四騎士2
「うじゃうじゃ気持ち悪いなーもう、やんなっちゃう」
「仕方ねーだろ。エリザ様を裏切りやがった、あのバカ共がいねえんだから」
見渡す限り、骨、骨、骨。
果てしなく続く骨の海を、もがき掻き分ける者が二人いた。
小柄な体を躍動させ、己よりも遥かに巨大な鎌を縦横無尽に振り翳す女の名前はウィル。弱冠14歳という最年少で四騎士に抜擢された、帝国切って天才児だ。
最近胸が大きくならない事を気にしているウィルは愚痴を零しながら、手に持つ大鎌で眼前に蠢く亡者共を屠っていく。
そんな彼女の背後で、ブンブンと巨斧を豪快に振り回し、敵を薙ぎ払う男の名はガストン。彼は四騎士の中で最年長という事もあり、四騎士のまとめ役をかってでている。
大柄な体躯で、暇があれば筋肉を傷めている彼は、まだ20代なのに最近おっさんと呼ばれ始めている事を気にしている。
そんなガストンは自慢の筋肉を唸らせ敵を一掃していった。
「ったく、お姫様があんな状態の時に魔王軍が攻めて来るなんてホント最悪。タイミング悪すぎでしょ。しかも、お姫様を傷つけたのがクラインとジドって言うじゃない? 王を守る存在の四騎士が、王に剣を向けるなんて笑っちゃう話よね」
「全くだ。あいつら、ピエールなんかの下に付きやがって」
エリザの命令だからとピエールから言い渡さられ、魔王軍の動向を探っていたガストンとウィルの二人は、魔王率いる大軍が、帝国に向かっているという情報を手に入れた。
その情報を早くエリザに知らせるため帰還すれば、何故かエリザは重傷の身だと門番の兵士から聞かされる。
しかも、エリザを手にかけたのは四騎士のクラインとジドというではないか。困惑する二人は事実を確かめるために王宮へと赴こうとしたが、思っていたよりも早く魔王軍の先遣隊が来てしまった。
先遣隊の魔物が高ランクだったため、城壁を守護する兵士では敵わない。なので仕方なく、二人が対処していると。
情報を確かめる前に、本格的に戦争が始まってしまった。
ガストンとウィルは率先して戦闘に立ち、魔王軍と交戦する事になる。
なので、未だに二人は一連の真実を知らないでいる。クラインとジドが裏切ったが、どこかの誰かが介入してエリザが救われたという、漠然とした情報しか分からなかった。
「あいつ等、何で裏切ったんだろ」
「さあな、俺が知るかよ。クラインのバカは兎も角、頭のキレるジドが裏切るなんて思わねえだろ普通。っていうかお前、口じゃなくて手を動かせよ。こんな数、今まで見たことねぇ。俺等が少しでも減らさないと、後ろがもたねえぞ」
「もう、分かってるようるさいなぁ」
悪態を吐く二人が戦っている場所は、帝国から少し離れた荒野。
最前線で魔王軍と戦闘している彼等は、出来るだけ多く敵の数を減らすため暴れ回っていた。
現在帝国の戦力は激減している。
四騎士のクライン、ジド。特級冒険者のアルメリア。そして帝国最強の『暴姫』エリザ。帝国が保有する最高戦力の四人がいないという危機的状況。
こんな戦力で、魔王軍に勝つことは難しい。いや、不可能とすら言える。
だからガストンとウィルは、せめてエリザとアルメリアが復帰するその時まで持ち堪えるべく奮戦しているのだ。
スケルトン、ゴースト、死霊騎士、ドラゴンゾンビ。様々なアンデッドが、大地を踏み鳴らし大波の如く押し寄せてくる。
それを喰い止めるべく、二人は得物を振り続けていく。
「ウィラ・ウィリ・ウィルザイン」
大鎌に闇色の輝きが燈った刹那、ウィルは大鎌を振るい斬撃を放つ。飛ぶ斬撃は、彼女の周囲にいる亡者共の肉体を真っ二つに斬り裂いた。
「轟雷」
ウィルに負けじと、ガストンも追随する。
巨斧を地に叩きつけると、彼を中心に地割れが起きた。地が割れた溝から、轟音鳴り響く紫電の雷光が噴き上がり、魔物を灰燼に帰していく。
『ウウウウウウウウウオオオオオオオッ』
魔物が金切り声を上げる中、二人は攻撃の手を緩めたりはしない。
「ちきしょう、全然減らねぇじゃねえか」
「こいつ等アンデッドだからねえ……聖属性の魔法があれば余裕だったんだけど」
彼女の言う通り、アンデッド族は聖属性に滅法弱い。
聖属性であれば、初級魔法でも中級のアンデッドを容易く浄化出来てしまう。
しかし逆に、聖属性以外の魔法や打撃に対しては余り効果が無い。中途半端に倒しても、時間が経てば復活してしまうからだ。
なのでアンデッドを倒すには、二人がしたように一瞬で跡形もなく消滅させるしかないのだ。
しかし、それを行うのは、強力な魔法を使うため、多大な魔力が必要とされる。
少数ならば問題ないが、これほどまでに夥しいアンデッドを相手取るのは、些か骨が折れる事だった。
「魔力量は大丈夫か?」
「全然平気。マジックポーションを沢山かっぱらってきたから、当分の間は大丈夫」
ウィルは「ただ、おしっこ漏らしたくなっちゃうかもしれないけど」と軽口を言うと、
「私等が踏ん張るしかないじゃん? だって、私等は四騎士なんだから」
「……そうだな」
いつも不真面目な彼女らしくない言葉に、ガストンは嬉しそうに口角を上げた。
「やっぱり、お前を推薦しておいて良かったぜ」
「ん、何か言った? 聞こえないから大きな声で言ってよ」
「いや、何でもねえよ」
四騎士の二人は、骨で埋め尽くされた大海を進み続けた。
暗闇の中に、一筋の光が差し込むのを信じて。
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