宴
「宴だ宴だ!」
「飲め飲め飲みまくれー!」
「幻闘祭にッ!」
「ヘイタ様の活躍にッ!」
「「カンパーーーーーーーーーーーーイッ!!」」
月が満ちた夜。場所は大広間。
【ヒンヌー族】のエルフ、【キョヌー族】のダークエルフが、共に肩を抱き合い腕を組み合いながら杯を交わし合っていた。
巨大なキャンプファイヤーを焚き、民謡を歌い、楽器を奏で、美味い飯にかぶりつく。
今日ばかりは啀み合うことを止め、一族の垣根を越えて後夜祭を楽しんでいる。
男も女も老人も子供も、皆が溢れんばかりの笑顔を浮かべているのだ。
勿論俺も、宴を大いに満喫している。というか、幻闘祭の主役はまさに俺なのだ。
「ヘイタ様、幻闘祭の勝利誠に感謝しております。おや、杯が空のようですな。では【キョヌー族】一番の酒を……おっとヘイタ様はまだ酒が飲めないのでしたな。では甘い果汁をどうぞ」
気の良いダークエルフのおっさんが鮮やかな色の果汁ジュースをコップについでくれたり、
「ヘイタ様、森喰らいを倒して頂き有難うございます。【ヒンヌー族】絶品の鹿肉、どうか堪能して下され」
柔和に笑む若いエルフの青年がこんがり焼けた鹿肉をくれたり、
「「ヘイタさま、たすけてくれてありがとーー!」」
エルフとダークエルフの天使のような幼女が、手作りの花飾りを首に掛けてくれたりと至れり尽くせりだった。
それもそうだろう。
ルーシーを倒し【キョヌー族】の代表となり。【ヒンヌー族】代表の特急冒険者アガムを下し。森喰らいと呼ばれ、魔王ですら歯が立たない万年亀という魔物を消滅させた俺は、エルフの里と住民を救った英雄なのだから。
あのデケー亀を打ち倒した俺を待っていたのは、万雷の感謝。
エルフもダークエルフも関係なく抱擁され、ありがとうとお礼を言われる。
それも美女に。沢山のおっぱいに囲まれた時は、ここが天国かって思ったね。
……まぁ、ガチムチの男共にも暑苦しく抱き締められて相殺というかプラスマイナスゼロというか寧ろマイナスだったんだけども。
それと、後からセレナがこっそり話してきたんだが、どうも一瞬エルフ達は酷く狼狽していたらしい。
森喰らいが倒れた事は勿論喜ばしいことなのだが、伝説級の魔物を跡形も無く消し飛ばした俺はヤベー奴なんじゃないか? 一緒にいて大丈夫なのか? と恐怖を抱いたんだと。
生まれてしまった恐れが伝染しそうになったのだが、それを止めたのはなんとルーシーだった。
『何を恐れるか。 ヘイタ様は我らエルフの誰よりもおっぱいを愛するお方。そんなお方が我等に危害を加える訳がなかろう! ましてや、我等【キョヌー族】は一度無実のヘイタ様を捕らえ処刑しようとした。しかしヘイタ様は力を使わず、おっぱいへの情熱を語って我等を説き伏せたのだ。抗う力を……いつでも我等を殺せる強大な力があったにも関わらずにだ!! なのに今更、ヘイタ様が我等を害する事は有り得ない。我等はあのお方に感謝こそすれば、恐怖を抱くなどあってはならんのだ!!』
彼女の一声に、エルフ達は雲が晴れたような顔をしていたんだと。
俺がこうやって皆に感謝されるのはルーシーのお陰でもあったんだ。
……後でルーシーにお礼を言っておこう。
ついでの話しなんだが、俺が戻った際にリリスの姿は何処にも無かった。セレナが言うには俺が戦っている時まで居たのだが、亀が倒れた後居なくなってしまったらしい。
まぁあいつは突然現れてふらっと消える奴だからな。
挨拶ぐらいしたかったが、また何処かで会えるだろ。
「うまうまー! エルフのご飯どれもこれも美味しすぎますよぉぉ!」
「おま……どんどけ食ってんだよ」
隣で爆食いしているセレナは目尻が垂れ頬は緩み、幸せそうな顔で料理を次々と平らげていく。
主にエルフ達から献上された料理を俺の手元から掻っ攫っていく形だが……。
……おいセレナさん、少しぐらいは俺が食べる分を残して置いてくれよ。頼むよ?
あっ! その果物俺が食いたかったのに、こんにゃろ!!
「ヘイタ殿、宴は楽しんで頂けているかな?」
「アガムにルーシーのオヤジさんと……えっと」
「【ヒンヌー族】長老、クウガです」
「おっと、そういえば名乗っていませんでしたな。ルーシーの父であり【キョヌー族】長老のルーファスです」
狙っていた料理をセレナから取り返そうとしていたら、ガチムチでダンディな三人のおっさんに囲まれた。
アガムとルーシーのオヤジさんのルーファスさんとは面識があったが、クウガさんとは初対面。
俺も「平太です」と軽く返すと、突然クウガさんが深々と頭を下げて口を開いた。
「ヘイタ殿、森喰らいの脅威から我等を救って頂き誠に有り難うございます」
「お礼はもういいですよ、沢山の人に言って貰いましたから」
「いやいや、そういう訳にはいきませぬ! 我等エルフは義を重んじます。エルフの一族を救って頂いたヘイタ殿にはどれだけ感謝しても足りませぬ!」
大丈夫だと言っているのに、クウガさんは全く態度を変えずグイグイくる。律儀というか、真面目な人なんだな。
感謝され過ぎて困っていると、空気を察した他の二人が助け船を出してくれる。
「まぁまぁ、今は飲もうではないか。なぁアガムよ?」
「うむ、それが僥倖かと」
「そ……そうか? 二人がそう言うのなら。確かヘイタ殿は酒を飲めないのであったな。ならば【ヒンヌー族】自慢の――」
俺はおっさん達と乾杯する。
アガムの武者修行の話。
ルーファスさんの、俺の所為で可愛いルーシーがぶっ壊れてしまったどうしてくれるんだ責任取りやがれこんちくちょう、という何と無く怖い話。
クウガさんの、娘が里を出て行ってから中々帰って来ないし、帰ってきたと思ったら態度が冷たいという親バカな話。
最後はやっぱりおっぱいの話になり、巨乳かちっぱいどっちのおっぱいが至高か揉めたが、取り敢えず盛り上がり。
三人のおっさんは肩を組み酒を飲みながら上機嫌に去っていった。
俺は三人の楽し気な後ろ姿を眺めながら、いつしか自分もあんな大人になりたいと思うようになった。




