トラウMAX
「いい加減その足を退かしやがれ!」
腹筋と背筋に力を入れて、勢いよく起き上がる。足が退くと、すぐにその場所から移動する。そして、改めて魔王を見上げた。
「……なんかデカくなってるし」
「ガッハッハッハ! どうじゃカッコイイじゃろ!」
魔王の姿は、さっきと全く違っていた。
まず大きい。多分10メートルぐらいはあるんじゃないか?
それに、何だか物凄く禍々しくなっている。上手く言えないけど、日本妖怪の"がしゃどくろ"って例えれば分かりやすいだろうか。取りあえず、外見はそんな感じだ。
それと、パワーも前より段違いに上がっている。これが、骨魔王の第2形態ってやつか。
「どうした小僧、儂の真なる姿を目にして恐れをなしたか! 今なら泣き喚いてもいいぞ、漏らしていても内緒にしてやるわい、ガッハッハッハ!」
体が大きくなると、声もすげーデカくなってうるさい。
変身して粋がっている骨魔王に、俺は平坦な声音でこう言ってやった。
「お前さぁ、何を勘違いしているのか知らないけど、変身したからって俺に勝てると思ってんのか?」
「……あん?」
「どれだけ強くなったって、俺には届かねぇよ。絶対にな」
「……ほう、言うではないか。では、いっちょ試してやるかの」
本当の事を告げると、骨魔王は舐められて気に食わなかったのか、怒涛の攻撃を仕掛けてきた。
自分の体よりも大きい骨の拳が、五月雨の如く降り注いでくる。
ズドドドドドドッっと轟音が上がり、砂煙が舞い散っていく。
その嵐の中心にいる俺は、当然無傷だ。
「……何じゃと!?」
「こんなもんかクソジジィ」
骨魔王が繰り出す拳撃を、俺は全て手の平で受け止めていた。
遅いし、大した重さじゃない。問題なく躱せるが、俺は敢えて受け止めたのだ。力の差を分からせる為に。
「ぐっ……じゃったら、これならどうじゃ! ホーンデッドストリームッ!!」
効かないと理解したのか、骨魔王が次なる一手を投じてくる。体がバラバラになり、骨の竜巻となって襲いかかってきた。
俺は腰を落とし低く構え、絶え間なく降り注いでくる骨を避け、いなし、弾きながら躱していく。攻撃の規模は大きく破壊力があるかのように思われるが、自分のライフスペースを侵食する害のみを払いのければ、どうってことない。
俺の目は迫り来る骨をしかと捉えている。形も大きさも、把握出来ている。神経を研ぎ澄ませ、一つ一つ対処していく。
俺の体には、カスリ傷一つ存在しなかった。
「そんなアホな」
「今度はこっちの番だ」
「ほげぇええええ!!」
元の形に戻った骨魔王の頭蓋骨を叩き割る。しかし、奴には不死能力があって、すぐにまた再生してしまった。
「ガッハッハッハ! そうじゃそうじゃ、幾ら儂の攻撃がお前に効かなくても、お前も儂を殺す事はどんなに足掻いたところで不可能じゃ!!」
「必殺――トラウMAX」
「そこでどうじゃ? 今回は決着が着かなそうじゃし、今日のところは引き分けで許してやらんことも――え? 今なんか言ったかの?」
地球にもいるんだよなぁ、こういう物理的に倒せない面倒くさい奴。
体そのものを炎とか水とか光に変えられる反則的な能力者。殴っても殴っても効果が無い敵をどうやって倒すのか。
答えは一つしかない。
「心を壊す」
精神的に追い詰め、敵の戦意を喪失させる。俺が編み出したトラウMAXとは、そういう技だ。
そして俺は、この技で骨魔王をとことん追い詰める――徹底的にだ。
「すまんすまん、聞こえなかったわ。儂の太ましい立派な骨を一本やるから、もう一回だけ言ってくぇぇあぎゃああああああ!!?」
まず、邪魔な体をぶち壊す。
頭だけ残った骨魔王へと、殴打の嵐を放った。
「や、やめ、やめんかこらーーーーー!」
何度も破壊していると、やっと元のサイズに戻った。けどまだまだ終わらない、ここからが本番だ。
俺はさっきと同じように、頭以外の体を木端微塵にする。
「こ、小僧……お前、何をしようと……」
ポンッポンッと骨魔王の頭を放りながら遊ぶと、俺は高らかに叫んだ。
「超次元バレーボール、はっじまっるよー!」
頭を空高くへとトスし、助走をつけて渾身のジャンプサーブを撃ち放った。
「ほげぇええええ!?」
「はい、レシーブ!」
先回りし、拳を重ねてボール(頭)を受け止める。跳ね上がった頭を、手の形を三角形にして上へとトス。地を蹴り、跳ぶ。
ぐんっと弓のように体を逸らして、
「アターーーークッ!!」
「ほげぇえええええええええええええええええええええ!!」
おもいっきり腕を振り、頭をはたく。
俺のアタックを受けた骨魔王は、地面に突き刺さりすっぽりと埋まった。
歩いて骨魔王の下へ向かい、埋まっている頭を引っこ抜いた。
「おい小僧! 人の頭をぽんぽん叩きおって何のつもりじゃ。少しばかり強いからってイイ気になりおって、ふざけるで――」
「はーい皆集まってー、超次元サッカー始めるよー!」
「おいこら! 何をすびゃあああああああ!!?」
激怒する骨魔王を無視し、俺は頭を強く蹴り飛ばした。そして、一人で11人分のポジションをこなしていく。
「へーいパスパース!」
「ここは通さないぞ!」
「出たーッバナナロングパスだー!」
「ラスト、お前に託した!行っけぇええええええ!!」
「スーパーミラクルウルトラスーパーシュートッ!!!」
皆(俺一人だけだけど)の想いを繋げ、ダイナミックオーバーヘッドキックを放った俺のボールは、見事敵ゴール(岩)に突き刺さった。
「ふぅ、いい試合だったぜ」
額に浮かんだ青春の汗を手の甲で拭き取る。とても良い試合をして満足していると、
「こらーー儂の頭はサッカーボールじゃないぞぉ!!」
「うるさい」
「ほげ!?」
岩から這い出てきて、声を荒あげる骨魔王をもう一度殴って粉砕する。
「こら、人の話しはちゃんと聞かん」
殴る。
「お、おい今儂マジで怒ってるか」
殴る。
「頼むか」
殴る。
「ご、ごめんなさい……許してくだ」
殴る。
「やめてぇえええええええ!!!」
泣き喚いて必死に謝罪してくる魔王へと、俺は"無"の表情で語り掛ける。
「お前が自分から成仏するまで、俺はお前の頭を殴り続ける。何度も何度も何度もっ。泣いたって謝ったって止めない。絶対にだ」
脅すように言うと、骨魔王は大粒の涙を滝のように流しながら。
「うぅ……分かったわい、成仏する。するからもう殴るのは止めるのじゃ。めっちゃ恐いんじゃ」
「ああ、そう」
「くそったれ、覚えとけよこんちくしょう……次は負けんからなぁ!!!」
最後にそう叫ぶと、骨魔王の体がさらさらと砂のように崩れ落ちてゆく。魂みたいな、仄かな光が揺ら揺らと空に昇り消えていった。
……どうやら成仏したようだな。
はぁ……とため息を吐き、うーんと背筋を伸ばすと、俺は空に向かってこう叫んだのだった。
「二度と出てくんなよ、ばっきゃろーーーーーー!!!」
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