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豚と蛇




「アカヤ、そっち行ったよ!」

「分かった!アオト、フォロー頼む!」

「任せて!」



 アオトが呪文を唱えたと同時に、アカヤが片手剣を握りしめ、眼前にいる魔物へと駆け出した。



「ブゴォッ!」



 立ちはだかるのは、二足歩行の豚のオークという魔物だ。

 下級の魔物でそれ程強くないらしいんだが、セレナ曰く姫騎士の永遠の天敵なんだと。よく分からん。



「喰らえ!」



 アカヤが気合の入った一撃を叩きこむ。オークは一瞬怯んだが、すぐに逆襲を目論んでいて、剣を振りぬいて隙だらけのアカヤに拳を振るった。



「アクアショット!」



 そうはさせまいと、呪文を唱え終えたアオトが魔法を発動。水の弾丸をオークに浴びせた。



「ブガァ!」


「今よアカヤ!」

「いけ!」

「うおおおおおおおお!!」



 ミドリの声援、アオトの援護にアカヤが応える。雄たけびを上げ、燃え盛る片手剣をオークの胸元に突き入れた。

 唸る炎が剣から広がってゆき、豚の体躯を焼き尽くしていく。



「ブゴ……オォ……」



文字通り豚の丸焼きになったオークは、力尽きたように背中から倒れた。



「はぁ、はぁ、やったぜ」

「アカヤ!」

「ナイスだ、アカヤ!」



 オークに止めを刺し、息が絶え絶えになっているアカヤにミドリとアオトが駆け寄る。



「もう、また無茶しちゃって。待ってて、今治してあげるから」

「これぐらいの怪我で大袈裟なんだよ」

「はいはい、黙ってようね」



 アカヤの患部に手を当てミドリが魔法で治し、それを見てアオトが軽口を言いながらも心配そうな表情をしている。

 仲睦まじい光景に、何となく羨ましいなぁと思った。



「中々良いパーティーだろ?」



 俺の隣に立つジャッカル先生の問いに、肯定するように頷いた。



「ああ、バランスも取れてて役割分担も出来ている。良いんじゃないか」



 攻撃のアカヤに、支援のアオト、支援兼回復のミドリ。

 まだまだ危なっかしい所や動きが荒っぽい部分があるが、パーティーとしての形は出来ていると思う。

 上から目線なのは許してほしい。



「がっはっはっは!まだまだヒヨッ子同然だがな!」



 大きな口を最大まで開けて笑うジャッカル先生に釣られ、俺も笑みを零した。


 現在俺達がいる場所はブロード平原だ。昨日ジャッカル先生に誘われて一緒に魔物を狩りに来ている。


 門から出る際、門兵に「あれ、お前ら何で国の中から出てきてんの?」みたいな怪訝な表情をされ肝を冷やしたが、冒険者証を提示したら何も言われずに出られた。

 あぶねぇあぶねぇ、不法入国ってバレたら全てお終いだったので助かったよ。まさか門兵も俺達が城壁を飛び越えて侵入したとは考えまい。


 蛇足だが、昨夜はセレナと何も無かった。当然だけどね。


 ただ、寝てる時急に抱き着いてきたりすべすべの生足を絡ませてきた時はマジでオオカミさんになってやろうかと思ったが、涎を垂らしたセレナのマヌケ面を見たらそんな気は失せたな。


 今は弟子三人の戦いを見学していた所だ。

 ジャッカル先生が一緒に戦わないのは、彼らに多くの経験を積んで欲しいからとの事らしい。


 なんて素晴らしい指導者なんだジャッカル先生は。それに比べてうちのポンコツ女神ときたら……。



「ぎやああああああ!助けて下さい平太さん!ハチさんが襲ってきますぅ!!」

「……すまんな」

「いや、お前さんも苦労してんだな」



 ジャッカル先生に憐みの表情で同情されてしまった。救いようがねえな、あの女神は。



「先生、俺達どうでした!?」

「そこそこ良かったんじゃない?」



 明るい顔つきの三人が戻って来て、ジャッカル先生に感想を求めている。褒めて褒めてと言わんばかりの表情だ。どちらが犬か分からなくなるな。



「そうだなー、アカヤは攻めの時魔物に対して怖気ず向かっていけるようになったな。だが無駄に傷を負い過ぎだ」

「はは……まあ、そんなもんかー」


「アオトの援護のタイミングはバッチリだったぞ。でも魔法を使い過ぎないことと、魔法に頼らないことだな」

「……勉強します」


「ミドリの指示は的確だったな。ああやって次の行動を教えてやると前衛も助かる。これからもやっていくといい」

「えへへ、何だか照れるなー」



 ジャッカル先生が一人ずつ指導している。弟子達は注意を受けながらも褒められて嬉しそうにしていた。


 そんなジャッカル先生に俺は少し驚いていた。

 顔や風貌に似合わず、指導が的確で分かりやすい。イメージでいえば「これはあれだからこうやんだよ」みたいな感覚派だと思っていたので結構意外だった。



「よし、剥ぎ取りも終えた事だし、次の魔物を探しにい--お前ら、下がってろ」



 弟子達を引き連れて魔物を探しに行こうとしていたジャッカル先生の表情が一変する。

 師匠の顔から、戦士の顔へと変貌していた。



「アンフィスバエナ……上級の魔物がこんな所まで来ているのか。魔王軍が動き出しているっていう噂は、あながち間違ってねえのかもな」



 彼の視線の先には、巨大な双頭の蛇がいた。蛇なのに前足と翼が生えているのは何故だろう。まあいいか、気にしたら負けだ。


 先程の豚とはレベルが違いそうだ。現に弟子達が顔を青ざめさせ、体を震わしている。そんなに強いのか、あの蛇。



「お前ら、早く下がってろ!」

「「は、はい!」」



 ジャッカル先生が一喝すると、弟子達は慌てて距離を取った。賢明な判断だ、蛇の力量は知らんが三人の実力じゃ丸呑みにされて終わりだろう。



「平太さああああん!頑張って下さあああい!」



 遠くからセレナが声援を送ってくる。いつの間にそんな所にいたんだお前、逃げ足早すぎんだろ。



「手伝おうか?」

「弟子達が見てるからな。俺様一人でやってみるさ」



 冷や汗を流しながらも強気な発言。師匠だから、弟子の前では意地を張りたいんだよな。



「分かった、危ないと思ったら手を貸すからな」

「ああ、そん時は頼むぜ」



 男らしく頷く。そういう所カッコ良いよな。昨日の姿が嘘のようだ。

 背中から大剣を抜き放ち、蛇に向かって行ったジャッカル先生を見送ると、俺はセレナや弟子達がいる所へと足を運んだ。



「平太さん、先生さんを一人で戦わせてもよかったんですか?」

「いや、厳しいんじゃないか。地力は蛇の方が上だろう」



 本音を告げると、セレナと弟子達が驚愕の声を上げる。



「じ、じゃあなおさら平太さんが一緒に戦えば……」

「本人は一人で戦いたいんだと。弟子に格好いいところを見せたかったんだと思うぞ」



 果敢に蛇へと迫るジャッカル先生の戦いぶりを眺めて、弟子達が息を呑んで見守っている。



「まあ、それだけじゃないだろうけどな」

「どういう事ですか?」



 アオトが疑問気に問いかけてきたので、俺は言葉を選びながら答えた。



「あの蛇はジャッカルより強い、それは本人も分かっているはずだ。けど、だからって逃げてちゃいつまで経っても強くはなれない。誰しも、己の限界や壁を超えるから強く大きくなれるんだ」

「限界を……」

「……超える」


「ジャッカルだって師匠である前に一人の戦士だ。多分、どんどん背中を追いかけてくるお前らに負けたくなかったんだろうな」



 話し終えたら、弟子の三人は納得したように頷いたり、笑みを作ったりしていた。



「先生ってそういう所あるよな」

「負けず嫌いで、頑固な所だね」

「でも、先生のそういう所が好きなんだよね、私達」



 うんうんと、仲間内で分かり合っている。唐突に、アカヤが思い出すように語り出した。



「俺達さ、冒険者になったばかりの時、調子に乗って魔物に殺されそうになった事があるんだよ。けど、たまたま通りかかった先生に助けてもらったんだ」

「その時の先生恐かったよねぇ。『馬鹿かテメーら、死にてえのか!』ってね」

「それもあの恐い顔でね、今度は先生に殺されるって思ったよ」



 ディスってんのか褒めてんのか分からねえな。可笑しそうに微笑んでいる彼らの口は止まらず滑り続ける。



「それから先生、俺達の面倒を見てくれるようになったんだよな」

「酒癖が悪くて喧嘩っ早い性格のせいで周りの冒険者には悪く思われてるんだけど、本当は凄く優しい人なんだよ、先生は」

「本当、感謝してもしきれない恩があるよね、僕達」



 誇らしげに言うアカヤ、ミドリ、アオト。ジャッカル先生への信頼は厚い。それだけ彼が面倒見が良いという事なのだろう。

 俺は三人に「良い奴だな、ジャッカルは」と告げると、彼らは同時に首を縦に振った。


 なんだかホッコリした気持ちになっていると、セレナに肩を叩かれる。



「平太さんって歳誤魔化してません?」

「失礼な、俺はれっきとした高校生だ」

「それにしては達観しすぎているというか、やけに悟ってませんか」



 ふと湧いたセレナの疑問に、俺は深いため息は吐きながら答えた。



「色々あったんだよ」



 本当に、色々とな。







「はあああああああ!!!」

「ギシャアアアアア!!!」



 ジャッカル先生が繰り出す渾身の斬撃が二つ目の首を真っ二つに断ち切った。

 俺達が話している間に、どうやら蛇を倒せたようだ。



「どうだお前ら!」



 自分のなのか返り血なのかは分からないが、全身血まみれの彼は大剣を掲げ勝利の雄たけびを上げる。



「流石先生!」



 弟子達も師匠の雄姿を目にして感動しているようだ。



「平太さん後ろ!」

「ん?」



 皆が喜んでいる中、突如セレナが大声を出す。彼女の声に反応して見てみれば、二つの首が再生している蛇が無警戒のジャッカル先生に襲いかかろうとしていた。



「先生、後ろ!!」

「--なっ!?」

「キシャアアアアアア!!」



 アカヤの大声によりジャッカル先生はようやく蛇の存在に気付いて振り返る。

 だがもう遅い。このままでは間に合わず喰いちぎられてしまうだろう。ったくしょうがないな。


 俺は地面を蹴り上げると、音よりも速く駆け抜けその身をジャッカル先生と蛇の間に割り込ませる。



「寝てろ」

「キ……シャ……ァ」



 喰いつくよりも早く、俺の拳が蛇の腹を捉える。

 俺のパンチを受けた蛇は悶絶したように体を震わせると、白目を剥いてドスンッと横に倒れた。



「油断大敵だぜ、先生」

「お、おう……すまねえ、助かった」



 注意を促すと、ジャッカル先生は口元を引きつらせながら礼を告げてくる。



「……すげえ」

「……見えなかった」

「……かっこいい」



 弟子達が呆けたように呟いている。

 なんか最後の最後でいいとこ取りして申し訳無い気分だ。



「さっすが平太さん、私が見込んだだけありますね!」



 おいこら女神、何でお前が偉そうに胸を張ってるんだよ、揉むぞ。



ちょっと長めでした


お読み頂きありがとうございます!

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