報酬はおっぱい
止むを得ず護衛を引き受けてから数時間。
夕食を食べ終えた後、俺達は部屋でくつろいでいた。
部屋の大きさはこの宿最大で、風呂付き洗面所とトイレ、ベッドが二つある。
本来なら俺とセレナで一つずつ使う予定だったのだが、一つはシスティスとカタリナが使う事になった。護衛が別の部屋というのも可笑しな話って訳だな。
で、必然的に俺はセレナと同じベッドで寝ることになるのだが、照れ臭いとかドギマギとかはない。
今までずっと同じテントで寝てたしな。
でもまぁ、同じベッドで寝るのはベルン王国でジャッカル先生に宿を取って貰った以来か。
あの時は俺もかなりウブで、すぐ横で寝ているセレナを意識して中々眠れなかったが、今なら秒で寝られるだろう。
うん、余裕余裕。
「あの、ヘイタさん。またお話ししたい事があるのですか、いいですか?」
「いいけど、その代わり俺からも幾つか聞くぜ?」
「はい」
対面のベッドに腰を掛けているシスティスが恐る恐る尋ねてくるので、条件付きで了承する。
彼女も聞かれる覚悟をしていたのか、即座に頷いた。
さぁどうぞという意味で手の平を向けると、システィスはゴクリと唾を飲み込んだ後、赤い唇を開く。
「護衛を頼んで置いて今更なんですけど、ヘイタさん達は何者なのでしょうか。私達を殺そうとしてきた人達を、あなたは容易く倒してしまいました。私から見ても、あの人達はかなりの手練れだと思います。現に私とカタリナは一度応戦しましたが歯が立たず、逃げる手しかありませんでした。そんな強い相手をヘイタさんは倒しました。あっという間に、電光石火の如く……。恥ずかしながら、速すぎて何が起きているのかも理解出来ませんでした。それほど強いあなたは、一体何者なんですか? よろしければお答えできませんか?」
「俺は魔王を殺す為にやって来た、異世界の人間だ。んでこっちのセレナはお前達のいる世界の女神様。信じるか信じないかは、そっちの判断に委ねる」
「え?」
「は?」
嘘偽りない解答を並べる。しかし、経緯とか詳しい説明をするのは面倒極まりないので、ごく簡潔にだが。
セレナが、どうして言うんだと怪訝な目を寄越してくるが、敢えて無視する。
この場で嘘を言っても、どうせ後で正体を晒す羽目になるんだ。今までがそうだったし。だったら今真実を述べた方がいい。
例えそれが、あり得ない話しでも。
今彼女達に言ったように、信じるか信じないかはどうだっていい。内容が荒唐無稽すぎるからな。
案の定、二人は鳩が豆鉄砲をくらった顔をしてるし。
「ちょっとアンタね、こっちが真面目に聞いてんのに――」
「カタリナッ!」
冗談のような内容が気に食わなかったのか、カタリナが顔を顰めて文句を告げようとしてくる。だがその前に、システィスがパッと手を出して彼女を収めた。
「いいの、彼がそうだと言っているから。ね?ヘイタさん」
「ああ」
システィスの方が物分かりが良くて助かる。考え方が大人だ。逆にカタリナはすぐ突っかかってきて、まだまだ子供だな。
何にせよ、俺の話は信じてもらえなかったようだ。システィスにもな。それはちょっと残念、仕方ないけども。
「今度はこっちからの質問なんだが、構わないか」
「はい、どうぞ」
「お前等って、なんかの学生なのか?」
今システィスとカタリナの姿は寝巻きなのだが、さっきまでは学生服っぽい着衣を纏っていた。
いや、学生服といっても地球にあるブレザーとかセーラーではないのどだけれども、それに似通った雰囲気なんだよな。
どっちかっていうとブレザーに近かったかも。
「はい。私達はシルヴィア共和国魔法学園の一回生です。よく分かりましたね」
「ああ、何となくそれっぽいなーと思ってな」
やはり、か。
それにしても、アスタリアにも学校ってあるんだな。しかも只の学校じゃなく魔法学校だ。ちょっと見てみたいぞ。
「学生がこんな所で何がしてんだよ、サボりか?」
ひょっとして不良? と疑いの眼差しを向けていると、カタリナが目を細め恐い顔で、
「勘違いしないでよね。今学園は長期休暇で、私達はただ観光しに来ただけなんだから」
「長期休暇で観光ねぇ……」
「凄い楽しみにしてたんだから。なのに、初日に変な奴等に襲われるし……最悪よ」
うげ、それはご愁傷様ですわ。
「じゃあよ、お前等何で観光初日で襲われたんだよ。どっかで問題でも起こしたのか?」
「いいえ」
「だったら何故狙われる」
「……」
「……私達にも、分かりません」
問いかけ続けると、カタリナは口を噤んで視線だけを隣に向ける。すると、システィスが曖昧な返事をした。
(……ふーん、そんな感じか)
今のやり取りで、大体把握した。
恐らく、狙われた問題はシスティスにあるのだろう。
しかし、その問題には他言出来ない理由がある、と。
「悪かったよ、これ以上は詮索しない。それよりも、これからどうするか話し合おうぜ」
「そうね」
「俺達はシルヴィア共和国に行きたい。なるべく早くな。だから、明日にでも港に行って船を探して出航したいんだが……お前等はどうしたい?」
「構いません、明日アトラティウスを出ましょう」
「こっちから提案して置いてなんだが、本当にいいのか? 折角観光しに来たのに、二日で帰るなんて」
「はい。少ない時間でしたが楽しめましたし。私達がいる所為で他の人達に迷惑をかけてしまいますし」
ほう、いい心がけじゃねぇか。
「ごめんね、カタリナ……」
「気にしないでよ、また来ればいいんだし」
「……ありがとう」
「じゃあ明日、シルヴィア共和国に向かうって事でいいんだな?」
「はい」
「分かった。後、報酬の事なんだが……」
「「…………」」
報酬の話しを切り出した途端、二人の顔が曇る。すると、システィスが申し訳なさそうにこう言ってきた。
「あの、私達それ程手持ちを持っていないのですが……」
「心配しなくていい。金を取るつもりはねぇから」
「え……では何を?」
金じゃないと聞き、キョトンとした表情でシスティスが尋ねてくる。
あん? んなもん決まってるでしょ。ねぇ?
「無事にシルヴィア共和国に辿り着いたら、おっぱいを揉ましてもらう。今回は学割特別サービスで10秒だけにしておいてやる」
「はぁぁあああ!? はぁぁあああああああああああああああああああああッ!!?」
おい、うるさいぞ叫ぶな。
「おっぱい揉むってどういう事よ変態ッ! 下心満載じゃないの! ねぇシスティス、やっぱりこんな変態に頼むのはやめよう。こいつ、人畜無害な顔しておいて私達のカラダを狙ってたんだわッ!」
「おいおいおい、勘違いして貰っちゃ困るぜカタリナさんよ。"私達"ってのはちょいと違うぜ。俺が揉むのはシスティスの巨乳だけだ。お前の普乳なんて端っから眼中にねぇから安心しろ」
「は、はぁあああッ!? 誰か普乳ですって! そ、そりゃあシスティスと比べれば小さいけど、私だってあるわよ!」
へー。
「ちょ、何よその目は。全然信じてないわね!?」
カタリナがあーだこーだ喚いているのを聞き流していると、横から目付きを尖らすセレナが小声で、
「ちょっと平太さん、またいつものですか。セクハラもいい加減にして下さいよ」
「セレナ」
女神の名前を呼んで、じっと見つめる。セレナは、はぁーと長く重いため息を吐いて、
「分かりました。何か考えがあるんですね」
流石セレナ、俺の意図を分かってくれている。まぁ、付き合いも長いからな。
「ねぇ、ちょっとアンタ、私の話し聞いてんの!?」
「黙れ普乳。どうだシスティス、これは"お前の問題だ、お前が決めろ"」
「……」
選択権を彼女に委ねると、彼女は下を向いていた顔をゆっくりと上げる。
その顔色は真っ赤っかで、恥ずかしさで死にそうだった。
胸に手を当て深呼吸をすると、システィスは覚悟を決めて口を開く。
「わ……分かりました。その条件で、お願いします」
「よし、交渉成立だな」
「システィス、本気で言ってんの!?」
「うん、本気だよ」
「……はぁ、アンタが決めたんならもう何も言わないけど、知らないからね」
「ありがとう、カタリナ」
よしよし、ようやくカタリナも納得したようだな。これで巨乳は俺のもんだぜ!
「平太さん」
「何だ?」
「私、やっぱり平太さんを選んだ目に少しだけ狂いがあったと……今ふと思いました」
「……」
「……」
うん、俺もそう思う。




