尋問
「二人を殺ったのは貴様かッ」
「いやいや、殺ってねぇから」
ちょっとボコっただけだから。危うく殺しかけたけど……。
深夜。
同じベットで寝ているセレナから漂う甘くふんわりとした香りを堪能していたら、敵の気配を感じ取る。
起こすと悪いから、そっと静かにベットから出ようした。が、寝ていた筈のセレナの蒼い瞳が、俺を捉えていた。
「わり、起こしちまったか?」
「いえ、ずっと起きてましたよ」
おいセレナさん? もしかしてあんさん、気がついてました?
「はい、平太さんが私の隣でハァハァしてるのは気がついてましたよ」
「…………すまん」
うわー、バレてたんかー。
……恥ずか死ぬッ!
「来たのですか?」
その問いに、違うベットで寝ている二人を起こさないよう小声でやり取りを行う。
「ああ。あいつ等のお客さんがな。気配を隠しているようだが、来てるよ。相手してくるわ」
「気をつけて下さい」
「心配する必要はねぇよ」
「はい、平太さんの力は疑ってません。ただ……」
その後の言葉を飲み込むセレナ。何が言いたかったのか考えると、昼間の一件が脳裏を過る。
そうか……こいつはそっちの心配をしてたのか。
「安心しろ、お前のお陰で落ち着いたから大丈夫だ」
「良かったです。待ってますから……」
「いいよ、寝てろ」
部屋を出て、屋根に登りお客さんを出迎える。
どうやら敵さんは、俺にバレたのが意外だったのか、驚きを隠せずにいた。
今回の敵は一人だけだった。
格好は昼間襲ってきた奴等と似通った黒装束。実力は昼間の二人より相当な手練れだが、俺にとっちゃ同じようなもんで。気絶しない程度で、かつ抵抗が不可能なぐらいボコってやった。
何故気絶させなかったのかというのは、こいつから情報を聞き出す為である。
「ぐ……貴様、何故私の気配が分かるッ!? もしや私の闇魔法が通用していないとはッ」
「あーアレ魔法だったの? やけに探すのが手間だったけど、そういう事か」
気配を遮断する魔法は、一度経験済みだ。帝国にいる特急冒険者のアルメリアさんが使っていた気がする。
ただし、彼女の気配は完全にシャットアウトされていて、俺でさえ最後まで攻略する事が叶わなかったのに対し。
こいつの場合は、「ちょっと分かりにくいな」程度の問題だった。やっぱり術者によって練度は違ってくるよね。
「貴様は一体、何者だ。貴様程の強者が、何故あの二人を護衛している……」
「俺はただの巨乳好きな高校生。んで、護衛してんのはあいつ等に頼まれたから」
「コウコウセイ? 知らん役職だな。何故そんな奴があの二人を……」
「あのさ、何でお前が質問してんの? お前はただ、俺の質問に答えてればいいんだよ」
「ぐっ! ぁぁああああああああッ!!!」
無抵抗な敵の足を踏み付ける。骨が折れるギリギリまで力を加え続けた。
「何故二人を狙う? 誰に雇われた、お前のバックは誰だ」
「……知ら、ん」
「……あのさ、俺がガキだからってナメてんだろ。『ガキってのは甘っちょろい。どうせ口でしか脅してことないだろう』ってな」
「…………ッ」
「悪いがその考えこそ甘ぇぞ。テメェが行儀よく喋りたくなるまで、地獄を見せてやる」
「や、やめ――」
――必殺、トラウMAX(軽めバージョン)。
数分後。
「わ、分かった。言う、何でも話すからもう止めてくれッ」
「ああそう」
何だよもう折れたのか、呆気ねーな。もうちょい歯応えがあると思ったんだけどな。
まぁいいや、さっさとゲロッてもらおう。
「もう一度だけ聞くが、何故あの二人を狙う。言っとくけど、次に喋らなかったら本気で精神こころを壊してやるからな」
「待て、言う、ちゃんと言う。嘘も吐かない。だから止めてくれ……」
「……」
「私があの娘共を、正確には"金髪の娘"を狙うのは、依頼されたからだ」
依頼?
「そうだ。私とお前に殺られた二人は『暗殺ギルド』の一員だ」
だから殺ってねーて言ってんだろ。
それよりも、初耳な言葉が出てきたな……暗殺ギルドって何だよ。
「暗殺ギルドを知らんのか? 暗殺ギルドは冒険者ギルドとは違い、殺しを……殺人を請け負うギルドだ。『闇ギルド』とも言われている」
「へー、闇ギルドねぇ」
そんな危なっかしぃもんがあったのか……。
んんー、何となく掴めてきたぞ。
「じゃあお前等は、暗殺ギルドを通してあの二人を……システィスを殺して欲しいと頼まれた訳か」
「そうだ」
「誰に雇われた」
「それは知らん」
「おい」
拳を握って脅しかけると、敵は「ま、待て」と慌てて言葉を付け加える。
「言っても意味がない」
「どういう事だ」
「私に依頼したのは、紳士風な爺だった。だがその爺も、どうせ仲介役に過ぎん」
「その爺さんよりも、さらにバックがいるって事か?」
「私が感じた限りではそうだ、察しがいいな。私も怪しく思い一度理由を聞いたが黙秘された。その代わりの条件として、普通では有り得ない法外な前金と、成功報酬を約束された」
法外な前金とはどの位か分からんが、プロのこいつがそう言うんだから相当なもんなのだろう。唯の爺さんが払えない程の。
「……他にまだ知っている事はあるか?」
「一つだけ。娘の殺し方に条件を付けられた」
「どんな?」
「"シルヴィア共和国以外で殺せ"という条件だ」
「――ッ」
何故、依頼を頼んだ奴はそんな面倒な条件を出したんだ?
学生のシスティスが国外に出るなんて滅多にねぇだろ……。
今回、偶々魔法学校の長期休暇でシルヴィア共和国から離れたから機会があったも――ッ!!
「……きな臭ぇな」
「同感だ。この案件に手を出すのは私も躊躇われたが、報酬が余りにも魅力的だっからな。まぁ、貴様のような化物が護衛をしていると知っていたら、請けなかっただろう」
そりゃ残念だったな。
「なぁ、ちょっと聞いていいか?何で最初に襲ってきた時、お前はいなかったんだよ」
「勘違いをしているようだが、私はあの二人とは仲間でも何でもない。私が依頼を請けている時、偶然その場に居合わせた奴等が勝手に『俺達もその話、乗らせてくれよ』と言ってきただけだ。奴等は私に手柄を奪われる前にターゲットに仕掛けた。しかしターゲットが魔法学校の優秀な生徒だと知らず、仕留めるのに手間取ったまま貴様に殺られた間抜けだったがな」
何回言えば分かんだこいつ……俺は殺ってねーて言ってんだろうが。
「マヌケはお前も一緒だろ。結局俺にぶっ殺されてんだから」
「違いない」
「もう何もないか?」
「ああ、ない」
「そうか、じゃあぐっすり寝てな」
「ああ、やはりそうなウゴっ!!」
喋り途中の敵の顎に蹴りを叩き込んで意識を刈り取る。多分、一日ぐらいは目を覚まさないだろう。
「さて……」
コキコキと凝った首を鳴らし、深いため息を漏らす。
どうやら、また厄介な件に巻き込まれた気がするぞ。




