女の戦い(水面下)
魔王軍との戦争から四日。
戦争中、帝国はかなりヤバい状況に陥っていたそうだ。エリザさんやアルメリアさん、俺がぶっ飛ばしたクラインとジドのイケメン二人を失った事で多大な戦力不足になってしまった。
けど、目を覚ましたエリザさんが駆け付け、さらにヘルシー姉さんや山賊団、ガロード山脈の魔物が救援に来て、帝国は息を吹き返したらしい。
そして、あのムカつくクソジジィ(骨魔王)を俺が倒したと同時に、突然全ての魔物が消滅したんだと。セレナが言うには、魔王が持つ眷属能力がなんちゃらかんたらのせいだとか。よく分からんけど、取りあえず勝ったから良しとしよう。
ヘルシー姉さん達は、軽く言葉を交わした後すっとんで山に帰ってしまった。留守を任している従業員の数が少ないらしく、旅館が心配らしい。
そういえば、山のヌシとも会った。じーっと俺の顔を見ると、拳を突き出してくるので、同じく拳を突き出しコツンとぶつける。何を満足したのか、ヌシは大きく頷くと、他の魔物達を引き連れて去って行った。何を伝えたかったんだろうと首を傾げたが、ただの挨拶だろうと気にしない事にした。取りあえず、「サンキューな」とお礼は言っておいたけど。
戦争後、エリザさんはまたぶっ倒れてしまった。目を覚ましたばかりの重体なのに、国を守る為無理をしすぎてしまったと、歯がゆい表情で言うアルメリアさんの顔が記憶に残っている。そんな彼女は、エリザさんの看病と政治的な事で休みなく動き回っていた。
エリザさんが回復するまで暇を持て余していた俺とセレナは、復興の手伝いをしていた。俺は大きな瓦礫を撤去したり力仕事を担当し、セレナは炊き出しに加わったり、傷ついた兵士の看病等を手伝っていた。
それと、眠っているエリザさんを心配そうな眼差しで見ているミリィを外に連れ出し、三人で食べ歩きとかしたな。そういえばミリィは、ネネと会えてとても嬉しかったと喜んでいたっけか。
そんなこんなで、あっという間に三日が過ぎ。
三日目にエリザさんが目を覚ましたのだが、大事を取って今日会う事になったのだ。
今俺達がいる場所は、広々とした空間がある応接室。そこにいるのは俺とセレナ、エリザさんとアルメリアさん、おっさんとクソチビとアリーシャの七人だ。
エリザさんは美しい顔を俺に向けると、瞳を揺らして口を開く。
「ヘイタ……改めて礼を言おう。ピエールの件、魔王の件、お前が居なかったら、帝国は私共々滅んでいただろう。……本当にありがとう」
真摯な声音で告げると、エリザさんは深く頭を下げた。女帝が俺なんかに頭を下げてもいいのだろうかと思うが、それほど彼女が感謝しているって事なんだろう。
照れくさくなった俺は、ポリポリと頬をかいて、
「あんまり気にしないでくれ。あのクソデブは単に俺がムカついただけだし、魔王は元々ぶっ殺す予定だったしな」
「だとしてもだ。私がヘイタに救われた事にはかわりない」
「…………」
「はは、どうやらお前は、人の好意を受け取るのが苦手らしいな。案外子供っぽいところもあるじゃないか」
「うっ」
言葉に詰まり言い返せないでいると、ニヤけたセレナがここぞとばかりに便乗してきた。
「そうなんですよぉ、平太さんって捻くれてますから困っちゃうんですよねぇ」
……ぐっ! お前が言うんじゃねえよって言ってやりたいが、ムキになって言い返すと子供っぽいからから口を開けない。こんちくしょう、後で覚えとけよ。
胸中で復讐を企んでいると、エリザさんも口元を緩ませ、
「それにヘイタは、私を助けてくれた時あれだけの惨状を起こしておきながら誰一人殺していない。ピエールでさえもだ。甘いと言われればそれまでだが、お前はきっと途方も無く優しいんだろうな」
「そうなんですよねぇ。口を開けばぶっ殺してやる!とか物騒な事言ってますけど、実はこれまで一人も殺した事なんて無いんですよね。ね? 平太さん」
「もうやめてくれぇえええええええええええええ!!!」
恥ずかしぃいいいいいいいいいい!!!
皆のいる前で……こんなの公開処刑じゃないか! ふざけんなよバカヤロー!
ほら、皆があたたかい眼差しで俺を見てるじゃん。何でこんな仕打ちをされなきゃならないんだ。
うぅ……と恥ずかしさで顔を手で隠し蹲っている俺に、クソチビが、
「うわーキモいんだけど。見るに耐えないわ」
「上等だゴラァッ! ガチでぶっ殺してやる!」
「こっちの台詞よ! 泣いて謝ったって許してやんないんだからね!」
再び戦争が勃発してしまうところを、セレナとおっさんに羽交い締めをされて止められてしまった。
と、なんかネタっぽいこの光景を見て「いつの間に仲良くなったんだお前達」とエリザさんは柔らかい笑みを零す。
おいおい、これを見て仲が良いと勘違いするとかアンタヤバいって。まだ治ってないんじゃねえのか?
「聞いておきたいんだが、ヘイタはこの先どうするんだ?」
「それは勿論、残りの魔王を倒しに行くよ」
ハッキリと告げると、彼女は「そうか……」と目尻を下げて悲しそうに呟いた。
あれ、なんか旅立つのを惜しんでいるような気がするんだけど、俺の気のせいだろうか?
だがここで、「俺が行くと、嫌なんですか?」とか馬鹿な発言はしない。もし勘違いだったら超恥ずかしいし、死にたくなるからだ。っていうか、そういうのはイケメンに限り許される事であって、自称フツメンの俺が気安く口にしていい台詞じゃない。
……やめよう、なんか悲しくなってきた。
「そんでちょっと聞きたいんですけど、帝国の近くにいる魔王って知りません?」
「「……………………」」
えっ何この空気。俺が尋ねると、一瞬で静寂になってしまった。皆は堅く口を閉じて、あっちの方を向いている。あれ、なんかこのパターン前にもあったような。
困っている俺を見兼ねたのか、アルメリアさんが救の手を差し伸べてくれた。
「帝国から北方に向かいますと、『エルフの里』があります。その里の近くに、魔王軍が潜んでいるという噂はありました」
「え、エルフッ!?」
やっべ、ビックリしすぎて大きな声を出しちまった。
エルフってあのエルフだろ? 肌白で、耳長で、容姿端麗の……あのエルフだよな。マジかー、ついにきちまったかエルフさん。ファンタジーの代表って言ったらやっぱりエルフだよな。俺まだ一度も会って事無かったから超楽しみだわー。
エルフと聞いてめちゃくちゃワクワクしていると、アルメリアさんが水を差すかの如くこう言ってきた。
「ヘイタ様が何をそんなに喜ばれているかは分かりかねますが、エルフの里に行くには幾つか問題があります」
「え?」
何だって?
「まず、エルフは大の人間嫌いです。普通の人間が出向いた所で、一切歓迎される事はありません。いえ、むしろ武器を翳して襲い掛かってくるでしょう」
何ですと!?
「その前に、あの国に向かうには『ナロード森林』を通らなければなりません。ナロード森林は別名『迷いの森』とも呼ばれていて、とても広い上に霧が深く、一度入ったら二度と出て来られないとも云われています」
「……マ、マジですか」
「マジです」
アルメリアさんからの忠告を聞いて絶望する。
迷いの森って何だよ、富士の樹海かよ……そんなん無理じゃん、怖えーわ、どうすんだよ。
「ですから、私共は決してお勧め出来ません。大恩あるヘイタ様に、そのような危険な場所に行き死んで欲しくはありませんから」
「……よしセレナ、諦めよう」
「何言ってるんですか!? 魔王を倒さないとこの世界が滅んでしまうんですよ!!」
即効で行く気が無くなった俺に、セレナが大声を上げて抗議してくる。
俺は耳の中をホジホジしながら、すっとぼけた顔で、
「いやだって無理じゃね? ただでさえお前というお荷物がいるのに、そんな怖い所行きたくねーよ」
「大丈夫ですよぉ、平太さんならきっとやってくれますって! 私は平太さんを信じてます!」
「俺頼みじゃねーか!」
「お願いしますよぉ平太さ~ん、行きましょ、ね?」
ね? じゃねーよふざけんな。今度こそ野垂れ死ぬぞ。
泣きついて説得してくるセレナに、「うーーーん」としばらく考え込む。
出来れば、そんなおっかねえ所なんかに行きたくない。無事に到着できるか分からないし、到着できたとしても一悶着ありそうだしな。でも、魔王を倒さないといつまで経っても地球に戻れないんだよなぁ。
はぁ、何でセレナの頼みをきいちゃったんだろ。と、今更後悔する俺はため息を吐くと重い口を開いた。
「すげーノり気はしないんだけど、行ってみるよ」
「流石平太さん、そこに痺れる憧れますぅ!」
「うるせ」
「あ痛っ!」
調子が良いセレナの頭にチョップする。俺は申し訳ない表情をして、
「折角心配して忠告してくれたのに、すいません」
「ふっヘイタが決めたのなら、私達に止める権利は無いさ。それに、お前ならきっと辿り着けるだろう」
優しく微笑みながら言うエリザさん。アリーシャやアルメリアさんも同じ気持ちなのか、苦笑しながら頷いている。
「そういえば、いつ立つつもりなんだ?」
「んー明日には出ようかな」
「明日か……早いな」
「……ああ」
「では、旅の準備はこちらで任してもらおう。アルメリア、頼んだぞ」
「お任せ下さい、最高級の品を用意します」
別にそこまでして貰わなくてもいいんだけどな。ベルン王国から貰った物がまだ使えるし。悪いと思い断ろうとしたが、エリザさんが「馬鹿者」と眉間に皺を寄せ、
「どれだけお前に助けれたと思っているんだ。このぐらいの事はさせろ」
「……分かりました、有難く受け取りますよ、女帝様」
「ああ、くるしゅうないぞ」
「「……ぷっ」」
ふざけたノリでネタをやっていると、俺とエリザさんが同時に吹き出す。まさかこの人がノっ来るとは思わなかったよ。
「エリザ様があんなに笑っている所、アタシ初めて見たんだけど……」
「俺もだ……」
おっさんとクソチビがエリザさんの笑顔を見て驚愕している。
そうか? 彼女って結構笑ってる気がするんだけどな。
何でか知らないけど、隣にいるセレナがムクれている。急にどうしたんだよお前。
「知りませんーそういう気分なんですぅ」
あっそ、本当セレナって分かんねぇな。
「頼みがあるんだが、今日はミリィと一緒に寝てやってくれないか?」
「構いませんよ」
「よし、それでは私も一緒にさせて貰おうかな」
「え!?」
アンタと一緒に寝るの!? いやいやそれはアカンでしょ!! 絶対俺の理性が持たないって。
あっもしかしてこの人既成事実を作ろうとしてんのか!?
「ぐいぐいイくね、エリザ様」
「ああ……すげーな」
おいそこ、感心してる場合じゃないでしょ。お前等の主君なんだからちゃんと止めなさいよ!
「だ、ダメですぅーーー!!」
このまま流れでエリザさんと寝る羽目になるのかと思ったその時、セレナが大声を出して止めに入る。
よしいいぞセレナ、たまには役に立つじゃないか。しかしエリザさんは全く動じず、口角を上げ挑発するような声色で、
「私がヘイタと一緒に寝ると、何がダメなんだ?」
「う……それは、ですね……うぐぐ」
なんかエリザさん楽しそうだなぁ。と他人事のように思っていると、
「ふっ冗談だ」
「ひ、卑怯ですよぉそんな冗談!」
「私からの細やかな意地悪だ。許してくれ」
「……うぅ、分かりました、許しましょう」
なんだろ……二人の間で、今の会話の中に謎の駆け引きがあったような気がするんだが。気のせいか?
まあいいか、俺が気にする事でも無いだろう。
「ひとまず食事にしよう。今日の夕食は豪華だぞ」
「やったーご飯ですぅ!」
おいセレナ、心変わり早すぎだろ。食いモンに対しての反応が半端じゃねぇぞ。
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