや、それにしてはこの場で争った形跡がない。通行人も素知らぬ顔だ。
抵抗する間も無く連れ去られたのか、システィスの自己判断で移動したのか……。
とりあえず、システィスの魔力の気配を探ってみるか。
俺は目を閉じ、意識を集中させ彼女の魔力を探る。
…………。
……見つけた。
良かった、今のところあいつはまだ生きている。
システィスの生存を確認出来て安堵の息を吐く。
だが、安心してられる場合でもない。
「ちょっと、システィスは無事なの!?」
切迫した表情で詰めかけてくるカタリナの肩に手を置いて「落ち着け」と言い、続けて、
「あいつは無事だ。まだ生きてる」
「そう……良かった。ならどこにいるの?」
「それがな、今あいつの気配を探ったんだが、何かに邪魔をされて居場所を特定出来ない。この近辺にいるって事は分かるんだけどな。そこで、だ」
俺はカタリナの両手を握る。突然を手を握られて「ぅえ!?」と変な声を出して困惑している彼女の目を見ながら、真剣な声音でこう言った。
「カタリナ、システィスを見つけ出すにはお前の力が必要だ。手を貸してくれ」
「う、うん。あの子の為なら、私は何だってするわ」
「良い返事だ。じゃあまず、目を瞑ってくれ。そしたらシスティスとの想い出を、魔力を強く思い出せ。あいつの隣にずっと一緒にいたお前なら出来るはずだ」
「分かった、やってみるわ」
カタリナが瞼を降ろす。と同時に、俺は握っている手からカタリナの魔力と同調した。
カタリナが意識する事で、俺はシスティスの魔力を強く感じ取れる。
……そこか、そこにいたのか。
「サンキューカタリナ、もういいぞ」
「見つけたの?」
「ああ、お前のお陰でな」
あいつは今――、
「――魔法学園にいる」
◇
「おや、見つかってしまいましたか。遮断魔法をしておいたんですけどねぇ。やはり君は侮れない生徒ですね、ヘイタ君」
「システィスを拉致したのはアンタだったのか……クルス先生」
「そんな、クルス先生が……どうして」
システィスの居場所が判明した俺達は、すぐさま魔法学園へと向かった。
学園の敷地範囲の最端、そこにはもう使われていない大きな古塔が建っている。
彼女はこの中にいるらしく、苔の生えた扉を開き塔の中に入ったら、薄暗い部屋にクルス先生が待ち構えていたのだ。
システィスと一緒に待っていた筈の、クルス先生が。
俺は彼を睨みつけながら尋ねる。
「この一連の黒幕はアンタだったのか」
「暗殺の件だったら見当違いですよ。あの件はとっくに終わってますし、私は彼女に死んで欲しく無かった訳ですから。まぁ、彼女を利用する為に死んで欲しくなかったんですけど」
……この野郎、自分が犯人だと告げられても動揺するどころか微塵も否定しねぇな。開き直れる強みを持っているのか?
「ここまで辿り着いたご褒美に本当の黒幕を教えてあげましょう。システィス君暗殺の件も、私が彼女を利用する事も、どちらもあのお方……シルヴィア共和国元王妃、シルベスタ様が企てたのです」
「……」
「なん……ですってッ?!」
真事実にカタリナが喫驚する。俺は大体王族の中の誰かだろうと予想していたので、そこまで驚きはない。なんせ、学園長が手出し出来ない相手だからな。
「何でよ……何でシルベスタ様にシスティスが狙われなきゃいけないのよ!?」
「システィス君には、王家の血が流れているからです」
「えっ……」
「おや、親友の君でも真実は聞かされてませんでしたか。……いや、もしかしたら本人でさえも知らなかったかもしれませんね。ふむ、この事を知っているのは学園長だけでしたか」
いや、待て、何かおかしい。
そうだ……確か初めて会った時、カタリナもシスティス自身も狙われている理由を知っているようだった。なのにカタリナは驚いている。どういう事なんだ?
「私がシスティスから聞いたのは、自分が元大貴族の妾の子だからかもしれないって事よ。アトラティウスで学園長に会った時、確認してみたらその通りだと言われたって……」
じゃあ学園長さんが意図的に本当の事を隠して、システィスが勘違いした事実をそのまま伝えたんだな。
あの人が知らない訳ないだろうし、何で嘘をついたのかは分からんけども。
「システィス君に王家の血が流れているのをシルベスタ様がご存知になったのは、つい最近の事だったそうですよ。あのお方にとって、彼女の存在は邪魔だったんでしょう。そして気に食わなかった。何故ならシスティス君は、元王様が学園時代に平民の娘との愛で生まれた子だったんですからね」
「……なっ」
一々驚いているカタリナを他所に、俺は酷く呆れていた。
おいおい王様、ハメ外しすぎだろ……王様なら自重しろよな。
「どこぞの誰とも知らぬ女とデキた子供の存在をシルベスタ様が気にいる訳ないでしょう、それはもう憤慨したはずです。政治的にも厄介な存在ですしね。だからあのお方は暗殺者を雇って彼女に仕向けた。手頃の暗殺者を雇った理由は、何かあっても使い捨てにする為です。大物の暗殺者を雇って万が一にも失敗したら、足がついてしまうと懸念したからでしょうね」
あー、だから最初襲ってきた奴等は雑魚だったのか。それから段々敵の実力が上がっていたが、俺にとっては誤差の範囲でしかなかったけどね。
「だが、雇った暗殺者は悉く君に追い返されてしまった、路上に素っ裸でね。だから一旦、あのお方はシスティスから手を引いたのです」
は? じゃあさっきほ奴等は何なんだよ。
「あれは暗殺ギルドが勝手にやった事です。私達は関係ありませんよ」
マジか……ってそんな事は今更どうだっていいんだよ。
「システィスとアンタの関係は何だ。あいつを利用して何をしようとしてやがる」
「そうですね……それを説明する前に、まずはこれを見てもらいましょうか」




