変態鬼畜野郎
「落ち着きましたかぁ?」
「ははは、やだなセレナさん、何を言っているんだい? 俺は最初から落ち着いているじゃないか」
「……目が殺人者のソレなんですけど」
エロ馬をぶっ殺して食ってやろうとしたら、セレナに羽交い締めにされて止められてしまった。取りあえずその場はなんとか治まったが、俺の怒りは全然治まっていない。いつでも飛び掛かれる態勢でいた。
俺達は今、エルフの里に向かう為ナロード森林へと向かっている。そして、馬車を引いているポチの顔はどことなく勝ち誇っていた。
くそっ覚えてろよエロ馬め。次こそ必ず食ってやる。メラメラと怒りの炎を燃やしていると、突然セレナが「あれ見て下さい!」と指し示した。
「うわー、なんかいかにもって感じだな」
「雰囲気出てますねぇ」
眼前には、暗く鬱々とした森が広がっていた。若干霧がかっているし、薄暗い。
これがナロード森林、別名『迷いの森』か。セレナの言葉を借りるが、マジで雰囲気出てるわ。入ったら出て来れなさそう……行きたくねえな。
「なあ、マジで行くの? 絶対無理だって、他の方法にしないか」
「だ……だ、ダメです。エルフの里はナロード森林の奥深くにあるらしいので、この森を抜けなければならないんですぅ」
えぇ、何だってエルフはそんな面倒くさい場所に住んでんだよ。訪れるこっちの身にもなってくれよな。
「森に入るとなったら、馬車は置いていかなきゃなんねぇよな」
「そうですねぇ、大事な物だけ鞄の中に詰め込みましょうか」
この森に馬車が通れるような舗装された道なんか無い。勿体ないが、馬車は置いて行くしかないな。ついでにポチを置いていってはダメだろうか。……ダメだな、セレナが反対するだろうし、ポチの奴絶対について来るわ。
という事で、俺達はパンパンに膨らんだ鞄を背負い森の中へと入った。かさばるような荷物は、ポチの体に括り付けている。おぉ、意外と役に立つじゃないかポチよ。
「で、森に入ったけど、どうするんですかセレナさん。エルフの里ってどっちよ」
問題はそこだよな。地図なんてありゃしないし、一度入ったら二度と出て来られないと怖れられる森をどう進んで、エルフの里に辿り着けばいいんだ。
「ふっふっふ」
手段が無く茫然としていると、突然セレナが不気味な笑い声を上げる。おいやめろよ、ただでさえ気味悪い森に入ろうとしてるんだから時と場所を考えてくれよな。しかしセレナの笑いは一向に止まらず、それどころか声量は次第に増していき、終いには狂ったように笑い叫んだ。
「はっはっは! ファーっハッハッハッ!!!」
「ど、どうしちまったんだ……」
壊れかけの時計のように狂ってしまったセレナが怖くてちょっと引いてしまう。セレナ大好きなポチですら「なんだコイツ、やべえ」みたいな目をして後ずさっていた。
「どうしたも何もないですよ、平太さんは私の能力を忘れてしまったんですか!?」
「私の……能力?」
はて、普段ポンコツで役に立たないお前にそんな便利能力設定なんかあったっけか?
あー、そういえばこいつ、やたら勘だけは鋭い所はあるよな。……え、まさか勘を頼りに進むつもりなのか? んなアホな。
「ちーがーいーまーすぅー! 私には動植物と心を通わせ意思疎通が出来るという素晴らしい能力があるんですぅ!」
「あー……」
セレナと出会った当時、確かにそんな事言っていたかもしれない。パッとしない能力だから今まで忘れてたわ、ごめんな。
「何が、あーですか! 私の数少ない取り得なんですからちゃんと覚えてて下さいよぉ!」
「いやお前、自分で言ってて悲しくならないのか?」
「う、うるさいです、余計なお世話ですぅ!」
ぷんぷんと怒るセレナは頬を膨らませぷいっと顔を背けると、
「ふんだ、もういいです。平太さんだけ置いて行っちゃいますから!」
「よっ女神様! いざという時頼りになるぜ! ふーふー!」
「お、おだてたって許してあげませんからね!」
「美人だし優しいし胸が大きいしアホだし、女神の中の女神だよな!」
「そうでしょうそうでしょう! 私は凄い女神なんですか……ん? 最後だけなんか違ったような」
「小さい事を気にしないセレナ様、なんて懐が大きいんだ。惚れちまうぜ!」
「もう、平太さんったらぁ、言い過ぎですよぉ」
体をくねらせながらデヘヘと照れるセレナ。はっチョロ過ぎだろ。今度からチョロ神って呼ぼうかな。
「仕方ないですねぇ、忘れてた事は許してあげましょう」
「ありがとうございますセレナ様!」
「ふふふ。では少し待っていて下さい、ちょっとこの木々にエルフの里の場所を聞いてみますから」
そう言うと、セレナはご機嫌な顔でその辺の木に話しかける。傍から見たらヤバイ奴にしか思えんのだが、口にしないで大人しく見守っていよう。
「はいはい、そうなんです、はい。えっ?」
えって何? おいおい交渉は上手くいっているのか? なんか段々怪しくなってきたんだけど、大丈夫なのかよ。
「ちょ、ちょっと! 教えてくれたっていいじゃないですか、ケチ!」
「おいセレナさん? なんか不安なんだけど!?」
「きゃ!? こ、こらぁ、何してるんですか。やめ、止めて下さい!」
怒らしてしまったのか、木々から草の蔓がにょるにょる出てきてセレナの体を絡め取る。蔓は服や巨乳など、なかなかに際どい所を重点的に強く喰い込ませていた。
「ん……! あ……ちょ」
セレナの唇から艶のある声が漏れる。顔色も段々赤くなっていき、瞳も潤んでいく。その光景は果てしなく淫靡で、童貞の俺は呼吸するのも忘れて見入っていた。
「んぁ……って何黙って見てるんですかー!早く助けて下さいよぉお!!」
「ええー」
「ええーって何ですか!?」
いやほら、こんなおいしいシーン中々拝めないしぃ、元々セレナが招いた種だしぃ……ね?
「何がね? ですか! いいから早く助けぅぅぅん!」
いいぞもっとやれ。
「わ、分かりました! 平太さんの言う事一つ聞きますからぁ助けて下さいよぉ!」
「……何でも?」
「何でもでいいですよぉ!」
ん? 今何でもって言ったよね? しょうがないなぁ、いっちょ助けてやるか。
俺は満面な笑みを浮かべながら、セレナを縛っている木の本体にちょこんとパンチを繰り出す。すると木は木端微塵になり、吊り上げられていたセレナがドスッと落ちてきた。
「痛ったーッ!!」
「良かったな」
「何が良いんですかこのド鬼畜ぅぅう!! 早く助けて下さいよぉもう」
尻を打ったセレナは、涙目でグルグルパンチをしてきた。俺はこいつの頭を抑えながらアッハッハと高笑いし、
「助けてやったんだ、文句言うなよ」
「うがーーー!」
「あっ願い事は考えておくから。約束は守れよな」
「変態鬼畜野郎ーーー!!!」




