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キレる平太




「…………」


 眼球だけ動かし、邪神と名乗った敵を見やる。

……そうか、こいつが邪神か。

 まぁそうだわな。魔王より圧倒的に強くて、俺の敵って言ったらもう邪神しか残ってねぇわな。


 でもちょっと登場早くねーか? まだ倒していない魔王が一人残ってた気がするんだけど……。

 最後の魔王を倒す前にラスボスが出てきちゃっていーのかよ。


 ん? ちょっと待てよ。

 もしかして今、ここにいる邪神をぶっ殺せば、世界は平和になって俺は地球に帰れるんじゃねーのか?


 と安易に考えていたら、それは浅はかだと言わんばかりに邪神がこう言ってくる。


『言っておくが、今の私は分身体にすぎん。この場にいる私を倒したとしても、本当に私を倒した事にはならんぞ』


 ちっ、こいつをぶっ殺せば帰れると思ったのに、そうそう上手い話はないか。残念。



『異世界の勇者よ、貴様に一つ提案がある』


「……んだよ藪から棒に。まさか世界の半分くれてやるから配下になれとか巫山戯た事抜かすんじゃねーだろうな」


『そのまさかだ。貴様は脆弱な人間という下等種族の筈なのに、どの魔物よりも遥かに強い。あの役立たずな魔王共よりもよっぽど使える存在だ。女神を切り、私に着け勇者。女神とどんな条件で契約したのかは知らんが、私はその条件を含め、貴様の望む全てを与えてやろう』


「…………」


『どうだ?考える必要すらあるまい』


 ああ、お前の言う通りだよ。

 こんなん考える必要なんて皆無だ、余裕で即答だわ。


「そいつは出来ねぇ相談だ」

『……何?』


 起き上がり、邪神を睨め付ける。

 俺が出した問答が不服そうなので、続けて言ってやった。



「一つ、俺の願いはテメェじゃ絶対に叶えられねぇ」


「一つ、俺はアステリアに残るつもりはねぇ、テメェをぶっ殺したら地球に帰る」


「一つ、単純にテメェの存在が気に喰わねぇ。テメェの腰巾着するぐらいなら死んだ方がマシだ」


『……そうか、予想通りの回答ではあるが……やはり気に喰わんな。リリスの事といい、貴様の存在は邪魔だな』


 リリスだって?


「おいテメェ、リリスに何かしたのか」


 そう問いかけると、奴はさも当然のようにこう言ってくる。


『ああ、奴なら殺した。魔王の使命を放棄し、あまつさえ敵である貴様と馴れ合っていたからな。役立たずな魔王には消えて貰ったよ』



「…………」





………………。







「ドタマにきたぜ」



『……』




「様子見は終わりだ。今から本気でテメェを――」










――消してやる。







「今からテメェを――消してやる」


 平坂平太がその言葉を発した刹那、彼の体内にある何かが弾け飛んだ。


 途端、平太の外見に変化が起きる。

 両手足に藍色の燐光が灯され、眼色も黒から藍色に煌めく。


 変わったのは外見だけではなかった。

 それは、平太と相対する邪神が一番理解しているだろう。


(何だこの魔力量は……)


 神である邪神が、人間である平太から溢れ出るエネルギーに驚嘆する。


 何故か。


 平太から迸るエネルギーが、"人間という種族が持つ器の限界範囲を遥かに越えていたからだ"。


 普通の人間ならば、膨大なエネルギーを体内に留められず暴発し即死してしまうだろう。


 という事は、だ。


 最早あの人間は、"人間という存在の概念から逸脱した何か"ではないのだろうか。


 いや、"何か"ではない。


 アレは"化物"だ。


 邪神がそう推測を立てていた時、陥没した地にいた平太の姿が突然消えてしまう。


「どこ見てんだよ」


 背後から感情が失われた、無機質で機械じみた声が聞こえてくる。

 いや、聞こえた時にはもう、堅い拳で殴られていた。


『…………』


 雲を突き抜ける勢いで吹っ飛ばされる。


 マズい、態勢を整えなければ。


 判断し、静止しようとする。


 する前に、蹴られていた。

 いる筈のない真上から。

 飛んでゆく方から、先回りされて。


『…………ッ』


 重い、疾い。


 疾すぎて、気配が追えない。


 追えないから、反撃の機会を与えられない。


 与えられないから、ただ一方的に蹂躙される。


「反撃したいのか?残念だがそいつは無理な話しだぜ」


 声が聞こえる。

 何処にも姿が見えない筈なのに、何故か間近で声が聞こえるのだ。


「こっから先はずっと俺のターンだからだ」

『――ッ!』


 攻撃の速度が加速した。

 何も出来ず、只々無限に殴られ続ける。


 何発殴られた?


 千? 万? 十万?


 把握出来ない。が、数えるのが億劫になる程打たれまくっているのは理解できる。


 邪神である己が、


 神である己が、


 たかが人間如きに。


『お……のれ』

「こんだけぶん殴ってんのにまだ倒れねぇのか。邪神ってのはタフなんだな。じゃあこれならどうだ?」


 嵐が止んだ。今が絶好の機会。

 よくも好き放題やってくれたな。

 次はこちらがやり返してやろう。

 その何処にもでもいる平々凡々な顔を、原形が思い出せないぐらい粉砕してやる。



星皇拳せいおうけん――」



 そんな邪神の思惑は、一瞬で砕け散った。



「"七星羅喉しちせいらごう"」



『――――――――ッ!!』



 迫ってくる、襲ってくる。

 圧倒的なまでに絶望的なエネルギーの奔流が、己を飲み込まんとする。


 邪神に抗う術は無かった。


 逃げねばと判断した時にはもう、七つの剛衝に体を貫かれていたのだ。


 生きているのか、体が残っているのか、今己がどういう状態に陥っているのか分からない。



「ちっ、仕留め損なったか」

『……ナメ、るな』


 神である己が、人間などにここまでコケにされた。

 その屈辱は晴らさねばならない。


 残っている全魔力を収束させ、限界まで圧縮する。


「はん、手が出ないからって自爆か?ダセー奴、邪神がする事じゃねーな」


 流石というべきか、気付くのが早い。

 しかしもう遅い。準備は整った。

 後はこの人間もろとも女神を消し去ってくれる。



『死焔』



 圧縮された膨大な魔力が一気に爆発した。

 灼熱を優に越える熱さ。触れたら最後、魂まで溶かされる。


 漆黒の炎が、平太に押し寄せてくる。

 されど、藍色に煌めく人間の少年は逃げるという選択肢を取らなかった。


 轟々と迫りくる死の炎を前に、彼の瞳は輝きを増す。



「星皇拳――」



 弓矢を引くかの如く、限界まで拳を引き絞る。内から迸る強大なエネルギーを一点に集中させる。


 平太の体は太陽を越える程明るく、熱く煮え滾っていた。


 そして。

 溜めに溜めた熱き炎が今、解き放たれようとしていた。



「"螢惑明星けいわくあかぼし"ッ!!」



 一条の紅き閃光が、全てを焼き尽くさんと真っ直ぐに伸びてゆく。

 漆黒の炎と衝突するが、紅き炎は闇に塗れる事なく輝き続けていた。


 鬩ぎ合う紅と黒。

 どちらも食い尽くさんとばかりに勢いが増してゆく。


 拮抗し、拮抗し、拮抗して。


 喰らったのは、紅の炎だった。



「燃え散れ」



 黒の炎を飲み込んだ紅の炎はそのまま直進し、邪神の存在を隅々まで焼き尽くしたのだった。





 空が赤ぇな。

 あぁ、俺がやったのか。


「ふぅ……ちょっと疲れたな」


 邪神の気配が完全に消滅したので、張り詰めていた糸を緩ませ脱力する。


 あの野郎……最後の最後で自爆なんて面倒臭ぇことしやがって。お陰で余計な力を使っちまったよ。


 ったく、やってらんねぇよな。


「……戻るか」


 邪魔者は消し去った。

 これで憂いなくセレナの所に向かえられる。


 そう思って、解き放った鎖を再び掛直そうとした時だった。


『予想外だった。貴様にこれ程までの力があったとはな』

「――ッ!?」


 耳元で、いや脳内に直接倒した筈の邪神の声が響いてくる。


 ちょっやめろよな。お前の声マジで気持ち悪いんだから。腐っちゃうから。


 つーか、何でぶっ殺した筈のテメェの声が聞こえてくんだよ。

 手応えはあったし、今も奴の気配は無いはずだ。


『安心するがいい、これは声のみを送っているにすぎない』

「何?」

『最初に言っただろう、貴様と戦っていた私は分身体にすぎん。そこにいた私を倒したとしても大して意味はない』

「ちっ面倒な奴だなぁ」


 そういえばそんな事言っていた気がする……怒りで忘れてたわ。


「だったら早く本体出せよコラ、今ここで消してやるから」

『焦るな人間、私はまだ完全に復活していない。完全体となった時、今度こそ貴様を殺してくれよう』

「……さいですか」


 なんかこいつ、神の癖して言い回しが三下臭ぇんだよな。


 この際だ、俺も邪神に言っておいてやろう。


「おい邪神、覚悟しておけよ」

『…………』


未だに赤く燃える空を睨みながら、言い放つ。










「次に俺と会った時が、テメェの最後だ」

最近投稿するのをつい忘れてしまいます…

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