驕り
「――ッ!」
「ッ?!」
先手を打ったのはシスティスだった。開始合図と同時、アルフレッドへと疾駆する。
「ノコノコ自分からやられに来るとはな!」
「ショックボルトッ!」
システィスは駆けながら右手を掲げ、下級魔法の雷撃を放つ。
魔法を唱える時間が与えれなかったアルフレッドは、自信の前面に魔力障壁を展開する。
下級魔法程度なら、魔力による障壁だけでも防ぎきれるからだ。
だが、障壁を展開する意味は無かった。何故なら、ショックボルトはアルフレッドの手間で着弾したからである。
「馬鹿がッどこを狙っている!」
「……」
『雷の性質って何だと思う?』
『うーん、発動してからの到達が速いことや、麻痺させたり……とか?』
『勿論それらも重要な要素だ。けど、雷にはまだ"閃光"っていう性質がある』
『閃光……ですか?』
『ああ。閃光、つまりは目眩しだな。雷は発現するだけで強い光を放つ。相手に直接当てずとも、一瞬だけ視界を奪える。ならその一瞬で接近し――』
(『本命をぶちかませ』ッ!!)
システィスは跳んでいた。
平太との修行で身体の動作中にも魔法を発動出来るようになった彼女は、両手を掲げ雷の斧を顕現させる。
「ボルトアックスッ!!」
「くっ! シールドアイスッ!」
危機を感じ取ったアルフレッドは防御魔法を行使する。
「はぁああああああああッ!!」
「ぐ……ぉぉおおおおおッ!!」
裂帛の声を上げるシスティスが、両手を振り降ろした。
ジバババッ! と電撃音が鳴り響く。力が互角だったのか、雷の斧と氷の盾は衝突後、相殺し爆散した。
だが、彼女の攻撃はこれで終わりではない。
『お前等魔法使いは、殴る蹴るといった格闘をしない。それは魔法使い同士での戦いなら大きなチャンスになる。だって敵は、こっちがどれだけ殴り倒しても反撃して来ないんだからな。だから俺は、二人に近接戦闘の初歩を教えてやる』
『『うわぁ……』』
『露骨に嫌そうな顔すんなって。絶対役に立つからさ』
(ヘイタさん、早速使わせてもらいます!)
魔法が相殺した直後、システィスは更に踏み込んでいた。
肉薄し、驚愕の表情でこちらを見ているアルフレッドの顎を蹴り上げる。
「はっ!」
「ごはっ」
まだだ。
顔を蹴られた事で上体が反り上がった彼の胴体は、殴って下さいと言わんばかりにガラ空き。
システィスはスッと腰を落とし、平太に習った通りに拳を突き出す。
「はぁぁあッ!!」
「うご……」
腹部に直撃。
まだ終わらない。畳み掛けるように追撃する。
ゼロ距離から、雷撃を撃ち放った。
「ショックボルトォオオッ!!」
「ああああああああああああああああああああッ!!!」
電撃が直撃したアルフレッドは絶叫を上げる。その身体からは、プスプスと煙が立ち上がっていた。
「そこまで! アルフレッド君は戦闘続行を不可能とみなし、システィス君の勝利とします!!」
「「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」
クルスの宣告により、システィスの勝利が決まる。その瞬間、観戦していた生徒達が一斉に沸き出した。
「システィスが勝っちまったぜッ!」
「うん、格好良かった!」
「あいつ、長期休暇明けで滅茶苦茶強くなってんじゃん」
「少し泥臭い所はあったけどな。勝ちは勝ちか」
まさかの番狂わせに興奮を抑えられない生徒達。
「凄い、凄いわ」
それはシスティスの戦いを見守っていたカタリナや、
「私、本当に勝ったんだ……」
勝利した本人も同様だった。
と、その時。クルスに回復魔法をかけてもらったアルフレッドが茫然と呟く。
「僕が……負けた?」
「そうです、君の負けですよ」
「くっ!!」
クルスに事実を告げられ憤慨したアルフレッドは、ズカズカとシスティスに歩み寄る。
「僕が負けただと!? そんな馬鹿な筈があるか! 上級魔法を使っていたら、システィス如きに負ける訳がない!!」
「うるせーな、負けは負けだ、大人しく認めろよ」
システィスを守るように、怒鳴り散らすアルフレッドの眼前に平太が立つ。
「上級魔法が使えたら? 馬鹿かよアルフレッド君。使わなかったんじゃねぇ、使わせてもらえなかったんだよ」
「何だと……?!」
「魔法を使う前にこいつに瞬殺された、ただそれだけの事だろ。お前の敗因はシスティスを侮っていたことだ。余裕ぶっこいて後手後手に回ったんだよ。お前はこいつだけに負けたんじゃねぇ、驕り上がった自分にも負けたんだ」
「…………」
諭すように正論を突きつけられ、ぐうの音も出ない。唇を強く噛み締める彼の顔は悔しさで満ちていた。
「まだ何か言いたい事はあるか」
「ふん……癪だが認めよう。今回は僕の負けだ。……システィス!」
「は、はい?!」
「この敗北は忘れない。次は絶対に負けないからな」
そう言うと、アルフレッドは踵を返し訓練場を出て行こうとする。まだ授業中なのでクルスが引き止めようとしたが、彼は無視し去って行ってしまった。
でも……とクルスは考える。
いつものアルフレッドなら納得せず喰い下がっていただろうと思うと、自身の敗北を早めに認めた彼は成長したのだなと関心する。
それと同時に、アルフレッドを諭した平太を"危険な存在"だと認識した。
「ヘイタさん、私アルフレッド君に勝てました!」
「ああ、見てたよ」
満面の笑みで報告してくるシスティスの頭を撫でた平太は続けて、
「勝利は自信になり、努力の裏付けとなる。よくやったじゃねぇか」
「……はい!」




