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幻闘祭



 俺が今いる場所は、【ヒンヌー族】側の大広場。

 そこには現在、【ヒンヌー族】と【キョヌー族】を含め全てのエルフ達が立ち会っていた。


 そして俺の対面には、絹の如く細く長い金髪に女を虜にする甘いマスク。ガチムチで文句一つ出ない美男だが、何故かふんどし一丁しか身に纏っていない変態のエルフがいた。


……こいつがアガムか。


 ダークエルフ、主にルーシーから知り得た情報によると、こいつはエルフの中で一番強いらしい。

 強さを求め武者修行の旅に出たのだが、幻闘祭に出場するために一時的に帰郷しているんだとか。


 それと本当かどうかは知らんが、このアガムは世界に四人しか存在しない特級冒険者の一人だそうだ。こんな場所で珍しい人物に会えたもんだなぁと感慨深いものがある。


 俺の背後にはダークエルフ、アガムの背後にはエルフがいて、お互い睨み合っている。

 大広間の空気が殺気立つ中、俺とアガムの間にいる最長老のチムバァが幻闘祭の開始を宣言した。


「ふぇっふぇ、これより幻闘祭を行うぞ。代表の両名は名を上げい」

「【ヒンヌー族】代表……アガム!」

「【キョヌー族】代表……平太!」


 俺達が代表であると叫ぶと、チムバァは「ふぇっふぇ、よろしい」とこっくり頷いた。


「幻闘祭のルールは至って簡単じゃ。相手を気絶、又は降参させた方の勝利じゃ。武器、魔法の使用は禁止。ただし魔力による身体強化は使用可能じゃ。では双方、代表に相応しい戦いを繰り広げるのじゃ。幻闘祭……開始!!」



 チムバァによって戦いの火蓋が切って落とされる。


「さぁヘイタよ、何処からでもかかってくるがいい!」


 左手を突き出し右手を引き、腰を落として低く構えるアガムが獰猛な笑みを浮かべて挑発してくる。


……あっこいつ戦闘狂だわ、と奴の表情を見て瞬時に悟った。

 戦いが好きで好きでたまらないって顔をしてやがる。


(いいぜ……だったら俺も存分に戦ってやるッ)


 俺も久々に、おもいっきし体を動かしたかったんだ。


「一瞬で終わってくれるなよ!」


 強く地面を蹴りつける。

 一歩二歩三歩と加速させ、凄まじい勢いでアガムへと接近。


「はっ!」


 狙うは顔面。勢いが十全に乗った拳を撃ち放つ。


 ――が、


「何の!」

「ッ!?」


 首を傾けられ、紙一重で躱されてしまった。

 全力の一撃を避けられた事に軽く驚いたが、俺は動揺を隠し間髪入れずに次の攻撃を繰り出す。


「はぁああ!!」


 横っぱらにブロー、顎にアッパー、側頭部にハイキック。息つく間を与えない連撃。

 しかし残念ながら俺の猛攻は全て避けられる、或いは受け流されてしまっていた。


「おいおい嘘だろ……」


 今度ばかりは動揺を隠せなかった。

 最初に伝えておくが、俺は"全力"で戦っている。けど、あの魔王ですら捉えずにいた俺の攻撃をアガムはしかと見切っているのだ。


 俺のスピードについてこれるなんてこいつ相当――


("目が良い")


 いや、目だけじゃない。反射神経もずば抜けてやがる。


「ふぅ、恐るべき速さと力だ。これ程の攻撃は初めて受けたぞ、捌くので精一杯だ」

「……お前、目がいいのな」

「うむ? まぁ元々我等エルフは狩人だからな、目が良いのは当然だがそれがどうかしたのか?」

「いや、何でもない」


 そっか……目が優れているのはエルフの特徴なのか。まぁそれでも俺の攻撃に反応出来るのはこいつぐらいだと思うけど。


「どうした、もう打ってこないのか? 遠慮せずもっと攻めてくるがいい、攻め立ててくるがいい! 私はいかなる攻めも受けてみせよう!!」


 何か言い方が気持ち悪いんだけど……アガムの言う事も最もだ。いつまでも驚いていたって仕方ねぇ。

 見切られてしまうのなら、反応が追いつけないぐらい攻撃の数を増やせばいいだけの話しだ。


 俺は「ふっ!」と強く短く息を吐き出すと、アガムに向かって突進する。


「おらおらおらおらぁぁああああ!!!」

「いい、イイぞヘイタ! もっとだ、もっと打ってこい!!」


 くっそ駄目だ、全然当たんねぇ!

 惜しいのはあるんだが、全部すんでの所で受け流されちまってる。



 ボクシングの防御技術に『スリッピングアウェー』という技がある。

 パンチが伸びる方向と同じ方向に顔を背けるように受け流したり躱したりする高等技術だ。

 その技を使えるだけでも凄ぇのに、アガムの場合顔だけでなく体全体で行っている。


 手、肘、肩、腰、足。

 ありとあらゆる部分を捻り、ねじり、回転を加える事によって俺の連撃を回避していた。


 冗談じゃねぇ、そんな事されたらどう当てればいいんだよ。


「隙あり」

「ッ!?」


 俺が生んだ焦りを見抜いたアガムが初めて攻勢に出る。

 パンチを避けると同時に俺の右手首を掴むと、力強く引っ張ってきた。


 アガムは体を半回転させると、自分の背中に俺を背負い、


(これはまさか、柔術!?)


 気づいたが時既に遅し。地面から足が離れ、宙を舞った俺は――


「ガハッ!!」


 受け身をする間もなく、背中から地面へと叩きつけられたのだった。





 平太が綺麗な弧を描きながら背負い投げされた場面を目撃したセレナは、目を見開き開いた口が塞がらなかった。


「まさか、平太さんが……」


 どんな敵も軽くあしらい、あの魔王ですら赤子の手を捻る如く倒した平太の攻撃が全く通用せず、ついには反撃を許してしまった。

 恐らく平太は本気で戦っているだろう。攻防が速く目で追いつけないので分からないが、平太の顔は真剣そのもの。とても手加減しているようには感じられなかった。


 そんな本気を出している平太が、攻めあぐねている。

 さらにこれまでの戦いで、彼が地に伏せられた姿をセレナは初めて目にしたのだった。

 隣にいるクレアが、驚嘆した顔で呟く。


「正直速すぎてよく分からないんだけど、セレナの言っていた通りあのヘイタって奴相当強いわね。それとアガムの奴も、元から強い事は知っていたけどあんなに強くなっていたなんて……」

「そ、そうですね」


 二人が会話を続けている間にも、立ち上がった平太が果敢に攻め込んでいる。

 しかし攻める度に何度も避けられ、投げ飛ばされてしまっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 埃一つ付着していないアガムとは逆に、息が上がっている平太は幾度も地面に叩きつけられた事で土まみれになっていた。そんな彼を見つめる特級冒険者は、満足気な表情で口を開く。



「もう降参してもいいのではないか。これ以上やっても変わらんだろ」

「馬鹿野郎、何言ってやがる。やっと掴んできた所なんだ、こっからがいい所だろうが」


 敗北宣言を促すが、平太はアガムの案を一蹴する。負けを認めるどころか、彼の目は死んでいなかった。むしろ、生き生きしていると言えるのではないか。


「ほう、ならば次で決めよう」

「焦んじゃねぇよ、勝負はこっからだろ」

「――ッ!?」


 平太が放つ雰囲気が一変する。

 目つきが一段と鋭くなり、集中力が高まっていた。


 今までと同じように、平太から攻撃を仕掛ける。

 が、アガムが攻撃を受け流し平太の態勢を崩す展開が繰り返されてしまった。

 先程と同様ならば、平太はこの後投げ飛ばされてしまうだろう。


 しかし、今回はそうならなかった。


「ふっ!!」

「何ッ!?」


 平太は投げ飛ばされる寸前体を捻り、強引に態勢を変える事で足から着地しアガムの投げ技を回避する。


――が、それだけでは終わらなかった。


「はぁぁあああああっ!!」

「ッ!!?」


 平太は両手でアガムの右手首を掴むと、腹筋と背筋に力を込めて彼の巨体を引っ張りながら持ち上げる。


 体を半回転させながら、ドンッとアガムを地面に投げ飛ばした。


「が……まさか私が投げられるとは。ヘイタ、もしや私の技を盗んだのか?」


 叩きつけられたアガムが、ゆっくりと立ち上がって平太に問いかける。平太はニヤリと悪戯が成功した子供のように笑うと、


「ああ、時間かかっちまったけどお前の技は大体理解した。その為にメタクソ投げられたけどな。とはいえ、もうこれで俺には投げ技が効かないぜ」

「はっ……たったこれだけの時間で私が長年かけて編み出した技術が盗まれたというのか。それが事実だとしたら……お前は化け物だな」

「そうだな、よく言われるよ」


 平太は「さぁて」と肩をコキコキ鳴らすと、


「いいもん見してもらったし、俺も面白い技を見せてやるよ」


 そう言うと、少年は猛然とアガムに迫る。

 その勢いは凄まじく、圧力は今までよりも重厚で、アガムは一瞬怯みながらも防御を試みた。

 平太が繰り出す拳撃を受け流そうとした刹那――



「星皇拳――」

「ッ!?」


 眼前から平太の姿が消滅し、背後から声が聞こえる。

 急いで振り向き受け流そうとするが、振り返った時には既に彼の拳が鳩尾に突き刺さっていた。



「"虚宿とみてぼし"」

「カハッ!!」


 平太の拳をまともに喰らったアガムは、ガクリと膝から崩れ落ち意識を失ったのだった。




「そこまで! 勝者、【キョヌー族】代表、ヘイタ!!」

お読み頂きありがとうございます!

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