ダークエルフのリリ
「はいはい……こっちですね。ありがとうございますですぅ」
セレナの植物と会話できる能力によって今の所、俺達は順調にナロード森林を進んでいた。いや、順調に進んでいると思いたい。こんな所で迷子になったらマジで死んじゃう。
なんだろう……頼りになるのがセレナしかいないって凄く不安だわ。
「なぁセレナさんや、本当に道はこっちで合っているのかい?」
心配になって尋ねると、セレナは大きなおっぱいを張って、
「大丈夫ですって、大船に乗ったつもりで私に任せて下さい!」
「……そうだな、お前だってやればできる子だからな」
「そうですよぉ、私はやればできる子ってそれどういう意味ですか? ねえ平太さん、ねえったら」
確かに同じ場所をグルグル回っているという森あるあるは今んところ無さそうだ。実は俺、セレナに内緒で木とかに目印を付けていたんだけど、一度もその目印を目撃していない。という事は、未だ迷子にはなっていないようだ。
今まで役立たず扱いしてごめんなセレナ。まさかお前がこんなに役に立つ日が来るなんて思わなかったよ。心の中で謝罪し、俺の中のセレナの株が急上昇に上がっていると、
「はぅあ!?」
と、突然セレナが謎の奇声を発した。
ちょ……セレナさん、今の何? 何か起こったのか? やっぱりお前はダメな子だったのか!?
怪訝な表情で様子を窺っていると、セレナは青ざめて顔でこう言ってきた。
「平太さん緊急事態です」
「は?」
「ちょっと私、ここを離れるので少し待っていてくれませんか?」
こいつは一体何を言っているんだ? そんなの駄目に決まってるだろ。
「大丈夫です! すぐに帰ってきますから! 本当すぐです! すぐ!」
「馬鹿かお前、ここで離ればなれになっちまったらお終いだぞ! っていうか何で急にそんな事言い出すんだよ。理由を言え理由を」
顔を近づけながら追及すると、セレナはモジモジしだし小声で、
「いやーそれはですねぇ、ちょっと言えないというかぁ~企業秘密というかぁ~」
「はぁ? 何だそれ舐めてんのか」
「少しは察して下さいよぉもう! おしっこですよ! おしっこがしたいんですぅ! 女神にこんな事言わせないで下さいよバカァ!
「ああそう」
うん、途中から気付いてたんだけどね。なんていうか、女神の口から『おしっこ』という言葉を聞きたかったんだ。意地悪してごめんな。
「やっぱり平太さんはど変態の鬼畜野郎です」
俺が変態? はて、どこら辺が変態なのだろう。ボクワカラナイ。
「はぁ、もういいです。私は少し席を外しますから、平太さんはポチとここで大人しく待っていて下さいね」
「いや、行かせねえよ?」
踵を返そうとするセレナの腕をガシッと掴む。理由は分かったが、やはり行かせる訳にはいかないな。
「この手は何でしょうか?」
「いや、おしっこならここですればいいじゃん。ほら、丁度いい感じな形のビンもあるし」
「鬼畜ですか!?」
「だってお前、本当に帰って来れなさそうだし……」
「帰ってきますよ! そんな遠くに行きませんし」
「……分かった。早く済ませろよ」
掴んでいた腕を離す。セレナが半ベソをかきだしたから、流石に可哀想かと思ったのだ。俺から解放されたセレナは行こうとするが、チラッとこちらを振り向いてきて、
「一応言っておきますけど、覗いちゃダメですからね」
「誰が覗くかバカ! さっさと済ませてこい!」
全く、あいつは俺の事を何だと思ってるんだ。そこまで落ちぶれちゃいねえっつの。
いや行かないよ? 絶対に行かないからね?
「…………」
セレナがおしっこに行ってから5分後。
「……来ねえな」
「ブルル」
「まぁあいつも一応女の子だからな。これぐらいはかかるだろ」
セレナがおしっこに行ってから10分後。
「あれ、ちょっと遅ぇな、何やってんだ」
「ブル」
セレナがおしっこに行ってから30分後。
「……」
「……」
セレナがおしっこに行ってから一時間後。
「ふざけんな! 全然来ねえじゃねえかあのクソ女神ッ!!」
「ブルァアアアッ!!」
どんだけ待たせんだよ! ほらみろ、絶対何かあっただろ! だから行かせたくなかったんだよ!!
入れ違いになりたくないからジッと待っていたが、もう我慢の限界だ。どうせセレナの身に何かあったに違いない。あいつの言葉を信じた俺がバカだった。ポチだって鼻息荒く、かなり怒っている様子。くっそー今度こそ絶対許さねえ。
「キャーーーーー!!!」
「何だ?」
「ブル?」
アホ女神に対して憤慨していると、突如甲高い女性の悲鳴が聞こえてくる。やっぱり何かあったのか。ちっ仕方ねぇなあもう!
「行くぞポチ、走れるか?」
「ブルル」
問いかけると「任せろ」と言わんばかりにポチが嘶く。セレナを助ける為俺一人で先行したいが、ポチを置いて行くと二次災害に陥る危機がある。それは勘弁願いたいが、セレナが心配なので少しでも早く行きたい。けど、ポチは意外にも森の中を颯爽と駆け抜けている。
何だお前、凄ぇじゃねえか。
「見つけた」
胸中でポチに感心していると、悲鳴を発した人物の下に辿り着く。
そこにいたのは、2メートルほどの豚の魔物が一匹。見た事あるな……確かオークだったか。そのオークに襲われているのは、肌色が"褐色の女性"。
(セレナじゃない?)
目当ての人物ではなかったが、セレナでなくとも助けに行かない訳にはいかないよな。
「よっ」
俺は女性とオークの間に入り込み、豚の顎を蹴り飛ばす。
「ブヒィーー!!」
オークは絶叫し白目を剥くと、ドスンと背中から倒れた。俺は振り返り、大丈夫かって声をかけようとしたがその前に、
「ありがとーー!!」
「うおっ!?」
突然抱きしめられた。それもギューとかなり強めに。すると必然的に彼女のおっぱいが俺の胸に押しつぶされる。褐色の女性の胸は凄く大きく、マシュマロのように柔らかくそれでいて弾力も兼ね備えている最高のおっぱいで。俺の鼻の下が光の速さで伸びるのも致し方無い事であった。
(……ナイスおっぱい)
ありがとうおっぱい!
良きおっぱいを十分に堪能していると、ポチが「俺にも寄こしやがれ!」という目で訴えてくる。ふっエロ馬よ、お前には決してこのおっぱいをやらんぞ。このおっぱいは俺の物だ。っていつまでも馬鹿な事してる場合じゃねえ。
俺は女性の肩を掴んで名残惜しそうに引き離すと、優しく声をかける。
「大丈夫でしたか?」
「うん! アナタのお陰で助かった、ありがとね!」
(何だこの娘めっちゃ可愛いぞ!? しかもエロい!!)
間近で見て驚愕する。
肩まで伸びる白銀の髪。こんがり焼けた褐色の肌。アメジスト色の瞳に、目はパッチリ開いていて、厚い唇がプルンっと艶めかしい。
男が理想とするボンキュッボン(死語)な体付き。その体を包む服は、全く肌を防御しておらずまるで水着のようで。
そして一番の特徴は、ピンっと横に伸びた長い耳だった。
(まさかこれは……ッ)
「アタシはダークエルフのリリ。アナタの名前は?」
「え? 俺は平さ……ヘイタだけど」
やっぱりこの娘エルフだったのか。うわーついにエルフと会っちゃったよ俺、感動だわー。
ん? 待てよ、ダークエルフって何だ? そんなん知らないぞ、ダークってもしかして悪いエルフなのか?
「ヘイタって言うんだぁ。うん、ありがとねヘイタ、アナタが居てくれて良かった!」
「ちょっ待っ」
リリと名乗った少女がガバッと再度抱き着いてきた。すると当然おぱーいも当たってきて……ぐへへ。ノーマルだろうがダークだろうが別に何だっていいいや。
「ふっ、やっぱりチョロそうね(ボソ)」
「ん、今何か言った?」
「ううん、何でもないよ」
「ちょっヤーメーローヨー」
リリが小声で何か呟いた気がしたので問いかけてみると、首を振って否定し抱擁してくる。リリの肌と俺の肌が直接触れ合う。女の子の肌って何でこんなにスベスベで気持ち良いんだろ……俺もう死んでもいいかもしれない。
「ブル」
「痛ッ!? ポ、ポチお前今蹴りやがったな!」
悦に浸っていた俺の尻に、突然ポチが蹴ってきた。このクソ馬め、羨ましいからって邪魔しやがったな。グルルっと睨めつけるとポチは意外にも真面目な顔をしている。
あ……セレナの事を完璧に忘れてたわ。俺は抱き着いているリリにセレナの事を尋ねてみる。
「あのさ、胸が大きくてピンク色の髪をした、馬鹿っぽい雰囲気の女を見かけなかったか?」
「うーーーーん、見てないよ、ごめんね」
「そうか……いや、いいんだ」
リリが知らないとなると、あの女神マジでどこに消えたんだよ。捜すにしても、この森じゃ捜しようがねえぞ。




