死刑宣告
「テメェ等三人はいつも一緒にいるから厄介だったぜ。夜襲するにも、あのクソ魔女がいる屋敷には手が出せねえしな。だからお前さんが一人で行動してくれて助かった。これであのクソガキがお前を助けにノコノコと殺されに来てくれるんだからな」
「……はん。アンタ達じゃ猫の手借りたってヘイタには勝てないわ。今の内に大人しく帰った方が身の為よ」
目の前にいるこの男も、相当な手練れだろう。それはこの者から溢れ出る、嫌な雰囲気で何となく理解出来る。
だが、あれでも平太は勇者だ。
海竜ダイダロスを糸も容易く撃退した平太が、負けるとは露程も思えない。
この場に敵の数がどれだけいるかは分からないが、彼ならきっと何とかするだろう。
カタリナの楽観的な思考は予想通りだったのか、カースは不気味に口元を歪め、
「俺等も馬鹿じゃねえ。クソガキがそこら辺の冒険者よりも強えってのは承知済みだ、現に何人もやられてるしな。だが奴は俺達に指一本触れられねえ、何故だかわかるか?」
「……」
「"この女を殺されたくなかったら動くんじゃねえぞ"って命令するからなぁヒャハハハハハハハッ!!」
「げ……下種が!」
高笑いするカースに向かって、カタリナは睨めつけながら罵声を飛ばす。
か弱い少女の言葉などかわいいものなのか、カースはベロッと舌を垂らし、
「よく分かってんじゃねえか、俺等は下種なんだよぉヒヒヒハッ。だからお前に何を言われようとなんとも思わねぇ」
「ぅぐ」
カースはカタリナの前髪を掴み上げ、取り出したナイフで肌を撫でる。
「ひ……」
「いいねぇその脅えた顔、さっきまでの威勢の良さはどこいったんだよ、あん? "こんな大きな胸でよぉ、誘ってんのかぁ"?」
「いや……やめて……」
「お前の穢された姿を拝んだ時のクソガキを見るのも一興だなぁおい。そしたら俺等の溜飲もちったぁ下がるってもんだ」
カースはナイフでカタリナの服を切り裂く。服が縦に真っ二つになり、彼女の胸部が晒されてしまう、その刹那、
「きゃあッ!」
「ぽよ!!」
「うぶ?!」
切り裂かれた服の中からスラ太郎が飛び出し、カースの顔面に突撃する。
突然の事で不意をつかれたカースは、スラ太郎の体当たりを避けきれず一歩蹌踉めいた。
「何だこのスライム!?」
「スラ太郎……アンタいつのまに……」
「ぽよ!」
カタリナを守るように、スラ太郎がカースの前に立ちはだかる。突如現れた味方に、恐怖で脅えていたカタリナの震えが止まった。
たかがスライム。だが、この絶望的な中、知っている仲間が側に居てくれるのはとても心強い。
しかし、スライムはスライム。最弱の魔物であるスラ太郎の力では、この状況を打破する事は不可能であった。
「ちっ、スライム如きが恥をかかせやがって。邪魔だから消えとけ」
「ぽよーーーーー!」
「スラ太郎ッ!!」
ナイフを一振り。それだけで、スラ太郎は真っ二つに裂かれ地に崩れる。
「スラ……太郎ッ」
「さて、邪魔されちまったが、お楽しみの続きといこうじゃねえか」
スラ太郎だった液状のモノを見つめて涙を流すカタリナに、カースの魔の手が迫る。
――その時だった。
ずどんっ!!!
と、けたたましい破砕音が鳴り響く。
暗い室内に光が差し込み、明かりの中から一人の少年が現れた。
「おう、早ぇじゃねえか。よくこの場所を嗅ぎ付けたな」
「ヘ……ヘイタ」
その少年は、カースの待ち人である平太だった。
カタリナは少年の姿を目にして安堵するが、自分の所為でこの状況を作ってしまい申し訳ない気持ちで一杯でもあった。
「……」
平太は眼球を動かし、瞬時に状況を把握する。
平太を取り囲むように12人。
服の前がパッサリ切られて拘束されているカタリナと、彼女の首筋にナイフを当ててこちらの出方を窺っている入れ墨の男。
二人の近くに、澄んだ空色の液体。平太はその液体に見覚えがあつた。
「……スラ太郎」
「ごめんヘイタ……スラ太郎は私を守ろうとして……」
「……そうか」
平太は静かに目を瞑る。たった一人でカタリナを助けようとしてくれた仲間に、心の中でありがとうと感謝を告げた。
「お前等」
一歩踏み出す。踏んだ地が割れ、砕かれ、地面が揺れる。
「よくも俺の弟子と仲間に手を出してくれたな。五体満足で帰れると思うなよ」
「おっと! それ以上近付くんじゃねえ! お前が一歩でも動けば、この女を殺す。殺されたくなかったら、抵抗するんじゃねえぞ」
「……分かった」
「ほぉ……よく分かってんじゃねえか。おいテメェ等! そのクソガキを痛めつけち――」
そこから先、カースは言葉を発する事が叶わなかった。何故なら、
「ぐぼぉッ」
いつのまにか、その場から平太が姿を消し、話している最中のカースの顔面をぶん殴ったからだ。しかも、ナイフを持っていた腕も反対方向に折れ曲がっている。
吹っ飛ばされたカースは壁に激突し、血反吐を吐き散らす。
(馬鹿な、何が起こったんだ。気付いたら壁に叩きつけられてたぞ。殴られる事すら察知出来なかっただと……この俺がッ!?)
カースは朦朧とする意識の中、そんな馬鹿な事があるかと酷く混乱していた。
一瞬。ほんの一瞬平太から意識を外しただけで、自分が反応出来ない筈があるか、と胸中で強く否定する。
だが、カースが平太に殴り飛ばされたのは、紛れもなく事実である。
「お前は一番最後だ。まずは邪魔な奴等を掃除する」
「「…………」」
今の発言で息を呑む暗殺者達。平太は指の骨をパキッと鳴らしながら、続けて言い放ったのだった。
「言っておくが、一人も逃がさねぇからな。それと素っ裸で放り出されるだけと思うな、一人残らず半殺しにしてやる」
今日はもう一話更新予定です!




