女子会
「ねぇシスティス、まだ起きてる?」
「うん……眠れなくて。どうしたの……?」
三日月が暗い空を明るく照らす真夜中。
水の都アトラティウスの裏通りに建つ宿屋で、一人用のベッドが二つあるやや広めな部屋。
二つあるベッドの一つを、システィスとカタリナが使わせて貰っていた。
本来なら寝息を立てていい時間帯だが、彼女等二人は起きていた。いや、眠れないでいた。
そんな中、カタリナが小声で話しかけてくる。何か気に掛かる事でもあるのだろうかと、システィスは柔らかい声音で続きを促した。
「今更なんだけどさ、あの二人に頼ってよかったのかな……。見ず知らずの私達を助けてくれたのは勿論感謝してるけど、今日会ったばかりで、あの人達のこと何も知らないじゃん? それなのに、頼って大丈夫なのかなって。それにあの……ヘイタとかって言うエロ猿、システィスの胸を揉むのが報酬とか……マジあり得ないんだけど、変態野郎じゃんッ」
語尾に近づくにつれ、徐々に口が悪くなるカタリナに対し、報酬の対象となる本人は呑気にフフッと小さな笑みを零し、
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫な気がするの……」
「何を根拠に……」
「確かにあの時はすっごいビックリしたし、とても恥ずかしかったけれど、今になって考えれば、ヘイタさんには何か意図があったんじゃないかって思うの」
「意図? "あれ"が?」
「だって内容が可笑しいんだもの。『胸を10秒揉む』っていう報酬は、エッチなんだと思うよ。でもよく考えてみれば、ヘイタさんが本当にスケベで身体目当てなら、私の身体を差し出せって言ってもおかしくはなかったのだから……。でも、彼はそうしなかった」
「……そう言われればそうね。じゃあアイツは、『10秒揉む』っていう嘘の理由で私達を助けてくれようとしているの? えっ、ならアイツは、何の関わりもない私達を無償で助けてくれるお人好しだってこと?」
「そう、かもしれない……。ヘイタさんもセレナさんも、凄く優しい人達なんだと思うの」
システィスが語る話しを聞いて、カタリナは深く思考を巡らす。
助けてくれたのは事実だし、本当は良い奴なのかも……と。
二人の勘違いによりぐんぐん爆上げする平太の株を、少し前から目を覚ましていた女神が容赦なく突き落とす。
「あのぉ……お二人が平太さんを凄く良い風に解釈している所申し訳無いんですけど、あの人は……一度約束した事は必ずヤりますよ」
「「え?」」
突如会話に混ざってきたセレナに驚愕する純粋無垢な少女達。
そんな彼女等に、女神は残酷な現実を突き入れる。
「あの変態が揉むと約束したら揉みますよ、相手が何処の誰であろうと……。現に、帝国の女帝の胸を揉みましたし」
「て……帝国の……」
「じょ……女帝……?」
えっ嘘……マジ? と、鳩が豆鉄砲を食ったような間抜けな顔をしている二人に、セレナは一転変わって優しい声音で、
「でも、システィスさん達が話していた通り、それが彼なりの優しさでもあるのだと思います。お二人は最初、お金ならあると言っていましたが、護衛を雇う程のお金は持っていませんよね?」
「「……はい」」
「そんな二人に、無理にお金を出させたくなかったんだと思います。けど、護衛を受けるからには報酬を頂かなければなりません。平太さんは絶対、無償では頷きませんから。だから……妥協して『10秒だけ胸を揉む』という内容を提案したんだと思います。まぁ……女性の胸を揉むっていう時点で本来セクハラで褒められた事ではないのですが、あの変態さんはそこだけは譲れないみたいです」
「そう、ですか……分かりました。覚悟はしておきます」
「ちょっとシスティス、本当にいいの!?」
「うん。私達をシルヴィア共和国まで無事に送り届けてくれるのなら、10秒ぐらいどうってことはないよ。約束は破らない人みたいだし、それ以上の事はしないだろうから」
「はい、約束はキチンと守りますよ。というか私が守らせます」
システィスの決意を聞いて、彼女は見た目より肝が座っているなぁとセレナは驚きを覚える。
「そういえば、ヘイタさんは眠っているのでしょうか? 私達、途中から普通に喋っているのですけれど……」
起こしてしまったのではないかと心配していると、セレナは「あぁ、気付かなかったでしたか」と意味深に呟き、続けて、
「平太さんなら『お客さんが来たからお相手してくる』って随分前に出て行きましたよ」
「そ、それって……ッ」
ガバッと、システィスとカタリナが起き上がる。
また自分達の命を狙いに来たのかではないかと不安気な表情を浮かべる彼女等を落ち着かせるよう、セレナはゆっくり力強く言葉を放った。
「心配しなくても大丈夫ですよぉ。平太さんはあんな顔ですけどベラボーにお強いので、気にせず寝ちゃって下さい」
「気にすんなって言われてもねぇ……」
「信頼されているんでね」
「そうですねぇ」
迷いなく答えるセレナに、システィスは恐る恐る尋ねる。
「不躾な質問なんですけど、ヘイタさんとセレナさんは恋人なのでしょうか? お二人を見ていると、信頼というか……太い絆で結ばれているというか……」
「うーん、恋人ではないですねぇ」
問われた女神は一泊置き、でも……と続けて、
「私は平太さんの事好きですよ」
その言葉、その声は途轍もなく甘く、優しく、もどかしく。
システィスとカタリナの胸をギュッと胸の奥を締め付けた。
「お、応援してます」
「私も……」
「たはは、ありがとうございますぅ」
それを最後に、三人の乙女達が口を開くことはなかった……。




