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暗殺ギルド




「そ、そういえばカタリナ遅いですね!」


 ちっ、露骨に話を変えてきやがった。


「そうだな。近い所だからすぐって言ってたんだが……」


 それにしてはちょっと遅いな。


「「まさか」」


 俺とシスティスの言葉が被る。恐らく、考えていることは一緒だ。


「カタリナに何かあったんじゃ……ッ!」

「焦んな、まだ決まった訳じゃねえ」


 とは言ったものの、十中八九何かあったんだろう。でも俺が動く訳にはいかない。


 敵の狙いはシスティスだからだ。こいつを置いて俺が一人で助けに行くことは出来ない。


 だからといってシスティスを連れて行くには危険だし、その間に何もなかったカタリナが帰ってくる可能性もある。

 入れ違いの場合も無くはないから今はこの場を動けない。


「あれ、ヘイタ君とシスティス君じゃないか。もしかしてデートかい? いやぁ青春だねぇ」

「「クルス先生!!」」


 焦っている俺達に声をかけてきたのは、担任のクルス先生だった。

 アンタこそ、こんな所で何してんだよ。


「えっ僕かい? 恥ずかしながら僕は甘党でね、お気に入りの甘菓子店に行って来たんだよ」

「せ、先生! そのお店って、この近くにあるお店ですか!?」

「そうだけど……どうかしたのかい?」

「カタリナは……カタリナを見てませんか!?」

「カタリナ君かい? うーん、僕は見てないけど」

「そう……ですか」


 クルス先生からカタリナを見ていないと聞いて落ち込むシスティス。


 でも俺的には中々ナイスなタイミングだ。この先生は優男で頼りなさそうな感じだが、これでも魔法学園で戦闘を教えるほどの人だ。かなりの実力者で間違いないだろう。


 カタリナを見つけて、問題解決するぐらいの時間は、システィスを守ってくれるはず。俺なら時間をかけずカタリナを救出できるしな。


「クルス先生、ほんの少しの間ここでシスティスと居てくれませんか」

「それはいいけど、何があったんだい?」

「説明している暇はありません、システィスから聞いて下さい」

「ヘイタさん……」


 心配そうな表情で俺を見つめる。俺はシスティスの肩に手を置いて、落ち着かせるように話す。


「大丈夫だ、絶対にあいつを連れてきてやる。安心して待ってろ」

「はい、お願いします」

「ああ、任せろ」


 システィスをクルス先生に預けて、俺はカタリナを探しに向かったのだった。






「……うっ」


 薄暗い空間内で目を覚ましたカタリナは、ようやく開いた瞳に周囲の光景を映し出す。

 しかし、周囲に何があるのかをはっきりと視認することは出来ない。


 鈍色の壁に囲まれたその光景は、暗がりのこの場所において闇一色だ。


 体を起こそうとした瞬間、カタリナはすぐに異変に気付く。

 腰の後ろで、金属の何かが自分の手首を拘束していて、体を起こそうとした矢先、じゃらりと鎖の音が鳴った。


 体を捻り、首を回し、後ろで固定された自分の手首を見れば、枷に縛られた手首が、床から生える鎖と繋がっているのが分かる。


 その状況を理解した時点で、側から耳障りな男の声が聞こえた。


「おっと、起きちまったか」

「ア……ンタは……」


 カタリナは顔を上げ、声を発した男を見る。男の顔には入れ墨が彫ってあった。顔だけではなく、素肌の手足にもあることから、全身に入れ墨が彫られていることが分かる。


 頭に黒いバンダナが巻かれ、目の下には大きなクマがあった。

 明らかにカタギの人間ではない。


 この入れ墨男と、拘束されている状況から非常に最悪な展開だと思ったカタリナは、胸中で悪態をつく。


(なに捕まってんのよ、私の馬鹿!)


 気を失う前の記憶を掘り起こす。


 お気に入りの甘菓子を買ってくると言って平太達と別れたカタリナは、全く敵組織のことを警戒していなかった。


 平太に買ってもらった紅色のネックレスを手に持って浮かれていた時、首に強い衝撃を受けて気絶してしまった。


 注意していたからといって敵に捕まらないかと言われれば実力的に考えて否であるが、本人的には抵抗出来ずまんまと敵の手に落ちた自分が許せない。


 しかも、こうしてまだ生かされているという事は、十中八九自分を囮にするつもりだろう。


 己の軽率な行動で、親友を危険な目に合わせてしまうかもしれない。


 カタリナは、自分への怒りで奥歯をぐっと噛みしめた。


「殺して……」

「あん?」

「私を殺しなさい! 私の所為であの子が死ぬくらいなら、死んだ方がマシだわッ!」


 精一杯の虚勢をはる。が、これは間違いなく彼女の本心でもあった。


「「くっくっくっくっく」」

「え……?」


 複数の笑い声が木霊する。てっきり入れ墨の男一人だけだと誤解していたカタリナは驚愕する。

 そんな彼女に、入れ墨の男が心底可笑しそうに口を開いた。


「勇ましいねぇ、友情だねぇ。お友達の為に思ってもない事を言えるんだからなぁ、お兄さん泣けてきちゃうよぉ」

「私は本当に……ッ」

「気付いてないのか? お前、起きた時からずっと震えてるぜ」

「ッ……」


 男の言う通りだった。

 強気な発言をしているが、カタリナの体や声音は、恐怖でガタガタと震えている。


 気付かないようにしていたのに、その情けない事実を気付かされてからさらに震えが増していった。


「そうやって小動物のように震えていると可愛いじゃねえか。つい嬲り殺したくなっちまうよ」

「……」

「そんなビビんなって、まだ殺さねえからさ。思っている通り、お前は囮だ」

「……あの子に、システィスに手を出したらタダじゃおかないからねッ!!」

「勘違いしてるみたいだが、俺達の狙いは嬢ちゃんじゃねえよ」

「は?」


 システィスではないと聞いて困惑してしまう。彼女ではなかったとしたら、一体誰をおびき出すというのか……。


 システィス以外に、カタリナを助けに来る人間なんて――、


「俺達の狙いは、護衛のクソガキの方だ」

「護衛って……ヘイタの事? 何で、何でアイツなのよ!?」

「あのクソガキにギルドの奴等がどれだけやられたと思ってやがる。有象無象の雑魚がいくら殺られようが構いやしねぇが、このままじゃ暗殺ギルドのメンツが丸潰れなんだよ」


 彼の名はカース。

 暗殺ギルドにおいて、三番手に位置する人間だ。


 カースは別に、システィス暗殺など興味はなかった。明らかにきな臭い案件だし、手を出すメリットは少ない、普段だったら絶対この依頼を引き継がなかっただろう。


 しかし、暗殺ギルドのメンバーが、たった一人の少年にことごとく邪魔され失敗してしまう。


 それは、暗殺ギルドの信頼が失われると同時に、他の同業者にナメられてしまう事態に陥っていた。カースはそれが許せない。


 なのでシスティスの命など二の次でしかない。本命は平太をぶち殺す事だった。

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