スライム
「さて、行くとしますか」
「皆さんに挨拶していかなくていいんですかねぇ……」
「大丈夫だろ。皆酒飲みまくって爆睡しているのに、わざわざ起こすこともないさ。それにチムバァさんが伝えてくれるって言ってたしな」
日の出が顔を出す頃。
俺とセレナは旅道具や食料をパンパンに詰め込んだ荷物を背負うと、爆睡してその辺に雑魚寝しているエルフ達を起こさないよう、静かにポチの下へと向かった。
「ポチ、起きてるか?」
「ブル」
小屋に着いてポチに話しかけると、すぐ様返事が返ってきた。
見るからに準備万端で、俺達を待っていたかのようだ。
ほほう、ポチよ。中々優秀な馬になってるじゃないか。やっと俺の努力が実ってきたのかな?
「ブルブル」
「えっ? 俺が処刑されると思ったのに残念だと? お前ご主人様に向かって何て酷ぇーこと抜かしやがるんだ、飼馬ならちょっとぐらい心配しろよ。可愛い気がねぇんだよ可愛い気が」
「ブル……ブルァ」
「お前を心配するだけ無駄だろって? それ褒めてんのか貶してんのか判断すんの難しいところだぞ」
全く、いつまでも腹を立たせてくる駄馬だぜ。
「あのー平太さん?」
「何だ」
「いつの間にポチと話せるようになったんですか?」
「……えっ?」
何だって?
「だから、ポチと会話しているように見えたので、いつの間に意思疎通が出来るようになったんですかと聞いてるんですぅ」
「そういえば俺、普通にポチと話してんな……」
「気付いてなかったんですか?」
「ああ……何となくポチが何を喋っているか分かるっていうか……なんかこいつの顔とか観察していると大体理解出来るんだよな……謎だ」
ってか今考えたら怖ぇーな!
確かに俺、普通にポチと話してたわ。不思議なこともあるもんだなぁ。
「へ、平太さん? ポチと話せるのは私の特権というか数少ない私の取り柄なんで勝手に能力を身に付けないでくれますか? いやこれ結構切実な問題ですからね?」
「気にすんな、理解出来るって言っても何となくだし、今んところポチだけだしな。セレナみたいに動植物全般って訳じゃねぇから」
そう伝えると、セレナは「そうですか……」と胸を撫で下ろす。
安心してるところ悪いんだが、お前のその能力余り役立ってねぇからな。迷いの森でも序盤で別れちまって、俺はリリスに案内してもらったし。
「うぐっ! こ、これからですよ平太さん! 水の都に行く時の森の案内は私に任せて下さい、名誉挽回しますから!!」
「本当に大丈夫なのか?」
「はい、心配ご無用です!」
「期待しないでおくわ。取り敢えず出発しようぜ」
「そうですね」
「ブルッ」
気を取り直して、俺達はエルフの里に別れを告げて旅立ったのだった。
◇
出発してから半日程経過。
セレナの能力によって何事も無く進み――本当に道が合っているか不明だが、張り切っているセレナを信じるとして――もうそろそろ森を抜けてもいいんじゃないかっていう頃、俺達はある魔物と遭遇した。してしまった。
「ぽよよ」
「こ、これはまさか……スライムなのか?」
「そうみたいですね」
「ブル」
透き通った水色、丸くてちんまく、滑らかなフォルム。目や口は存在しないが、「ぽよよ」と可愛い鳴き声を発している。
……何だこれ、めっちゃ可愛いんですけど。
そうだよ、すっかりこいつの存在を忘れていたわ。
スライム。
ファンタジー世界の王道中の王道といえばスライムじゃないか。何で今まで現れなかったんだよ、もっと早く出て来いよ。
スライムとの初の出会いに衝撃を受けていると、セレナが恐る恐る尋ねてくる。
「ど、どうします? このスライムは水色なのでノーマルスライムだと思います。ノーマルスライムは危険ではないので、無視して通り過ぎますか?」
「そうだなぁ……」
考え込みながら、スライムを見る。
すると、"目が合った"。
いや、スライム自体に目は無いのでその言い方は語弊なのだが。
気のせいかもしれないけど、俺とスライムの視線が交錯したように感じたんだ。
そしてスライムは、俺にこう訴えている気がする。
『なんとスライムが 仲間になりたそうに こちらを みている』
と。
「……」
「ぽよ」
「…………」
「ぽよよ」
「………………」
「ぽよぽよ」
「……よし、仲間にしよう」
「え"っ?」
嘘でしょ!? と驚愕するセレナに、俺はマジですと真顔で答える。
「どうして急にそんな事になるんですか」
「だって、こいつが仲間にしてくれって言っているような気がするんだもん」
「そんな馬鹿なことがある訳……」
俺の言葉を信じられないセレナがスライムを凝視する。
すると、
「ぽよよ」
「た、確かに仲間になりたいと言っているような意思を感じられます……」
「だろ?」
「でも、スライムに自意識なんて無い筈なのに、おかしいですねぇ……」
「小ちゃいことは気にすんなって」
トコトコ歩き、スライムに近寄る。ドキドキしながら、ジッと黙っているスライムを両手で持ち上げた。
「うぉおあああああ何だコレッ!? めっちゃプルプルしてるぅ、それに冷やっこくて気持ち良いッ! しかも可愛ええ!!」
「ぽよっ」
初めて味合う感触に感激し絶叫する。可愛いさが半端なく、もしスライムが地球にデビューしたら女子高生達がキャッキャウフフアハハと盛り上がること間違い無しだろう。
そしてスライムを顔にくっつけ自撮りし、即効でインスタに載っけまくるんだろう。
間違いない。
話しが逸れてしまったが、それ程スライムの可愛いさは尋常じゃないという話しだ。
俺は手の平に乗るスライムを見て、うむと頷く。
「よし、お前の名前はスラ太郎だ!」
「ぽよ!」
うんうん、スラ太郎も喜んでくれているな。
「ちょっと平太さん、本当にスライムを仲間にするんですか? っていうかスラ太郎って酷過ぎません? もっと可愛い名前があるでしょう」
「何だよ、なんか文句あんのかよ」
折角素晴らしい名前を付けたのに、セレナがイチャモンを吹っかけてくる。
別にいいじゃねーかスラ太郎。俺の名前から一文字取ってあるし、最高の名前じゃん。
「スラ太郎でいいよな?」
「ぽよっ!」
「ほら」
ドヤ顔で告げたら、女神はぐぬぬと唇を噛み締める。
「平太さんの言う通りこのスライムは、ヘンテコな名前を気に入っているようです。本人……というかスライムがその名前で良いのなら、不本意ではありますが構いませんよ」
致し方ない、といった風に了承するセレナへと、俺の手の平からスラ太郎が飛び跳ねる。
「きゃっ」
飛んできたスラ太郎に驚きながらもナイスキャッチするセレナは、スライム独特の柔らかい感触をトコトン味わうと、歓喜の叫び声を上げた。
「キャーーーーッ!! プルプルしてますよぉ、プルンプルンしてますぅぅ!!」
「いいべ?」
「はい……揉み応えが気持ちいいといいますか、揉めば揉めば程癖になります」
「ぽよよ」
「それになんか、可愛いくて癒されるんですよねぇ」
分かる分かる、どこがとか具体的に言い表せないんだけど、なんか可愛いんだよなぁ。
ふっ、セレナの奴あんだけ渋ってやがったのに、もうスラ太郎の虜になっちまってる。
「ブル……」
新たに仲間に加わったスラ太郎で盛り上がっていると、ポチの様子がおかしい事に気付く。
「どうしたんだよポチ、浮かない顔して」
「ブルル……」
えっ? あのスライムが気に入らないって?
「あ~ポチ~もしかして妬いてんのかぁ~。マスコット的キャラを奪われちまうとか心配してんじゃないのぉ?」
「ブルァ」
そんなんじゃないって?
あっこら蹴るな蹴るな! お前の蹴り地味に痛ぇから、冗談じゃないレベルだから!!
「まぁまぁ、そんな怒んなって。誰もお前の事忘れたりしないから」
荒ぶるポチを宥めていると、セレナの手からスラ太郎がジャンプし、ポチの頭上にスタンと着地した。
そして――、
「ぽよ」
「ブル」
「ぽよ、ぽよぽよ」
「……ブルブルルル」
「ぽよ!」
何回か会話が成された後、スラ太郎が嬉しそうにその場でピョンピョン跳ねる。
……どんな内容だったのか気になったので、セレナに聞いてみる。
「なぁ、なんて話ししてたの?」
「スラ太郎が下手に出てポチを持ち上げた感じですかね。
具体的に言いますと、『ポチ先輩イケメンですね! これからよろしくお願いします!』『お……おう』みたいな内容です。
意思疎通出来るスライムだけでも珍しいのに、甘え上手なんてスラ太郎は本当に凄いスライムなんですねぇ」
「な、なんやて……」
じゃあポチはスラ太郎に絆されてしまったのか。
俺にだって中々心を許さないポチをこうも手玉に取ってしまうなんて……。
スラ太郎……恐ろし子ッ!
新しい仲間のスライムに早速戦々恐々していると、スラ太郎はポチの頭から高ジャンプし、再びセレナの元へと舞い戻る。
しかし、今度の着地場所は手の平ではなかった。
「おいおまっ……それはアカン、やろ」
なんとこのクソスライムは、セレナの巨乳の狭間、いわゆる谷間の中にスポッと進入したのだッ!
「ンンッ!?」
「おいこらスライムテメェ!! どさくさに紛れてどこに入ってんだゴラァァアッ!!」
「ブルブルブルァァアアッ!!」
俺とポチの顔が一瞬にして悪鬼羅刹へと変貌する。
くっそ……このスライムなんて羨ま……羨まけしからん事をしてんだッ! ズルイぞテメエッ!!
鬼二匹が、セレナの谷間からニュて飛び出ているスラ太郎へと迫る。
よっぽど恐かったのか、スラ太郎はビビってしまいセレナの服の中に潜り込み隠れてしまった。
「ちょ、スラ太郎くすぐったいですよぉ!!」
「あー駄目だ、テメエはぶっ殺すはい決定ッ!!」
「ブルァァアアッ!!」
俺とポチの意見が、初めて一致したのだった。
あ"ーー俺もスライムになって巨乳に挟まれてぇなぁああッ!!




