特級冒険者
「えっ、あなた達だけでアンフィスバエナを倒されたんですか!?」
「俺様達って言っても、ヘイタが一人だけで倒したようなもんだけどな」
ギルドのうさ耳受付嬢が信じられないといった表情で俺を見上げてくる。
ジャッカル先生、あまりヨイショしないでくれよ。先生のいいとこ取りしたみたいでこっちは居た堪れないんだから。
蛇を倒した俺達は、弟子達の疲労やジャッカル先生の負傷具合を考慮して今日の魔物狩りは終わらせて引き上げる事になった。
ギルドに戻って来て、蛇の討伐部位である頭とでっかい石--魔石と言うらしい--をうさ耳受付嬢に渡すと、彼女は長いうさ耳をピンっ!と立て驚嘆の声を発したのだった。そのせいでギルド内が騒つき、冒険者達が疑いの視線を送ってくる。
「おい今の聞いたか?ジャッカルがアンフィスバエナを狩ったってよ」
「冗談だろ、聞き間違いじゃないのか」
「いや、お嬢の反応を見るにはマジっぽいぜ。それによ、どうもジャッカルの野郎が言うには昨日登録したばかりのルーキーが殺ったらしい」
「はあ?んな馬鹿な、あの冴えない面したガキが?あり得ないだろ」
余り目立ちたくなかったが仕方ないか。
最後に俺をさらっとディスった奴、ちゃんと聞こえたからな、お前の顔は覚えたぞ。
「勘定しました。こちらがアンフィスバエナの討伐報酬である金貨百枚になります、どうぞお受け取り下さい」
奥の部屋から出てきたうさ耳受付嬢が、抱えていた麻袋をジャッカル先生に渡す。そして彼は受け取った麻袋を「ほらよ」とそのまま俺に渡してきた。
「え、どういう事?」
「報酬は全部ヘイタのもんだろ。お前さんがいなかったら俺様やこいつらは死んでいただろうしな」
「いやいや、そこは折半でいいでしょ。一食一泊、他にも世話になったし気にしないでくれ」
しぶって中々受け取ってくれなかったが、俺がごり押しで渡すと、安堵の息を吐きながら受け取ってくれた。
「助かる、本当は武器や防具とかの修繕費に金が必要だったんだ。ありがたく受け取っておくぜ」
うさ耳受付嬢の計らいで、もう一つの麻袋に金貨を分ける。
五十枚もの金貨を貰ったセレナは頬をだらしなく緩ませた。キスしそうな勢いで金貨が入った麻袋に頬ズリしている。
「うひょー!平太さーん一日で私達大金持ちですよぉ、やばくないですかぁ」
ああそうだな、お前は何もやってないけどな。
「このお金で何食べましょうかぁ、デザート大人買いしましょうかぁ……じゅるり」
想像を膨らませて涎を垂らすセレナ。食い意地張りすぎだろ、恥ずかしいから少しは自重してくれ。
っていうかそんだけ食って何で太らないんだよ。おっぱいか、栄養は全部おっぱいに吸収されているのか。
「ヘイタ、男として気持ちは分からなくもないが、あまり嬢ちゃんに貢ぐのも大概にしとけよ」
「……」
ジャッカル先生、頼むから憐れんだ瞳で見ないでくれ。俺がダメ人間に思えてくるじゃないか。しかも何か盛大に誤解されている気がする。
……なんてこった。
「へえ、アンフィスバエナを倒したんだって、凄いじゃないか」
澄んだ声音が鼓膜を震わせる。
振り向けば、えれー美人が凛と立っていた。
空色のショートヘアーに吸い込まれそうな碧い瞳。女性にしては高身長で、ライトアーマーを纏ったその身は思わず唾を呑み込んでしまう程完成されている。
気が付けば、俺達に向けられていた視線が全て彼女に移っている。
アカヤ、アオトなんかガン見しすぎて頬を膨らませたミドリに耳を引っ張られていた。青春してんなあ。
「おい、特級のアリーシャだぜ」
「王国から任務を受けていたって聞いてたが、帰ってきてたのか」
彼女の名前はアリーシャって言うのか。
それにしても特級って何なんだ。
「上級のさらに上、世界にたった四人しかいない冒険者の事です。今現在、アステリアで一番強い冒険者の中の一人ですよ」
疑問に思っていたらセレナが小声で説明してくれる。
「特級はギルドではなく、国に認められた者しかなれません。今は四つの大国に一人ずつ特級冒険者がいるようになっています」
「んで、ベルン王国の特級ってのが彼女なのか」
「はい」
へえ、そんなに強いのか。
俺は改めてアリーシャを観察する。確かに強者の雰囲気はある、少なくともジャッカル先生じゃ手も足も出ないな。
「なんだアリーシャ、戻って来ていたのか」
「やあジャッカル、ついさっき帰ってきたところだよ。王様に報告する前に、ギルドに立ち寄ったんだ。そしたら面白い話しが聞こえてね」
「ああ、アンフィスバエナの事か。俺様が油断して殺されそうな所をヘイタが一発で倒してくれたんだぜ、すげーだろ」
親し気に会話をするジャッカル先生とアリーシャ。
知り合いなのだろうか、他の冒険者には俺様な態度を取る彼がここまで気軽に接するのも初めて見る光景だ。
「へえ、君が……」
アリーシャの碧眼が俺を捉える。
目の前まで歩いてくると、握手を求められた。
「僕はアリーシャだ、よろしくね」
「ッ!?」
彼女が発した言葉に、俺の全細胞が震えた気がした。
僕……僕だと?
まさかアリーシャは自分の事を僕と呼ぶ『僕っ娘』だとでもいうのか。
生まれて初めて僕っ娘と出会った。密かに憧れていたんだよな、俺。
絶滅していたと思ったが、まさか実在していたなんて。流石異世界、男の夢が溢れてるぜ。
「おーい平太さーん、なに固まってるんですかー?その顔キモイですから戻って来て下さーい」
「は!?」
しまった、あまりの衝撃に軽く意識が飛んでいた。
セレナが何か悪口を言っていた気がするが、どうでもいいか。
俺は慌てて彼女の手を握る。
「すまない、俺は平太だ。こちらこそよろしく頼む」
「はは、ヘイタは面白いね」
笑われてしまった。でも、美人の笑顔が間近で拝めたから良しとしよう。得した気分だ。
「一つ聴いてもいいかい?」
「ああ、構わないが」
「アンフィスバエナを一撃で倒したっていうのは本当かい?」
「そうだな、嘘ではない」
真剣な表情で問いかけてきたので、俺も真実を述べる。するとアリーシャは突然ふふっと微笑むと、突拍子も無くこんな事を言ってきた。
「ヘイタ、僕と手合わせをしてくれないかい?」
「え、嫌だよ」
「……」
「「……」」
アリーシャの申し出を即答で断ったら、彼女は目を見開いて黙ってしまった。
ついでに、他の冒険者や受付嬢達も驚きを顕にして沈黙している。
特級のアリーシャが新人の俺なんかに勝負を持ち掛けたのに驚いたのか、それとも彼女の頼みを俺が断ったから驚いているのか定かではない。
まあ十中八九後者だとは思うけどな。そんなに驚く事でもないだろ。
「女性に手を上げない、それが俺のポリシーなんだ、悪いな」
「はっ……ははははは!!」
本音を告げたら、ポカンと呆けていたアリーシャが突然狂ったように笑いだす。
周りも大爆笑だ。あれ、面白い事を言った覚えはないんだがな。
「はは、ごめんね。女扱いをされたのが数年ぶりだったから、つい」
「いや、どっからどう見ても女だろ。しかも美女」
「ふふ、ありがとう。お世辞でもそう言ってもらえて嬉しいよ。それで、ヘイタは僕の勝負を受けてはくれないんだね?」
「ああ」
もう一度尋ねてくるが、俺の答えは変わらない。嫌なもんは嫌だし。しかし、そう甘くはなかったようだ。
「じゃあ、特級冒険者として"命令"するよ。ヘイタ、僕と勝負するんだ」
「え、何それ聞いてない」
俺はセレナに視線で問うが、彼女は首を横に振った。どうやら知らないらしい。
ジャッカル先生とうさ耳受付嬢に顔を向ければ、彼らは首を縦に振った。どうやら本当らしい。
嘘だろおい、何だその特権は、ズルくねぇか。
「上級のアンフィスバエナを一撃で倒せるヘイタの実力を僕は確認しなければならない。ベルン王国に関わる問題だ、悪いけどヘイタに拒否権はないよ」
「マジかー」
という事で、俺はアリーシャと勝負をする事になった。
はあ、かったるいなぁ。
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