蹂躙
「ほら、これ着てろ」
「あ……ありがと」
脱いだ上着を、服を切り裂かれて胸が見えそうになっているカタリナに手渡す。
彼女の状態を確認して、申し訳ない気持ちで謝罪した。
「すまねぇ、来るのが遅かった」
カタリナの気配を探って来たのだが、この場所――古びた倉庫を見つけるまで時間がかかってしまった。
その所為で、カタリナがあんなカス野郎に穢されてしまったなんて……。
「ううん、私は大丈夫よ。手を出される前にスラ太郎が助けてくれたから」
「……スラ太郎が」
そうだったのか。偉いぞスラ太郎、そしてありがとな。お前の仇は俺が取ってやる。
「カタリナ、目を瞑っておいた方がいいぞ。俺が今からするのは、絵面がキツいからな」
予め注意するが、彼女は首を横に振って、
「平気よ」
「……分かった。少しだけ待っててくれ、すぐに片付ける」
そう言って、俺は暗殺者共に体を向ける。
先に言っておこう、俺は今かなりブチ切れている。
大切な仲間であるスラ太郎を殺されて、どうしようもなく怒り狂っている。
だが、その感情を爆発させる事は出来ない。
何故なら、このまま戦ったら敵全員の体を木っ端微塵に爆発させてしまうし、下手したら余波でカタリナを巻き込んでしまう恐れがあるからだ。
そう。
COOLだ。COOLにぶっ殺す。
無理矢理精神を落ち着かせる俺は、一人目に狙いをつける。
こちらの様子を窺いながら笑っているクソ野郎、まずはお前からだ。
動く。
知覚されない速度でクソ野郎の背後を取り、頭を掴んで地面に叩きつける。さらに横っ腹に蹴りを入れて、肋骨を二、三本折っておいた。
「あ"……がっ」
これで一人目。
瞬く間に仲間が一人殺られたことで(殺してはいない)、敵陣は警戒レベルを最大限にまで上げる。
いや遅いから。アルフレッド君じゃねえんだから俺相手に油断してんじゃねえよ。
さて、敵の数は十二……一人倒して十一人か。ちょっと多いからサクサクいこうか。
全方位から飛来する暗器を両手の甲で弾き、その隙に強襲してきた奴の剣戟を紙一重で躱し、顔面に高速三連パンチを打ち込んでから回し蹴りで吹っ飛ばす。
二人目。
「舐めるなッ!!」
「死ね!」
「ハァァアッ!」
今度は三人同時に仕掛けてきた。
一人は剛鉄の矢、一人は炎球の魔法、一人は鞭のような物を振るってくる。
俺は剛鉄の矢を鷲掴み、炎球を放った奴に投げつける。
「ぐあっ!?」
矢は肩に直撃。
次いで、迫る炎球を矢を射った敵に向かって蹴り飛ばす。俺の脚力で蹴られた炎球は速度を加速させ着弾。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!!」
轟々と体を燃やし尽くされ、敵は悲痛に絶叫を上げた。
三人目。
今の内に向かってくる鞭を掴み、思いっきり引っ張る。一本釣りのように打ち上げられた敵を、矢を貫かれて怯んでいる奴へと叩きつける。
「「ぐえ……」」
二つ重なった体へと、真上から両足で踏み潰した。
四人目、五人目。
良いペースだ。このまま残りも片付けちまおう。
「おっと」
俺が他の敵に気を取られている間に、カタリナを狙う奴がいた。恐らく俺がカタリナを守ろうとしている隙を見て殺っちまおうって魂胆なのだろう。そういうズル賢い事はしちゃいけません。
先回りし、鳩尾に膝をぶち込んで動きを止める。
それと同時に武器やら魔法が飛んできたので、動きを止めた敵の頭を掴んで盾代わりにして、攻撃を防ぐ。
俺の代わりに全ての攻撃を受けきって気絶したこいつは邪魔なので、そこら辺に放り捨てた。
六人目。
すると、毒々しい紫色の煙が迫ってきた。
多分毒だろう。俺に毒は効かないのだが、カタリナがいるので拳圧で吹き返してやる。
毒煙……いや毒の突風を受けた敵は、泡を噴きながらぶっ倒れた。
死んでないといいけど……まぁ毒使いなんだから毒の耐性ぐらいあるか。
七人目。
また三人同時で攻撃してきた。だが今度は三人とも顔も体格も全く同じた。
分身じゃなければ兄弟だろう。そうなると三つ子ちゃんかな?
三兄弟は飛び道具を用いず、純粋な体術で向かってくる。
何かの拳法かな? 構えとか拳の突き出し方とか独特だし。
けど、いかんせん拳速が遅い。ノロマすぎる。後百年修行してから出直してきな。
「あごっ」
「ばっ!?」
「ぶげ!」
仲良く三人同時に顔面を殴る。顔の原型が変わって、これからは区別し易くなったかもな。
八、九、十人目。
「この化物がぁぁあああッ!!」
破れかぶれで突貫してきた残念な奴の顔を掴んでそのまま地面に叩きつける。
「ぶっ……は……」
「化物に手を出したテメェが悪い」
十一人目。
「ひ、ひぃぃぃぃ!??!」
「おいおい、逃す訳ねーだろ」
「ひぎゃ?!」
この惨状を見て勝てる相手ではなないと諦めたのか、尻尾を巻いて逃げようとする。
そいつの襟首を掴んで捕まえ、顎にアッパーを放ち踵落としで締めだ。
十二人目。
「これで終わりっと。思ってたよりも早く片付いたな」
パンパンッと手をはたきながら、呆然としているカタリナへ向かう。
「アンタって、本当に強いのね……」
「あったり前だろ、こんくらい朝飯前だ。俺を誰だと思ってやがる」
「ふふ、それもそうね」
安堵したようにカタリナがクスリと微笑む。
良かった、少し落ち着いたようだな。
「ば、馬鹿な……灼熱のカラゲ、鋼鉄の狙撃手リンドウ、暗殺拳法の達人ブルゾン兄弟。どれも上級冒険者を遥かに凌ぐ猛者達だぞ。俺の自慢の部下だ。それが……こんなクソガキ一人にやられたっていうのかッ」
ああ、まだこいつが残ってたな、うっかり忘れてたわ。
何だっけ、カス? クズ?
「カースよ」
そうそれだ。別に名前なんてどうでもいいけど。
にしてもこいつ、もう動けるようになったのか。動けないように殴ったんだけど。
……もっと強く殴っておけばよかったぜ。
「何だよ、何者なんだよテメェは!?」
カスが怯えながら問いかけてくる。なので、俺はこう答えてやった。
「平坂平太。こいつ等の師匠だ」
「……ッ」
「し、師匠だぁ? ふざけるな、ふざけんなぁぁああッ!!」
さぁ、終わらそうか。
トチ狂ったように吠えるカスは、両腕に漆黒の光を纏いながら迫ってくる。
「【黒死無爪】ッ!!」
「うるせえ」
「うごぉぉおお!!?」
少し力を込めて拳を突き出す。ただそれだけで、カスは必死の攻撃を届かせずにぶっ飛び、倉庫の壁を突き抜けて消えていった。
「んじゃ、帰るか」
「……そうね」
敵を壊滅した俺は、座っているカタリナに手を差し出そうとする。
と、その時、
「ぽよ!」
「うお!? スラ太郎、お前生きてたのか!」
「ぽよよ!」
「勝手に殺すなって? はは、悪い悪い」
「嘘……」
死んだと思っていたスラ太郎が俺の胸に飛び込んでくる。形も液状じゃなくて、ちゃんとした玉状だ。
カタリナは生きていたスラ太郎を見てビックリしている。
それも無理はない、俺だってスラ太郎は死んだと思ってたから。
現に、スラ太郎の生命気配を感じ取れなかったし。
でもいいや、こうして生きてくれたんだから。
俺はスラ太郎を頭に乗せ、カタリナを抱き上げる。
「きゃ!? ちょ、ちょっと何にすんのよ」
「悪い、時間を使っちまったからな。このまま行くぞ」
「しょ、しょうがないわね!」
カタリナの顔が急速に赤く染まる。そんなに怒んなくたっていいじゃねえか。
心がちょっと傷ついた俺は、カタリナを抱いたままシスティスの元へ向かったのだった。




