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水の都でデート



「見えてきたな」

「おー、あれが水の都アトラティウスですかぁ」

「ブル……」

「ぽよ!」


 目を凝らすと、目的地である水の都が見えてくる。あともう少し歩けば辿り着けるだろう。


 再出発してからここまで1週間程。

 本当なら三日四日程度で到着予定だったのだが、セレナの体調を考慮し大事をとって休憩を多く取り、ゆっくり来たので結構かかってしまった。


 まぁそこまで急いでる訳でもなかったし、セレナも大分良くなったから別に構わなかったんだけどね。


「ぽよぽよ」


 スラ太郎がポチの頭上でぴょんぴょん跳ねまくっている。

 顔が無いので表情は窺えないが、何だか嬉しそうだ。どうしたんだろ……アトラティウスが楽しみなのかな?


 ちなみにスラ太郎の体色は透き通った水色へと元通りになっている。

 セレナから吸収した邪気は完全に浄化したようだ。


 邪が付いたとしても神である奴の悪い気を浄化してしまうなんてスラ太郎さんマジパネェ。


 スラ太郎に尊敬の念を抱いている内に、どうやらアトラティウスに到着したようだ。


「ようこそ旅人さん達、水の都アトラティウスへ!!通行証は持っているかい?」


 やたらテンションが高い門番に出迎えられる。通行証と同じ役割を担う冒険者証を渡すと、門番は「うん、OK!」と頷き返してくれた。


「アトラティウスにはどんな目的で?」

「シルヴィア共和国に行きたくて寄ったんだ」

「そういう事か!港は東側にあるよ。では良い旅を!」

「ありがとう」

「ありがとうございますですぅ」


 陽気な門番に見送られて、俺達は遂にアトラティウスに入国する。


 門を潜り抜けた先の光景はとても幻想的で素晴らしかった。


「お……おお!」

「水路が通ってますねぇ」


 水都独特の風景に圧倒される。

 セレナが今口にしたように、大小様々な水路があり沢山の小舟が行き交っている。

 勿論普通の道路もあるが、割合としては水路の方に大きく傾いているだろう。


 住宅と思われる建物はレンガ造りで、ヨーロッパ風――訪れた事は無いけど、テレビで見た――でオシャンティーな雰囲気を醸し出している。


 仄かに潮の香りが漂っている。

 空気も澄んでて美味しく、過ごしやすそうな場所だ。


「急いで向かうのも勿体ないし、折角だからぐるっと回って観光しながら行こうぜ」

「そうですねぇ、ここまで来たのに勿体ないですしね。ポチとスラ太郎もそれでいいですか?」

「ブルル」

「ぽよ」

「んじゃま、行くとしますか」




 俺達は静かに歩み出す。


 見慣れない荘厳な街の外観を眺めたり。

 屋台を出しているおばちゃんから獲り立ての新鮮な魚をその場で焼いてもらって食べたり、オマケを貰ったり。

 小舟に乗せてもらい和やかに水路を渡るなど、アトラティウスを大いに満喫出来た。


 本当はまだ体が本調子でなく無理に作り笑いを浮かべていたセレナも、アトラティウスの澄んだ空気と、笑顔で声をかけてくれる町民達に触れて徐々に元気を取り戻していた。


 そんなセレナが不意に、隣で歩いている俺へとこんな事を尋ねてくる。



「やっぱりこれってデートなんですかねぇ?」

「ぶっ!? んだよ急に……」

「だってさっきも屋台のおばちゃんに茶化されたじゃないですか。『おや、デートかい?』って。それにおばちゃんだけじゃなくて、会う人皆んなに言われるじゃないですかぁ」

「…………」


……そうなんだよなぁ。行く先々で、


『いいわねぇ、デート』

『おい、新婚旅行かい?』

『初々しいカップルにはこれもオマケしてやるよ!』


 という感じで恋人同士に間違えられる。


 最初は「そんなんじゃないですよ~あはは」と若干照れながらも否定していたんだが、余りにも言われ続けられるもんだから否定すんのも面倒になって「そうなんすよ~」とサラって流し肯定するようになったんだ。


 まぁカップルで通せばオマケとか沢山貰えたし得っちゃ得だったんだがね。


 意図してなのか分からないが、セレナは俺と視線を合わせないように前方を向きながら続けて、


「私と平太さんって恋人同士に見えるんですかね?」

「た、他人から見たらそう思えるんじゃないか? 若い男女が一緒にいるんだからさ」

「そうですよねぇ……ここで一つ質問なんですが」

「な……何だよ」


 セレナの足が止まる。

 俺の足も止まった。


 一拍おいて、


 女神は三歩前にあるき、


 唇を開いた。


「平太さんは私と恋人と間違えられて、嫌ですか?」


「い――」


 落ち着け平坂平太。

 適当に答えるな、ちゃんと考えて口にしろ。こいつの気持ちと、俺の気持ちを考えて、しっかり言うんだ。


「……嫌じゃねぇし、別に構わねぇよ」


 嘘偽りない言葉を紡ぐ。いや、これで精一杯って所か。情けねぇけどな。


 本心を告げると、セレナは振り向き、


「――良かったです」


「――ッ!!」


 目を奪われたというのは、正にこの事だろう。


 夕日を背にするセレナは水都の風景と混ざり合って神々しく、今この瞬間の光景はどんな絵画よりも美しかった。


 何よりも。


 何よりも柔らかく微笑む表情が素敵で。

 逆光の所為で顔の色を把握出来ないが、きっと赤く染まっている筈。


 だって、俺の顔がとっくに赤くなっているのだから。セレナはきっと、俺より赤くなっているんだと思う。


 鏡で確認しなくても分かる。それ程俺の顔は熱く火照っていた。


 いや、顔だけじゃない。

 頭も体も心も。風邪かよってツッコミたくなるぐらい熱に犯されていた。



 これは。


 これは、ズルいだろ。


 いつも馬鹿にしていたセレナが、本当に女神のようだと思えてくる。


 あー……熱い熱い。今すぐスラ太郎に抱き着きたいわ。


 手の平で顔を覆う。まともにセレナの顔を直視出来なかった。



「あれ、どうしたんですか?」

「……うるせぇ、ちょっと待ってろ。今回復させっから」

「……はぁ」


 意味不明な行動に首を傾げるセレナ。

 くそコイツめ、誰の所為でこんなんになってると思ってんだよ。


 気付けよ、お前の所為だっつの。不意打ちしてくんのマジでやめろよなぁ。


「ふぅぅー」


 長めに息を吐き出して、心を落ち着かせる。顔が赤くなっているのがバレない内に、強引に話題を変えた。


「そ、それより……もう遅くなっちまったし、今日は港に行くのは止めて何処かに泊まろうぜ」

「そうですね、もう夕日も沈みそうですし。楽しくてあっという間でしたね」

「だからお前は……」

「はい?」

「……もういい、行くぞ」


 あー調子狂うなぁ。ペースが乱されっぱなしだわ。

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