襲撃
少し短いです
「ぉお、やっと森を抜けられたか」
「そうみたいですねぇ、ちょっと疲れちゃいました」
「歩きっぱなしだったもんな」
新たにスラ太郎という仲間が加わった俺達は、セレナの能力によって漸く迷いの森を出られた。
いつも何かやらかすポンコツ女神も、今回ばかりは優秀で何の問題も起きず出られたのは、珍しいというか逆に不気味ではあったな。
スラ太郎のポジションは今、ポチの頭上である。俺とポチによる猛抗議で、セレナの谷間は許さないという結果になり、スラ太郎の定位置はポチの頭上になったのだ。
えっ? スライムに対し器が小さいって?
馬鹿野郎そんなん関係ねぇんだよ。
それはそれ、これはこれっていう話しなんだ。
森を出ると、遠くまで見渡せる草原が広がっている。
少し冷たく、ちょうどいい感じの風を浴びながら、俺達はスローペースで草原を進んでいた。
そして小腹が空き、飯でも食うかぁと俺が休憩を提案しようとした――そんな長閑な一時。
「ここら辺で飯でもすっ――」
突如、それをぶち壊す者が現れたのだった。
「……ごふっ……」
セレナの胸から真っ黒な腕が生え、鮮血が飛び散り。
唇からは、大量の吐血が溢れていた。
は?
「――――ッ」
突然の自体に思考が停止したのは僅か。一瞬にして回復し、迅速に行動する。
まずセレナの背後に周り、背中から胸を貫いている敵――と断定する――の腕を、極細の""螢惑けいごく"で焼き切る。
これで敵とセレナの密着部分は途切れた。
よし、取り敢えず時間稼ぐぐらい遠くまでぶっ飛ばそう。
「星皇拳――"羅喉"ッ」
衝撃波を横っ腹にぶちかますと、敵は螺旋回転しながらぶっ飛んでいった。
……これで少しは時間を稼げるか。
飛んでいった敵に注意を向けながら、背後で呆然としているポチに大声で呼びかける。
「ポチィィィイイイイイッ!! セレナを連れてできるだけ遠くに走れぇぇぇえええ!!!」
「……ブルッ!!」
さすがポチ、デキる馬だ。戸惑っていたが、俺の言った事をすぐに理解し行動に移った。
ポチは血を流して倒れているセレナの服を咥えると、背中に乗せて駆け出す。
スラ太郎はポチとセレナの体にまきつき、衝撃の緩和と落下を防ぐ役割りを果たしている。
ははっ、スラ太郎もポチと一緒で優秀だな。
と、感心している間に敵が視界に入る所まで戻って来ていた。
螢惑と羅喉を受けて尚ケロッとしてやがる。しかもこいつ、焼き切った筈の腕が再生してるぞ。
少し、気を引き締めるか。
『女神を殺れば動揺すると思ったのだがな。流石異世界の勇者というだけはある』
初めて敵が喋った。
何とも聞き辛く、不気味で汚ねぇ声なんだ。耳にするだけで不快感が込み上げてきやがる。
いや、不気味なのは声だけじゃないか。
改めて観察すると、敵は"異質"だった。
"黒"。
奴の全貌は黒で埋め尽くされている。ただ黒と言っても、普通の黒じゃない事は確か。
ドス黒く、ズルズルと引き摺り込まれそうな、そんなヤバい黒。
手も足も、腹も胸も頭も全部黒だ。顔も例外じゃない。目や鼻や耳や口も何一つ存在せず、真っ黒なのっぺらぼう。
棒人間に肉付けしたような、男性トイレマークを炭で塗りたくったような、幼稚園児の落書きのような姿。
そんな陳腐な見た目でも、こいつが途轍も無くヤバい奴ってのはビシバシ伝わってくる。
その度合いは半端じゃない。
これまで戦ってきた魔王なんか比べ物にならねぇ……。
それどころか、地球を含めて俺が今まで相手取った中で一番ヤバいかもしれん。




