魔王の間3
短いです
「……」
「……」
「……アイツを殺す事が出来なかった、悪かったわね」
「仕方あるまい。お前のことだ、策を弄したのだろう? それが通用しなかったとすれば、異世界の人間が一枚上手だったという話しだ」
「……そうね、アタシなりにやってみたけど、全く駄目だった。ヘイタって馬鹿が付くぐらいおっぱいが好きで童貞だから、オトすのもチョロそうだと思ってたんだけど……意外とガードが堅かったわ。アタシのこのカラダに食いついてこなかったし。それにしてはドサクサに触ろうとすんのよね、あのスケベ野郎」
「……そ、そうか」
「っていうか、女神にゾッコンでアタシに眼中が無かった。なんかムカついたから、女神に喧嘩を吹っかけてやったわ」
「それ、ただの八つ当たりではないか?」
「そうとも言うわね」
「……そういえば、お前の管轄地から巨大な魔力の反応を感知したのだが、何か知っているか?」
「あーそれ、万年亀の魔力よ」
「万年亀……万年亀だと!? 万年亀とは、もしや森喰らいの事を言っているのか!?」
「うん」
「馬鹿な……伝説上の生物だとばかり思っていたのだが、実在したというのか……」
「うん、いた。アタシも見た時はビックリ仰天よ。あり得ねーて感じ」
「数千年に目覚め、地上の森を喰らい尽くす怪物……。内包する魔力は俺達魔王を遥かに上回る。俺が幼き頃、森喰らいにだけは闘いを挑むなと聞かされていた。こう言ってはなんだが……よく生きて帰って来れたな、お前」
「アタシだってあの常識外れの化物を目にした時はヤバいと思った。駄目だと思った。遠距離から吐息ブレスを吐かれた時なんて『あっ駄目だ、死んだな』って諦めたわよ。山よりもデカいし、魔力は半端なくて、私達とあの化物には絶対的な差があった。でも」
「……」
「でもアイツは、ヘイタは……異世界の人間は、森喰らいの吐息を弾き飛ばしたんだ。それで、その後一人で森喰らいに挑んで……倒しちゃった」
「何だ……と。森喰らいを倒したというのか? 何が起こった! 異世界の人間は一体何をしたというんだ!?」
「直に見てたんだけど、正直アタシにもよく分かんない。ヘイタの魔力が急に膨れ上がって、森喰らいに向かって行って、戦って、殺した。いや――消した」
「……消した?」
「消滅、焼滅、破壊、破砕。そこん所の性質は謎なんだけど、多分一番近いのは、"侵食"。兎に角ヘイタが超密度の魔力を放出した瞬間、森喰らいが消えた。跡形も無くね」
「な……に……」
「魔王のアタシがこんな事言うのも何だけど、ビビった。"アレ"はヤバイ」
「……」
「多分ヘイタの次の目的地はアンタの管轄地になると思う。その……頑張んなさい」
「……ああ」
「どう、ビビっちゃった?」
「……いや、胸が踊っている。森喰らいを屠る強者、是非共一戦交えたい」
「まっ、アンタならそう言うと思ったわ」
「俺はもう戻るとしよう。その前に、リリス」
「何よ」
「……"また会おう"」
「ぷっ、似合わない事言ってんじゃないわよ。"じゃあね"」
「……ああ」
一人の魔王は消え、一人の魔王が残った。そして、
「さって、アタシも帰――」
『れると思ったか?』
「――ゴフッ!!」
闇が蠢く。
リリスの胸から、漆黒の手腕が咲いた。
『無様な失態を犯し、あまつさえ殺すべき敵と馴れ合う愚かな魔王を、この私が見過ごすと思っていたか?』
「……ハッ、んな甘っちょろいことなんて考えてなかったわよ。ここに来る前から覚悟はしていたわ」
『ほう、それは殊勝な覚悟だ。一応魔王の矜持は残っていたか』
「はん、そんなんじゃないわよ。もう長く生きたし、最後にイイ思い出も出来たし、それに……」
『……』
「アタシは最初からアンタの上から目線が気に食わなかったのよッ」
『そうか、では死ね』
「ガッ……ハ」
倒れる。
消える。
散ってゆく。
(ヘイタ……アンタならきっと、コイツを……)
肉体は滅び、残留する魂魄は闇へと吸収される。
『……』
闇は、苛ただし気に呟いた。
『どうにも思い通りに進まんな。まぁいい、倒れた魔王の魂は我が手にある』
闇は少しずつ、暗闇の中に溶けていったのだった。
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