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予言




「あっ、クレアさん」

「セレナ……あんたどんだけ食ってんのよ。私より大食らいなんじゃないの?」


 次にやって来たのはエルフの女性だった。【ヒンヌー族】の為やはりお胸は絶望的だが、彼女もかなりの美人である。


「ヘイタさん、こちらの方はクレアさん。私が魔物に襲われていたところを助けてくれて、その上エルフの里まで一緒に着いた来てくれたんですよ」

「クレアよ。あんたがセレナの仲間のヘイタね。やっと会えたわ」

「平太だ。セレナを助けてくれてありがとう、ついでに面倒も見てくれて助かったわ」

「ちょっと平太さーん、面倒ってどういう事ですかぁ」


 だってお前が面倒事を起こさなかった時なんて無かっただろ?

 そうだよね? と視線でクレアに問いかけると、彼女は「ふふっ」と柔和な笑みを浮かべて、


「そんな事なかったわ、寧ろ美味しいご飯を作ってくれたのよ。それに、色んな話しを聞けて楽しかったし」

「へー、どんな話しをしたんだ?」

「まぁ色々よ。旅の事とか、あんたがどうしようもないロリコンで、変態だとかね。ただセレナは、あんたの事を強くて頼りにしているって言ってたわよ」

「そ、そうなんだ……」


 セレナがそんな風に言ってるなんて意外だ。ちょっと恥ずかしいというか、背中が痒くなってくるな。


 ん? ちょっと待てよ?

 なんか前半部分流すようにディスってなかっか? ロリコンとか変態とか。



…………。



……気の所為だな、うん。気の所為気の所為。


 クレアは「それにね」と悪戯めいた顔で続けて口にする。


「セレナって絶対あんたのこと好――」

「あわわわ! ちょっとクレアさん、何を言おうとしてるんですかぁ!!?」


 話しを遮るように、セレナは慌ててクレアの口を覆う。

 モガモガッ! と暴れている彼女に、セレナが小声で何かを言っている。


(クレアさん、余計なことは言わないで下さい! 平太さん絶対勘違いして調子に乗りますから!!)

(ごめんごめん。つい悪戯心が疼いちゃったのよね)

(もう、勘弁してくださいよぉ)


……なんだろ、すげー気になんどけど。女子の内緒話ってどうも気になるんだよな。それも、目の前でされたら特にね。


「セレナに怒られたくないし、私はもう行くわ。あっヘイタ、里を救ってくれてありがとね。セレナも頑張んなさいよ、色々と」

「……むー」


 よく分からんけど、クレアは自由人なんだって事は理解した。からかうだけからかってどっか行っちまったよ。


「変な奴だな、クレアって」

「良い人ではあるんですよ」


 少し困った表情でクスリと笑うセレナ。

 まぁなぁ……見ず知らずのセレナに手を差し伸べてくれたんだから、良い奴なのは間違いないんだろう。


「ヘイタ様、宴は楽しんでいらっしゃってるでしょうか」

「うぉお! ビックリした!!」


 突然背後から0距離で声をかけられた。それも耳元の近くで、熱のある色っぽさを含ませて。


 この声は……ルーシーか。


 不意にするのはマジでやめて欲しい。体が反応しちゃうから、どこかとは敢えて言わないけども。


「平太さん、この綺麗でナイスバデーな方はどなたですか?」

「ああ、セレナはまだ知らなかったな。こいつは「奴隷です」」


「「…………」」


……ん?


 紹介の途中を遮れ、何か言ってはいけないモンをぶち込められた気がするんだが……気の所為だよな。


 さぁ、気を取直してレッツトライ!


「こいつは「私はヘイタ様のメス豚奴隷です」」

「おいぃぃぃいいいッ!! こっちがワザとスルーしてやってんのに余計な言葉足してぶっ込んでくんじゃねーよぉお!!」

「アアッイイッ! イイですヘイタ様! もっと言って下さい! もっと罵って下さい!!」


 俺が怒鳴ってんのにルーシーは萎縮するどころか恍惚とした顔で身悶えている。震える己の身体を抱き締め、気持ち悪い動きをして、厚い唇から涎が垂れ流していた。


……ちょ、マジでこいうヤバイんだけど。


「……これは、どういう事ですか? 私が居ない間に、平太さんは変態を奴隷にしたんですか? もしそうなら、流石に見損ないますよ」

「待てセレナ、お前は多分勘違いしている。俺とルーシーはそんな関係じゃ――」

「いえ、勘違いではありません。私は正真正銘ヘイタ様のメス豚奴隷です」

「ほらぁ! やっぱりー!!」

「おいテメェ、もう口出しすんじゃねぇ! 話しがややこしくなるだろーがッ!!」

「アアッ! ヘイタ様の命令口調最高ッ!!」

「へ……平太さんが変態さんと変態プレイしてますぅ……」


 いやいやいや、プレイじゃねーから!

 ドン引きしているセレナに、ルーシーが変態になってしまった経緯を詳しく丁寧に説明する。

 するとセレナは怪訝そうに目を細め、


「これまで厳格だったルーシーさんが、平太さんと戦った後に変態こんなんになってしまったと……」

「そうなんだよ、やっと分かってくれたか……」

「でもそれって、平太さんがあの技を使ったからですよね? エリザさんに使ったあの、いかがわしい技を」


 うぐっ!


「それってやっぱり、平太さんの所為だと思うんですよねぇ」

「あの時の俺はテンションが狂っていたんだ……」


 それにまさか、絶頂殺しでルーシーが変態化するなんて思わなかったんだよ!

 俺は悪くないッ! 悪くないんだッ!!


「そうです、ヘイタ様は一切悪くありません」

「ヒッ! おまっ」

「ヘイタ様のお陰で私は本当の自分に気付けたのです」


 ルーシーは背後から俺の体を抱き締めると、手指を舐め回すように胸や腹に這わせてくる。

 その瞬間、全身に鳥肌が走った。


「ちょ、くっつくな気持ち悪ぃんだよ!」

「アアンッ! 乱暴なヘイタ様も素敵です!!」


 すぐ様力づくで引き剥がすと、変態エルフは悲しむどころか最上の喜びを表していた。


 アカン、これはアカンやつや。俺じゃもう手に負えないよぉ。


「本当にそう思ってますぅ? 巨乳の美人さんに抱き着かれて喜んでるんじゃないんですかぁ?」

「俺は巨乳も美人も大好きだけど、アブノーマルな奴は守備範囲外なんだよ!」


 疑いの目を寄越すセレナへと懸命に訴える。

 マジな話し、SMとか苦手だからね。軽蔑してるとかじゃないけど、自分がそういう事したいとは思わないよ。


「こらルーシー! お前またヘイタ様に迷惑かけおって!!」

「と、父様!?」

「それに誇り高かったお前が変態に堕ちてしまうなんてどういう事だ! 私が一から精神を叩き直してやる、ついて来い!!」

「父様離して下さいっ! 私はヘイタ様と共に……ヘイタ様、ヘイタ様ァァァァアアアアッ!!」


「「…………」」


 父のルーファスさんは、嘆く娘の首根っこを鷲掴み去って行った。

 変態が居なくなって安堵するが、今日の女神様は一段と厳しいようで、


「平太さん、この件は後日詳しく聞かせてもらいますよ」

「……はい」


 有無を言わさぬ声音に、俺は只々頷くしかなかった。


 セ、セレナがいつになく恐い。

 そういえばこいつ、荒神化してリリスとバトってたっけ。

 あの時も尋常じゃない程キレてたよな……うん、今のセレナは怒らせるヤバそうだから気をつけておこう。


「どうじゃ、エルフの里は」


 俺とセレナ間に、チムバァさんが現れる。彼女は質問してくる割には自信に満ちた顔を浮かべていた。

 どうと聞かれても、俺達の答えは一択しかない。


「良い所に決まってんじゃん。空気が澄んでて気持ち良いし、【ヒンヌー族】や【キョヌー族】のエルフ達も楽しい奴らばっかりだし」

「ご飯もすっごく美味しいですしねぇ」


 おい食いしん坊女神、他に沢山あるだろ。お前の脳内メーカーはきっと『飯』だらけだな。


「ふぇっふぇ、そうじゃろ。この里は良い所じゃよ」


 俺達の返答に満足そうに笑うチムバァさん。

 あっそういえば聞かなきゃいけない用事があったんだった。今の内に聞いておこう。


「なぁチムバァさん、ちょっと知りたい事があるんだけどさ」

「シルヴィア共和国に行くとええぞ」

「……え?」

「次の魔王を探しに行くんじゃろ?」

「うん、まぁ……そうなんだけど……」


 聞きたかった内容を先に言われ驚く。まだ何も内容に触れてないのにどうして分かったんだろう?


「趣味で占いをやっててね、アンタが聞いてくる事も予め把握してたのさ」

「趣味の範囲にしてはすげーな……」

「伊達に1500年も生きてないわい。極め過ぎて、ほんの少しじゃが未来も視えるようになったわい」


 いやそれ、もう占い師の領域越えてんじゃん。未来予知師にランクアップしてんじゃん。


 チムバァさんは「話しを戻すぞ」と言い続けて口を開く。


「ここから北に向かい森を抜け、真っ直ぐ向かうと『アトラティウス』という水の都に辿り着く。そこから船が出ておるから、船に乗って『ミロード大海』を渡りシルヴィア共和国に行くと良いぞ」

「海を渡るのか……」


 俺、まだ一度も船に乗ったこと無いから楽しみだな。ガラにもなくウキウキしてくるぜ。


「そこのナンチャラ共和国とやらに、俺達の目的があるんだろ?」

「行ってみれば分かるさね、そう急ぐでない」


 何だよもう、焦らすなぁ。


「馬車では森を抜けられんから、食料と旅の道具を用意しておいたぞ。遠慮せず待って行くといい、何せお主はこの里を救ってくれたのじゃからな」

「ありがとう、助かったわ」

「チムバァ様、何から何までありがとうございますです」


 二人揃って頭を下げ感謝する。するとチムバァさんは「ええんじゃよ」と年寄りらしく柔和に微笑んだ。


 しかしその直後、彼女は真剣な顔で作りセレナに向き合うと、


「セレナ……いや女神様。貴女はこの先"大切な選択をしなけらばならない時が二度あります"。決断するのは貴女次第ですが、どうか悔いの無いようお決め下され……」

「はぁ……分かりました」


 唐突な話しについていけてないセレナは、分かったような分かってないような曖昧な返事をした。

 というか今、チムバァさんセレナのこと女神様って言い直してたよな。こいつの正体知ってたのか?


「……ッ」


 チムバァさんの表情を盗み見て、何故か分からないが絶句してしまった。


 何故だろう。


 余り上手く説明できない。


 ただ。






 困惑しているセレナを見るチムバァさんの顔が切な気で、



 今にも涙を零しそうだったからなんだと思った。

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