思わぬ救援
「死糸葬送」
何十もの鉄糸を自在に操りながら、特級冒険者のアルメリアが魔物を蹴散らしていく。
気配を消して動き回り、確実にその命を刈り取っていった。
(……エリザ様)
アルメリアは主君の安否を気遣う。
四騎士であるジドによって負傷した自分の体は、回復薬や回復魔法で全快に近い状態まで治っている。けれど、クラインに大傷を負わされたエリザはずっと昏睡していた。
ようやく目を覚ましたのに、傷を癒しきっていない中、戦場へと立ってしまった。
彼女はきっと無理をするだろう。そして、無理をすれば傷が開き、エリザはまた倒れてしまう。
「暗夜行路」
冥府の門を開く。
門の中から黒い手が無数に出現すると、黒き手はアンデッドの魂を掴み、冥府へと引きずり込んでいった。
アルメリアは得意の闇属性魔法を駆使し、亡者を葬っていく。
(……もう絶対に)
彼女は決心する。
己の目の前で、もう二度と主君を危険な目に合わせないと。
「消えろ、雑兵」
少しでもエリザの負担を軽減させるため、アルメリアは黒に埋め尽くされた戦場を駆けて行った。
◇
「はぁ……はぁ、カハッ。少し……きついな」
炎の翼をはためかせ、上空で魔物を屠っていくエリザは、口から血を吐き出した。
彼女の状態は酷いものだった。顔色は悪く、額にはびっしり汗が浮かんでいる。体が重怠く、肩で息をするのがやっと。自分の手足ではないような錯覚すらある。
「……まだだ」
焼いても焼いても湧いて出てくる敵を見つめ、呟く。
癒えきっていない体、無理すれば壊れていくのは当然の事。味方を守る為、威力のある魔法を連発し弱っている体を酷使したエリザは、意識が朦朧としていた。
「……まだやれる」
それでも、彼女の心は折れない。
絶対に屈しない。
ここで己が倒れてしまったら、地上で奮闘している兵士達はたちまち黒い海に呑まれてしまう。それは決して許されない、許さない。
意識を繋ぎ止める糸はもう一本しかないけれど。
その一本は太く頑丈で、絶対に切れる事の無い、熱く燃える炎の糸。
「鬼火」
焼く、焔く、灼き尽くす。
黒き灼熱の業火が、兵士へと迫る魔物を灰燼に帰してゆく。
「絶対に、諦めんぞ。今度こそ……大切な者達を守ってみせる!」
彼女の覚悟が天に届いたのか。
――ドドドドドドドドドドッ!!!
と、大地を揺るがす地鳴りのような轟音が、突如鳴り響いた。
時が経つにつれ、その音は徐々に近づいてきて。
そして――
「ヒャッハー!」
「何じゃこれ、くっさいのお。えんがちょじゃ!」
「野郎共、骨狩りじゃあああああああああ!!」
「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」」
魔物の群れの中から、こんがり肌がやけた逞しい男達が現れた。
その背後には、さらに露出度が高い野郎共が高らかに叫んでいて。
むさ苦しい集団の戦闘にはバンダナを巻いたエロい女冒険者と、ちっちゃな口に何かを咥えたチビッ娘がいて。
「どけどけー! ヘルシー山賊団のお通りだーーッ!!」
「ハムッ!」
「「ヒャッッッハァァァァアアアアアアーーーーー!!!」」
戦場に現れたのは、ヘルシー率いるヘルシー山賊団の冒険者達だった。
いや、彼女等だけではない。目を凝らして見てみれば、ガロード山脈にいる全ての冒険者が、この場に駆け付けていた。
「何故……ガロード山脈の冒険者が、こんな所に……」
一人の兵士が、骨の剣士を粉微塵に斬り裂いているヘルシーへと問いかける。
すると彼女は「へっ」と男よりも男らしく笑うと、
「魔王軍が来てるって話しがアタシの耳に飛び込んできてね。助けに行こうかちょっと迷ったんだけど、特級の冒険者様に頼まれちゃ断る訳にはいかないさ」
それに、
「アタシは受けた借りはきっちりと返す主義でね。ヘイタのダンナの助けになればいいやってただそれだけさ! なぁネネ?」
「ハムッ!」
ヘルシーの言葉に、側にいたネネが大きく頷く。
勿論平太を助けたい為ではあるが、ネネはそれだけではなかった。
少しの間だったけど、別れを惜しむほど仲良くなった友達ミリィ。彼女の力になればと、ネネは兵士に迫る魔物へと、引き絞った弓を撃ち放った。
「ワタシ達のことも忘れちゃダメよん」
「前回は留守番だったからな、今回は暴れさせてもらう。幼女を守るのはこの私だ!」
団長のヘルシーよりも多く敵を蹴散らし、暴れ回っている者が二人いた。
巨漢でハゲ頭な上にオカマ口調の、『怪腕』ゴンザレスと、糸目で幼女をこよなく愛する『鬼人』マルク。
現在ではただの変態と化しているが、ヘルシー山賊団に流れ着く前は冒険者達に慄き恐れられる存在だった。元々上級冒険者で、引退した今でも実力は劣っておらず、ヘルシーよりも勝っている。
「ワタシに犯されたい亡霊ちゃん達はこっちにおいでぇ。逝かしてあげるわぁ」
「幼女はどこだ、どこにいる!? ええーい邪魔だ貴様等、そこをどけぇええ!!」
ゴンザレスはマルタの如く太き腕を唸らせ、ゾンビオーガを投げ飛ばし。
マルクはカタナと呼ばれる珍しい形をした剣でゾンビオークを瞬く間に斬り伏せていく。
その光景を茫然と眺める兵士に、ヘルシーは困惑した表情で口を開いた。
「アタシには分からないんだけどさ、何故か"アイツ等"も山から下りて来ちまったんだよなぁ。本当、何でだろう?」
兵士はヘルシーの視線を追いかける。するとそこには、信じられない光景が――
「ガルルッ!」
「キィキィッ!」
「ブロロロロッ!」
魔物が、魔物を襲っていた。
ワーウルフ、ビックエイプ、ジャイアントグリズリー。様々な獣型の魔物が、アンデットの魔物へと、牙を向けて飛び掛かっている。
さらに、
「ブモォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
一際大きい吠声が、戦場に反響する。
その突進の勢いは止まることなく、立ち塞がる亡者共を薙ぎ倒していった。
キング・ミノタウロス。
幾重もの古傷が刻まれた、歴戦の王者。
ガロード山脈のヌシが、人に力を貸していた。
「…………」
瞠目し、開いた口が塞がらない兵士へと、ヘルシーが言葉を放つ。
「どうしてアタシ等の味方をしてくれるのかは分からないけどさ、取りあえずアイツ等は味方だから、安心しな」
ニシシっと笑い、ヘルシーは近くにいる魔物へと斬りかかる。
驚愕する兵士と同じく、上空で一人戦っているエリザも、この不思議で仕方が無い光景に目を奪われていた。
「何故魔物が……? いや、考えても詮無き事か」
人と魔物が共闘している。
そう至った経緯を、いくら頭を捻って考えたとしても答えは出ない。神の導きか、はたまたただの偶然か、それとも誰かが起こした奇跡か。
理由はなんだっていい。
ただ、この光景が、全ての事実だから。
「ならば私も、この命尽き果てるまで剣を振るい続けよう」
力が湧いてくる。疲れ切った四肢が、どうしようもなく熱い。
心が、奮える。
「はぁああああああああああっ!!!」
消えかかっていた女帝の魂が。
紅蓮の炎の如く、激しく燃え上がった。
お読み頂きありがとうございます




