関係
平太とアシェリーが船長室で今後の方針を練っている間、セレナ、システィス、カタリナ、ポチ、スラ太郎は船のデッキで、流れ行く大海の眺めを満喫していた。
「ポチースラ太郎ー見て下さい、海ですよ海ぃ! 凄くないですかぁ!」
「ブルッ」
「ぽよ」
特にセレナは海を目にしたのが初めてなのか、誰よりもはしゃぎまわりポチやスラ太郎に絡んでいる。
そんな女神達を見守りながら、システィスは隣に佇むカタリナに尋ねた。
「ヘイタさんと学園長……何を話してるのかな」
「さあね、学園長はアイツを知ってるみたいだったけど……。って事はやっぱり……」
「ヘイタさんは、魔王を倒した勇者に間違いないって事だよね」
「"アレ"がねぇ……」
カタリナは冴えない少年の顔を思い浮かべながら呟く。
見た目や性格を考えてみれば、平太が選ばれた勇者なんて未だに信じられない。
彼女達が抱く理想の勇者像とは、聖剣を携え、白銀の甲冑を纏った美男子なのだ。
それが蓋を開けてみたら、魔法学校の同級生のモブ男と何ら変わらないではないか。
妄想の勇者像を平太に押し付けるのも失礼だが、乙女の夢が儚く散った彼女達の心境も分かるといえば分かる。
そんな感じで二人が落胆してると、セレナが近寄ってきた。
「あの、少しいいですか」
「何ですか?」
「お二人と学園長さんは凄く親しそうですけど、どういった関係なんですか?」
「……」
セレナが疑問を抱くのも無理はない。
学園長というのは、恐らく学校の最高責任者なのだろう。そんな人物が、一生徒に対してこれ程までに親しく接するものだろうか。
セレナはアシェリーとシスティス達のやり取りで、それ以上の関係性があると感じ取ったのだ。
「……」
システィスはその問いに対し口を開くべきか迷いながらも、やはり話すべきだと思った。
何故なら、平太とセレナも嘘偽りない身の上話をしてくれたからだ。
ならば、こちらも誠意を持って語るべきだろう。短く深呼吸したシスティスは、金眼を青き海に向けながらそっと唇を開いた。
「私が生まれた時には既に父がいなくて、母しかいなかったの。けど、その母も数年前に病で亡くなってしまって……身寄りを無くした私を引き取ってくれたのが、母と仲が良かった学園長なの。それ以来、学園長は私に凄く良くしてくれて。私にとって学園長は、母というか姉みたいな存在なんだ」
「そう、だったんですか。すいません……出過ぎた事を聞きました」
「気にしなくていいですよ。母が亡くなったのは悲しいですけれど、学園長のおかげで今の私は凄く幸せですから」
気軽に聞いて重い過去を思い出させてしまって気を落とすセレナに、システィスは気にしなくてよいと笑顔を見せる。
そんな彼女につられて、セレナはしんみりとした空気を変えようと違う話題を振った。
「そ、そういえば、これから向かうシルヴィア共和国ってどんな国なんですか?」
「それについては私が教えてあげるわ」
問うと、今まで空気を読んで黙っていたカタリナが、シルヴィア共和国について丁寧に説明してくれる。
カタリナの話しを要約すると、こんな内容だった。
シルヴィア共和国とは、人間、獣人、エルフ、ドワーフの四種族のトップを代表に据え、他にも様々な種族が生きている多種族国家だ。
が、多種族国家と言っても、国民の七割は人間なのである。
それもその筈、シルヴィア共和国は元々人間を王とした『シルヴィア王国』だったのだ。
しかし数年前、人間による『人間主義』や『貴族制度』を覆す為、人間以外の多種族が力を合わせた。
その奮闘により王政と貴族制度が廃止され、民衆投票による代表制が生まれたのだった。
だが残念なことに民の数は圧倒的に人間が多く、四人の代表の中でも人間の力が強く、国の政治を行っているのもほぼ人間といっても過言ではない。
あらかたのお国事情を聞き終えたセレナは、「ああ、そういう事だったんですねぇ」と気になっていた問題に納得を得た。
「学園長さんが元大貴族って、そういう意味だったんですね。私てっきり、何かいけない事をしてしまって爵位を剥奪されてしまったんだと思ってました」
「馬鹿ね、爵位を剥奪する程の事件をやらかした人間が栄誉ある魔法学園の学園長になれる訳ないじゃない」
「それもそうですね」
と、その後も楽しく三人でお喋りをしている時だった。
ドンッと突然強い衝撃が起きたと共に船が大きく揺れる。
何だどうしたと慌てていると、デッキの手摺からカタリナが海の上を指し示した。
「見て、魔物だわ! それも多い!」
「えええええええええっ!?」
「あっちにもいる!」
セレナとシスティスもカタリナの側に寄り確認する。船の周りに、海に生きる魔物がぐるっと取り囲んでいた。
「か、囲まれてる!?」
「うげ、うじゃうじゃいますぅ」
「どうしよう……」
魔物の出現に困惑する三人。どう対処すればいいのか悩んでいると、平太とアシェリーが異変に気付いてデッキにやって来る。
「おーい、何があったんだー」
「どうせ魔物でしょ」
「ちょ、何呑気な事言ってるんですか! 襲われてるんですよ!」
緊張感の欠片も感じられない二人にカタリナが大声でツッこむ。巫山戯たやり取りをしている間にも、魔物は船を攻撃しているのだ。




