ゴートゥーベッド
「がっはっはっは!いやーすまんかったすまんかった!つい我を忘れてしまって襲いかかってしまった、許してくれ」
「もう先生ったら、犬と言われてすぐに怒るのはやめて下さい、キリがないですよ」
「いや、全然構わない。むしろこっちこそ色々と悪かった」
「うんまぁうんまぁ!久しぶりのご飯美味し過ぎますぅ!あっ平太さん、これ私のなので取らないで下さいね」
「……」
俺達は今、ジャッカルと弟子三人が宿泊している食堂で軽く自己紹介をした後、テーブルを囲って皆でご飯を食べている。
美人のうさ耳受付嬢に罰金で金貨十枚を言い渡された時は危うくショックで死にかけたが、意識を取り戻したジャッカルが代わりに払ってくれた。
それどころか、俺のみすぼらしい格好を憂いて服と靴まで買ってくれたのだ。
やはりあなたが神だった。
そのうえ、ご飯まで奢ってくれると言うではないか。流石に遠慮して一度は断ったが、タイミング良く俺とセレナの腹から爆音がなってしまったので、ご厚意に甘える事にした。
もう彼には頭が上がらない。これからは俺も心の中でジャッカル先生と呼ばせてもらおう。
「それにしても、まさか俺様が一瞬でやられるとはな。ヘイタは一体何者なんだ?」
「そうだよ、気付いたら先生が壁に埋まってんだぜ!」
「いや、ただ単に人より力があるってだけだよ」
「そうですぅ、平太さんは脳筋なんですうぅ」
お前が言うな、お前が。
リスのように頬を膨らませるほど食べ物をかっこんでいるセレナを、ジャッカル先生と弟子達が怪訝そうな目で見ていた。
「思ったんですけどヘイタさん、セレナさんって何者なんですか?」
不意に問いかけてきたミドリにセレナはよくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに大きな胸を張って答えようとする。
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!私こそは、この世界の女がふがふがッ!?」
正体を明かそうとするセレナの口にパンを突っ込んで黙らせる。
ギリギリセーフ、ナイスだ俺。
(何するんですかぁ!?)
セレナが目線で訴えてくるので、俺も目で返事をした。
(これまでの言動や振る舞いを振り返ってみろ、お前が女神なんて誰が信じる。痛い子なんだって同情されるのが目に見えてんだよ)
(うぐ!!)
こんなアホ丸出しの女が、私は女神だと言っても信じる者なんて一人もいない、笑われるのがオチだろう。
逆に信じてもらったらもらったらで、こんなポンコツが女神だなんてジャッカル先生達が可哀想すぎる。
ここは口を閉じておくのが両者の幸せになるはずだ。
「ああ、こいつはただの連れだよ。成り行きで一緒に旅をする事になったんだ」
「……へ、へえ」
苦し紛れすぎて明らかに嘘だとバレている。誤解が生まれてしまいそうだが、真実を語るよりはマシだろう。
気まずい空気を変えようとしたのか、ジャッカル先生が話題を変えた。
「おおそうだ、明日こいつらと魔物を狩りに行くんだがヘイタ達も一緒に来ないか?最初は勝手が分からないだろう」
「い、いいのか?俺達も一緒で」
「全然構わん、むしろヘイタ程の実力者がいれば安心出来るしな」
「それは良い考えです、僕もぜひ勉強させて下さい」
「俺も!ヘイタの戦ってるとこ見たい!」
「私も!」
アオト、アカヤ、ミドリの三人も次々に賛成してくれる。
このメンバー、なんて良い奴らなんだ。どっかのアホ女神の所為で病みかかっていた精神が和らぐ。心から涙が出そうだ。
「こちらこそ頼むよ、色々と学ばせてもらう」
「お願いしますですうぅ」
「おう、任せとけ!あ、それと部屋を一室取っておいたから、今日はそこを使ってくれ。今は金が無いんだろ?特別サービスだ、でも明日からは自分で払えよな」
じゃ、ジャッカル先生ええええええええええええ!!!
◇
夜、ジャッカル先生に取ってもらった部屋のベッドに、俺とセレナは少し間を空けて腰掛けていた。
「最初はどうなるかと思ったが、俺達はツいてるな」
「女神の私がついているんですから、当たり前の結果ですよ」
「抜かせ」
たらふく食って元気になったからか、よく口が回るセレナ。
お前のせいでどれだけ面倒な事が起こったのか覚えていないのか。
「ジャッカルさん達、良い人達ですね」
「……そうだな」
しみじみと頷く。
出会いは酷いもんだったが、冒険者登録から宿代まで、何から何まで世話になった。異世界に来て散々だったが、最後に人から親切を受けて心が救われた気がする。
なにか俺に出来る事があったら、小さな事でもいいから受けた恩は返そう。
「しんみりしちまったな。疲れたし、俺はもう寝る、おやすみ」
「……?」
当たり前のようにベットに横になる俺に、セレナは「は?」という表情をする。彼女は慌てて口を開いた。
「いやいやいや、平太さん何さらっと平気な顔して寝てるんですか!?」
「いや、俺ベッドじゃないと快眠出来ないし」
ごめんな、だから床で寝てくれ。
「鬼畜ですか!?私だって柔らかベッドで寝たいですぅ。あっ、まさか誘ってるんですか~?平太さんのス・ケ・ベ・さ・ん!」
「くー」
「ちょ、ちょっと無視しないで下さいよぉ」
もう仕方ないですねぇ、とブツブツ文句を言いながらもセレナがベッドに潜り込んでくる。
おい待て、なんで入ってくるんだよ。ベッド小さくて狭いんだぞ。
(こいつ……誘ってねえだろうな)
せめて背中合わせで寝ればいいのに、わざわざ俺の方に向いて寝てやがる。そのせいで、薄着一枚を挟んだセレナの柔いおっぱいが背中に押し当てられていた。
破壊力が想像以上で、童貞の俺には辛いものがある。
「あれ、平太さん……ドキドキしてませんか?」
「ッ!?」
セレナの小声が俺の耳をくすぐる。心無しか、その声色は艶やかさが含まれている気がした。これ以上はやばい、色んな意味で俺がもたない。
「いいから、早く寝ろ」
「ふふ、そうですね、寝ましょうか」
くそ、勝ち誇ったように笑いやがって。覚えておけよ女神め。
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