おっぱいの伝道者
迎えた幻闘祭当日。
エルフ達による前夜祭を大いに満喫したセレナは、クレアと共に里の大広場へとやって来ていた。
エルフとダークエルフが総出で集まる場所だけあって、この大広場はかなり広い。
もう全てのエルフが集まっているが、まだまだ空間には余裕があった。
が、まだダークエルフ達の姿はどこにも見えない。
セレナは隣に佇むクレアに尋ねた。すると彼女は首を傾げ、
「確かに遅いわね、昨日チムバァが様子を見に行っている筈だから大丈夫だとは思うんだけど……噂をすればってやつね、来たわよセレナ」
クレアが指を差す方へ顔を向けると、肌が黒いエルフ、ダークエルフと思われる集団が見えた。
しかし――
「……むむむ?」
セレナは目を細める。
先頭にいるのは、大きな胸を張って凛と歩むダークエルフの女性。
その背後にはだダークエルフのたくましい体付きの男性と、胸が大きい女性がズラリと並んでいる。
その集団から発せられる空気は重く、民達の顔は異様に引き締まっていた。まるで、今から戦争でも始めそうな雰囲気を醸し出している。
そんな中、集団の中でも一際目を引く者がいた。
その者は集団の中心にいて、数人のダークエルフ達が担いでいる神輿台座に仰々しく鎮座している。
神輿に座っている人物に、セレナは見覚えがあった。ありまくった。
っていうか見知った少年だった。
そして少年は立ち上がると、高らかに叫んだのだった。
「巨乳は最高!」
「「巨乳は最高!」」
「巨乳は正義!!」
「「巨乳は正義!!」」
「巨乳は神ッ!!!」
「「巨乳は神ッ!!!」」
「おっぱーーーーい!!」
「「おっぱーーーーーーーーーい!!」」
「「おーっぱい! おーっぱい! おーっぱい!」」
少年を筆頭に、ダークエルフ達がおっぱいと連呼する怪し気というか絶対にお近づきたくない集団。そして、その中心にいる少年は、セレナがずっと探し求めていた人物だった。
「うげー……いつの間にダークエルフは頭おかしくなったのかしら」
「へ……平太さん」
「え?」
ポツリと呟く。
そう、台座で狂ったようにおっぱいおっぱいと絶叫しているのは、紛れもなく平太である。何度瞬きをしても間違いない。
平太が見つかったことに内心でほっとするが、事が事なだけに素直に喜べなかった。
冴えない顔の少年は一体どういった経緯であんな場所にいて、あんな馬鹿なことをしているのだろうか。
若干気が動転しているセレナへと、クレアが信じられない……といった表情で尋ねる。
「ね、ねえセレナ? もしかして"アレ"がヘイタなの?」
「……………………はい」
長い間があった後、セレナはがくりと項垂れた。嘘つこうかとも考えたが、どうせ後々分かるので正直に暴露する。
「へ……へー……。聞いてた通りの変人ね、ていうか変態ね」
「……」
「ま、まあ良かったんじゃない? 無事に見つかってさ」
「それはそうなんですけど……もう、平太さーーーん!!」
身内の恥を見られて悶え苦しみベソをかくセレナ。
そんな彼女を横目にクレアは「あれはヤバいわ……」と嫌いな食べ物を無理矢理口の中に突っ込んだ表情で呟いた。
展開はもっとややこしくなる。
ダークエルフが近づいてくると、その異様な雰囲気に当てられたのかエルフ達からも声を荒上げる者が出始めたのだ。
「何が巨乳は最高!だ! ちっぱいのほうがイイに決まってる!」
「そうだそうだ! あんな乳ただの駄肉ではないか!」
「ちっぱい舐めんなよ!」
「巨乳は男を惑わす魔乳! 聖なるちっぱいこそ正義じゃ! 何故そんなことも分からん!」
「そうよそうよ、大きいからって何なのよ! 威張ってんじゃないわよ!」
「ちっぱいこそ……至高である!」
こっちも言いたい放題だった。
猛々しく吠えるエルフ達を他所に、セレナとクレアは酷く呆れている。
「何なのよこの茶番……」
「大きいか小さいかなんてどっちでもいいですよぉ……」
氷の如く冷え切った二人の感情とは裏腹に、広間のボルテージは最高潮に達してしまう。
「おっぱいといったら巨乳、巨乳といったらおっぱい!」
「そうよ! ナイチチ張ったところで恐くも何ともないのよ!」
「「貧乳貧乳ひーん乳ッ!!」」
「巨乳なんて邪魔なだけじゃない!」
「そうよ、肩も凝るし!」
「あの慎ましいちっぱいが魅力じゃと何故気付かんのじゃ!?」
二つの部族が激しく主張し罵り合う。
そんな、誰もこの状況を止めることが出来ない中、一人の男が躍り出た。
「私は【ヒンヌー族】代表のアガムッ! ここで双方が口で争ったところで何の益も無い! ここは幻闘祭で決着を着けようではないか!! そこにいる若き少年よ、見たところお主が代表とお見受けする、名を名乗れ!!」
【ヒンヌー族】代表のアガムが勇ましく問うと、悠然と台座に立つ少年は堂々とした姿で、
「俺の名は平坂 平太! 巨乳を愛する誇り高き【キョヌー族】の代表であり」
ドンッ!と強く胸を叩き、声を大にして言い放ったのだった。
「どこにでもいる、おっぱいの伝道者だ」




