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思わぬ救援




「死糸葬送」


 何十もの鉄糸を自在に操りながら、特級冒険者のアルメリアが魔物を蹴散らしていく。

 気配を消して動き回り、確実にその命を刈り取っていった。


(……エリザ様)


 アルメリアは主君の安否を気遣う。

 四騎士であるジドによって負傷した自分の体は、回復薬や回復魔法で全快に近い状態まで治っている。けれど、クラインに大傷を負わされたエリザはずっと昏睡していた。

 ようやく目を覚ましたのに、傷を癒しきっていない中、戦場へと立ってしまった。


 彼女はきっと無理をするだろう。そして、無理をすれば傷が開き、エリザはまた倒れてしまう。


「暗夜行路」


 冥府の門を開く。

 門の中から黒い手が無数に出現すると、黒き手はアンデッドの魂を掴み、冥府へと引きずり込んでいった。

 アルメリアは得意の闇属性魔法を駆使し、亡者を葬っていく。


(……もう絶対に)


 彼女は決心する。

 己の目の前で、もう二度と主君を危険な目に合わせないと。


「消えろ、雑兵」


 少しでもエリザの負担を軽減させるため、アルメリアは黒に埋め尽くされた戦場を駆けて行った。





「はぁ……はぁ、カハッ。少し……きついな」


 炎の翼をはためかせ、上空で魔物を屠っていくエリザは、口から血を吐き出した。

 彼女の状態は酷いものだった。顔色は悪く、額にはびっしり汗が浮かんでいる。体が重怠く、肩で息をするのがやっと。自分の手足ではないような錯覚すらある。


「……まだだ」


 焼いても焼いても湧いて出てくる敵を見つめ、呟く。

 癒えきっていない体、無理すれば壊れていくのは当然の事。味方を守る為、威力のある魔法を連発し弱っている体を酷使したエリザは、意識が朦朧としていた。


「……まだやれる」


 それでも、彼女の心は折れない。


 絶対に屈しない。


 ここで己が倒れてしまったら、地上で奮闘している兵士達はたちまち黒い海に呑まれてしまう。それは決して許されない、許さない。


 意識を繋ぎ止める糸はもう一本しかないけれど。


 その一本は太く頑丈で、絶対に切れる事の無い、熱く燃える炎の糸。


「鬼火」


 焼く、焔く、灼き尽くす。

 黒き灼熱の業火が、兵士へと迫る魔物を灰燼に帰してゆく。


「絶対に、諦めんぞ。今度こそ……大切な者達を守ってみせる!」


 彼女の覚悟が天に届いたのか。


――ドドドドドドドドドドッ!!!


 と、大地を揺るがす地鳴りのような轟音が、突如鳴り響いた。



 時が経つにつれ、その音は徐々に近づいてきて。


 そして――



「ヒャッハー!」

「何じゃこれ、くっさいのお。えんがちょじゃ!」

「野郎共、骨狩りじゃあああああああああ!!」

「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 魔物の群れの中から、こんがり肌がやけた逞しい男達が現れた。

 その背後には、さらに露出度が高い野郎共が高らかに叫んでいて。

 むさ苦しい集団の戦闘にはバンダナを巻いたエロい女冒険者と、ちっちゃな口に何かを咥えたチビッ娘がいて。


「どけどけー! ヘルシー山賊団のお通りだーーッ!!」

「ハムッ!」

「「ヒャッッッハァァァァアアアアアアーーーーー!!!」」


 戦場に現れたのは、ヘルシー率いるヘルシー山賊団の冒険者達だった。

 いや、彼女等だけではない。目を凝らして見てみれば、ガロード山脈にいる全ての冒険者が、この場に駆け付けていた。


「何故……ガロード山脈の冒険者が、こんな所に……」


 一人の兵士が、骨の剣士を粉微塵に斬り裂いているヘルシーへと問いかける。

 すると彼女は「へっ」と男よりも男らしく笑うと、


「魔王軍が来てるって話しがアタシの耳に飛び込んできてね。助けに行こうかちょっと迷ったんだけど、特級の冒険者様に頼まれちゃ断る訳にはいかないさ」


 それに、


「アタシは受けた借りはきっちりと返す主義でね。ヘイタのダンナの助けになればいいやってただそれだけさ! なぁネネ?」

「ハムッ!」


 ヘルシーの言葉に、側にいたネネが大きく頷く。

 勿論平太を助けたい為ではあるが、ネネはそれだけではなかった。


 少しの間だったけど、別れを惜しむほど仲良くなった友達ミリィ。彼女の力になればと、ネネは兵士に迫る魔物へと、引き絞った弓を撃ち放った。


「ワタシ達のことも忘れちゃダメよん」

「前回は留守番だったからな、今回は暴れさせてもらう。幼女を守るのはこの私だ!」


 団長のヘルシーよりも多く敵を蹴散らし、暴れ回っている者が二人いた。


 巨漢でハゲ頭な上にオカマ口調の、『怪腕』ゴンザレスと、糸目で幼女をこよなく愛する『鬼人』マルク。

 現在ではただの変態と化しているが、ヘルシー山賊団に流れ着く前は冒険者達に慄き恐れられる存在だった。元々上級冒険者で、引退した今でも実力は劣っておらず、ヘルシーよりも勝っている。


「ワタシに犯されたい亡霊ちゃん達はこっちにおいでぇ。逝かしてあげるわぁ」

「幼女はどこだ、どこにいる!? ええーい邪魔だ貴様等、そこをどけぇええ!!」


 ゴンザレスはマルタの如く太き腕を唸らせ、ゾンビオーガを投げ飛ばし。

 マルクはカタナと呼ばれる珍しい形をした剣でゾンビオークを瞬く間に斬り伏せていく。


 その光景を茫然と眺める兵士に、ヘルシーは困惑した表情で口を開いた。



「アタシには分からないんだけどさ、何故か"アイツ等"も山から下りて来ちまったんだよなぁ。本当、何でだろう?」


 兵士はヘルシーの視線を追いかける。するとそこには、信じられない光景が――



「ガルルッ!」

「キィキィッ!」

「ブロロロロッ!」


 魔物が、魔物を襲っていた。

 ワーウルフ、ビックエイプ、ジャイアントグリズリー。様々な獣型の魔物が、アンデットの魔物へと、牙を向けて飛び掛かっている。

 さらに、


「ブモォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 一際大きい吠声が、戦場に反響する。

 その突進の勢いは止まることなく、立ち塞がる亡者共を薙ぎ倒していった。


 キング・ミノタウロス。


 幾重もの古傷が刻まれた、歴戦の王者。

 ガロード山脈のヌシが、人に力を貸していた。


「…………」


 瞠目し、開いた口が塞がらない兵士へと、ヘルシーが言葉を放つ。


「どうしてアタシ等の味方をしてくれるのかは分からないけどさ、取りあえずアイツ等は味方だから、安心しな」


 ニシシっと笑い、ヘルシーは近くにいる魔物へと斬りかかる。

 驚愕する兵士と同じく、上空で一人戦っているエリザも、この不思議で仕方が無い光景に目を奪われていた。


「何故魔物が……? いや、考えても詮無き事か」


 人と魔物が共闘している。

 そう至った経緯を、いくら頭を捻って考えたとしても答えは出ない。神の導きか、はたまたただの偶然か、それとも誰かが起こした奇跡か。


 理由はなんだっていい。

 ただ、この光景が、全ての事実だから。


「ならば私も、この命尽き果てるまで剣を振るい続けよう」


 力が湧いてくる。疲れ切った四肢が、どうしようもなく熱い。


 心が、奮える。


「はぁああああああああああっ!!!」


 消えかかっていた女帝の魂が。


 紅蓮の炎の如く、激しく燃え上がった。



お読み頂きありがとうございます

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