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正義の鉄拳




 扉を蹴り飛ばすと、パッと部屋の中を見回し状況を把握する。

 室内にはピエールとかいうクソデブと、すんげーイケメンが二人、それと兵士が何十人か居て。


 エリザさんとアルメリアさんが、大量の血を流して倒れていた。


「…………」


 二人の姿を見た瞬間ブチ切れそうになったが、一息吐いて心を落ち着かせる。聴覚を鋭くさせ、二人の生死を確認すると、僅かながら息をしている事が確認出来た。


 二人が生きている事が分かり、ひとまず安心する。

 しかし、尋常じゃないほどの血が流れているので、早く処置しないと二人の命が危険な事に変わりない。


「ヒラサカ……ヘイタ? 誰だそれ、聞いたことねぇぞ。おいジド、知ってるか?」

「いや、知らないな」


 明るい髪で、いかにもオラオラ系っぽいイケメンと、眼鏡を掛けているインテリぶった青髪のイケメンが俺を指し何か言っている。

 部屋にいる人物から考えると、どうやらエリザさんとアルメリアさんはこの二人にやられたみたいだ。魔王とタメを張れるエリザさんが、こんな奴らに負けるとは思わなかったが、もしかしたら俺の体が異様にダルいのと関係しているかもしれない。


「おいおっさん、こいつの事知ってるか?」

「例の、ミリィ様の件を邪魔した者です。部下からの情報によると、試合でエリザ様を下したとのことですが、本当かどうかは怪しいものですな」

「へぇ、やるじゃねえか。いいね、少しは楽しめそうだ」

「いえいえ、お二人の手を煩わせるまでもありません。こんなガキ一匹程度ならば、兵士達で十分でしょう」



 このクソデブは馬鹿なんだろうか?

 俺の後ろに軒並み兵士が倒れているのを見て色々と察せないのかよ。


 まぁいいか、どうせ全員ぶっ殺すんだし。


「先に言っておく。テメエ等、今の内に神に祈ってろよ。出来るだけ加減はするが、うっかりぶち殺しちまうかもしれねぇからな」

「「…………」」


 俺が放った宣告に、この場にいる全ての者が息を呑んだ。あっ、そう言えば神ってセレナじゃん。


「おいおい、言ってくれんじゃねぇの」


 オラオラ系のイケメンが飛び出そうになるのを手で制したクソデブは、虫でも殺すかのような冷めた表情で口火を切った。


「何をしている……早くその不愉快な口を閉じらせろ」


 そう言った瞬間、二人の兵士が得物を振り翳してきた。


「遅ぇよ」


 斬撃を躱し、顎に蹴りを入れ脳を揺らして、怯んだところで鳩尾に拳を突き入れる。鎧を突き抜け、俺の拳をモロに受けた兵士は口から血をぶちまけて昏倒する。

 と同時に、俺はもう一人の兵士の膝を蹴って転ばし、腹部にかかと落としをカマして気絶させた。


 それは一瞬の攻防で。

 俺が容易に兵士を倒せるとクソデブ達に分からせた瞬間でもあった。


「な、何をしているッ!? 早くこのガキを殺せ、殺すんだッ!!」


 愉悦の表情が一変し、焦燥の顔色を浮かび始めたクソデブが汚ねぇ叫び声を上げると、この部屋にいる兵士全員が纏めて襲いかかってくる。

 俺はその兵士達を一人一人丁寧に殴り殺していく。殺す気は無いが、もしかしたら本当に殺しちゃってるかもしれない。

 ……そん時はそん時だな。


「ばっ馬鹿な!? 何故殺せんのだ、結界内では魔力が使えない筈なんだぞ! なのに、何故このガキはこれほどまでにッ!」


 クソデブが何か喚き散らかしているのを耳にして、俺はやっと合点がいった。こいつ等が細工していたのか、道理で調子出ねぇと思ってたんだよな。


「"眠いし頭痛ぇし、体怠いし吐き気がするし全然力が入らないんだけど"……まぁ、テメエ等をぶち殺す程度なら何の問題もねぇな」


 最後の兵士の頭を鷲掴んで床に叩きつける。俺は血で塗れた両手をパンパンッと払うと、


「で、こっちは終わったんだけど、次は誰が来るんだ?」

「ひっ!?」


 全ての兵士を倒してそう言えば、クソデブは引きつった声を洩らし、腰が抜けたように倒れ込む。


「ヘイタ……なのか?」


 と、その時。

 倒れているエリザさんの口からか細い声が零れた。彼女を安心させる為に、俺は出来る限り柔らかな声音で、


「安心してくれエリザさん、ミリィはちゃんと生きてるよ」

「な、何だと!? ミリィ様は私の部下が殺しに行った筈だぞ!……ま、まさか!?」

「セレナの女神的な勘が働いてな。急にあいつがミリィと一緒に寝たいって言わなかったら危なかったぜ。ミリィの部屋に忍び込んで三人で一緒に寝てたら、本当に兵士が来やがったよ」


 全く、あのポンコツ女神の神がかりな勘はどうなってんだよ、訳分かんねーぞ。

 でも、こういう時に頼りになるから、ポンコツでも一応女神なんだよな、あいつは。



「んで、兵士をぶっ飛ばした後心配して来てみたら、案の定エリザさんの部屋の前にもおっかねぇ顔した兵士がいるし。部屋に入ったらエリザさんとアルメリアさんが倒れているしで、参ったよ」


 でもまぁ、


「そういう事だからエリザさん、ミリィは無事だ。今はセレナと一緒に安全な所で隠れている。だから安心して寝てていい」

「……ああ、ありがとう」


 俺からミリィの無事を知らされたエリザさんは、感謝の言葉を呟くと眠りに落ちた。その声は本当に小さいものだったが、俺の耳にはしっかりと届いている。


「という事で、だ。二人を早く休ませたいから、こっからは少し巻いていくぞ」

「ハハハハハッ! このガキ、ザコ共を倒したからって調子に乗ってやがる。これは笑っちまうぜ」


 俺の言葉に反応したオラオラ系が、何が可笑しいのかケラケラと腹を抱えて笑い出す。

 ……何だこいつキモいんだけど、今のどこがツボったんだよ。なんか危ねぇキノコでも食っちまったんじゃないのか。


「テメエは確かに強え。だが、上には上がいるって事をそのひょろっちい体に刻んで教えてやるよ!」

「待てクライン、一人で出るな。ここは念の為に二人で仕留めるぞ」

「ジド、テメエまさかビビッてんじゃねえだろうな。まさかこの俺が、こんなガキに負けると思ってんのかよ?」



 今初めて知ったが、オラオラ系がクラインで、インテリメガネがジドっていうのか。

 名前もカッケーなおい。俺なんて平太だぞこんちくしょう。


 やっべー、なんか拳に力が入ってきた。無意識に攻撃が顔面に集中しちゃうかもしれない。けど仕方ないよね、だって無意識なんだもの!


「まあ見とけって、このクソガキに力の差を教えてやるから」


 そう言うと、クラインとかいうイケメンは自信満々に俺の眼前へと躍り出た。


「さて、どう料理してやるか」

「御託はいいからさっさと来いよ。なんなら二人まとめてかかって来てもいいんだぜ」


 軽めに煽ると、思惑通り顔を顰めたクラインが剣を振るってきた。

 こいつも馬鹿だな、単細胞すぎるだろ。


「ぶっちゃけ俺は、エリザさんを助けに来た訳じゃない。俺は部外者だし、本当なら彼女の内輪揉めに介入したくなかった」


 セレナとミリィに泣きつかれたから、仕方なく来たけども。でもエリザさんとアルメリアさんのボロボロな姿を見てからは、やっぱり来て良かったと思っている。

 多分、ちょっとブチ切れるぐらいには、俺は彼女達に好意的な感情を持っているのだろう。


「はっ、じゃあ何で来やがった」


 クラインが繰り出す斬撃を見切り、ギリギリで躱していく。

 体調が万全だったら躱した瞬間に顔面パンチで一発KOなのだが、剣速が思っていた以上に速かったから少しだけ様子を窺う事にした。


 イケメンの問いに、正直に答えるのが恥ずかしかった俺は真顔でこう答える。


「ミリィは幼女であり、幼女は天使だ」

「……………………は?」


 突飛な発言に、クラインは攻撃の手を止めて『何言ってんだこいつ???』みたいな呆けた顔で俺を見る。


「天使である幼女を、テメエ等は汚れきった手で、手にかけようとした。それは決して許される事じゃない。だから俺は幼女を守る為、テメエ等を一人残らずぶち殺す事にした」


 もう一度言おう。


「幼女は天使だ。そして、幼女を陰ながら見守り愛でる俺は、正義ロリコンだ」


 言い切ると、クライン、ジド、ピエールの三人は変態を見るかのような眼差しで、


「「……へ、変態だ」」


「変態じゃあない、ロリコンだッ!!」


 俺は胸を張って言い放った。

 間違ってもらっては困る、変態とロリコンは別物だ。変態は平気な顔で幼女に手を出すが、ロリコンは陰から見守るだけで絶対に手を出さない。

 『YESロリ NOタッチ』がロリコンの鉄の掟なのだから。




「地球における全ての同志達を代表して、俺がテメエ等に制裁を下してやる」


「……ハハ、何だこいつ気持ち悪いな。おいジド、お前このガキの言っている事理解したか?」

「いや……全く分からん」

「……まあいい、どうせ殺しちまうんだ。どうでもいいさ!」


 そう言うと、クラインは再び攻撃を仕掛けてくる。

 だが残念だったな、俺はもう既にお前の剣筋を見切っている。


 上段からの斬り下ろしを躱した刹那、俺は奴が握っている剣の柄を思いっきし蹴り上げる。剣が宙を舞い、目を見開いて驚愕するクライン。

 殴って下さいと言わんばかりの無防備な体に、鉄拳の連打を浴びせる。


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああッツ!!!」

「ぉう――ぉぁばばばばばばばばばばばぁぁぶぶぶべべあああああばばばッ!!?」


 腕、足、胸、顔の全てを殴り続ける。だがやはり、無意識なのか顔面に打つ比率が多くなってしまうのは仕方の無い事だった。


「おるぁあああッ!!」

「うごッ!!」


 何百発の殴打を打ち放った後、アッパーで顎を打ち抜いてフィニッシュ。

 もはや人の顔の原型を留めていないクラインが吹っ飛び倒れたのと同時に、俺は体を半身にして背後から迫る奇襲を紙一重で避ける。



「不意打ちとは騎士のする事じゃねぇなあ」

「私はクラインのように油断はしない、殺れる瞬間があれば殺るさ」


 このメガネ、俺がクラインを倒して一息吐こうとした瞬間を狙って斬りかかってきやがった。済ました顔してやる事えげつねーぞ。


「でも」


 次々と襲いかかる鋭い剣戟を躱してゆく。


「不意打ちしてもしなくても、大して結果は変わんねーがな」

「…………」

「幾らぶんぶん振り回したって、テメエの攻撃は当たんねぇよ」


 このメガネの剣技も十分あるが、実力はクラインと同程度。そして俺は、クラインの力量をさっきの戦いで測り終えている。

 っていう事は、だ。


「テメエを倒すのに、そう時間はかからないって事だな」

「……ぐっ! き、貴様一体何者だ。魔力を使わず、これほどの力を持った奴など……私は知らない!」


 うるせーな、何度も言ってんじゃねえか。


「ロリコンだッ!!」

「――うおッ!?」


 剣の刀身を殴って弾き、間合いを無にして鳩尾に膝をぶち込む。

 と同時に、体の重心を右へと回旋。足、腰、肩、腕、拳の順に力を伝達させ、渾身のボディーブローを横っ腹に叩き込んだ。


「お……おぅ」


 整った顔を苦痛に歪ませ、ジドは口から血と吐しゃ物が混じったものを吐き出した。

 だが、これで終わらせるほど俺は優しくない。



「蹴玉」

「――#$%&’!?@*#$%ッ!!?」



 トドメの一撃に股間を蹴り上げると、ジドは白目を剥き、泡を吹きながらぶっ倒れた。



「…………」

「ひっ――ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいっ!!?」


 二人のイケメン騎士をぶちのめした俺は、最後に残ったクソデブに視線を向ける。

 さあ、待ちに待ったお楽しみの時間だ。


「な、何が欲しい!? 金か? 権力か? 女か?」

「……は?」


 俺が一歩一歩近づくと、突然クソデブが唾を飛び散らせながら必死に舌を回し始める。

 何が言いたいのか分からず首を傾げていると、クソデブは切羽詰まった表情で続けて言った。


「そういえば幼女が好きだと言っていたな。よし、それならば私が帝国中にいる幼女を連れて来よう!!」

「……」

「それ以外にも、欲しい物があれば幾らでもくれてやる! だから私につくんだ! その女と無関係の貴さ……あなた様がその女に肩入れするより、ずっと良い条件だと思わんかねッ!?」



……あー、そういう事ね。自分が助かりたいが為に、さっきからペチャクチャと戯言をほざいていたのか。

 うーん、確かに金も欲しいしナイスバディな彼女も欲しいし、幼女と戯れたい。権力はいらないけど。

 もし俺が、欲に目が眩むような正真正銘の下種であったならば、エリザさんを見捨ててこのクソデブに寝返るんだろう。


 ただ気に入らねぇのは。

 例えその場を凌ぐための方便だったとしても、クソデブの目には俺という人間が、エリザさんを見捨てる糞野郎に見える訳だ。


 はっはっは、こりゃ参ったな。



――ズンッ!! と、俺の足元の床がひび割れ、鈍い音が部屋に鳴り響く。それは、俺の足が踏み締めた床から鳴った音で。



「舐められたもんじゃねえか。いいか……よく聞けクソデブ。幼女は天使で、俺はロリコンで、ロリコンは正義だ」

「……ひっ」

「そして正義は悪を倒すもんだろ? エリザさん云々の前に、テメエは幼女に手を出した時点でアウトなんだよ」

「た……助け……」


 今更命乞いしても遅ぇんだよ、テメエのやってきた事を悔いて、無様に逝きやがれ。


「これは、アルメリアさんの分」

「う……おぇぇぇ」


 肥えた腹に拳をまず一発。

「これはエリザさんの分」

「ぶっ……ぉ、ぉぉ」


 回し蹴りを側頭に叩き込む。クソデブの体はコマのように回転しながら吹っ飛んだ。


「そしてこれは、攫われて怖い目にあったミリィの分」

「……や、やべ……て」


 倒れているクソデブの頭を持ち上げ、勢いよく床に叩きつける。そしてもう一度頭を掴んで持ち上げ、


「と、ついでにセレナの分」

「へぷ」


 ぺちっと軽く頬を叩く。あいつの分はこんなもんでいいだろ。


「そしてこれは……」

「ぅ……ぁ……」


 そして俺は、歯が欠け落ち潰れた芋虫みたいな顔へと、捻りに捻った拳を振り抜いた。



「幼女を泣かした、俺の怒りの分だッ!!!」

「ぶべらッ!!!」


 振り抜いた拳がクソデブの顔面に突き刺さると、クソデブは吹っ飛んで壁に衝突し、意識を失った。


「……ふぅ」



 敵を全員倒した俺は一つ息を吐くと、エリザさん達を死なせない為に動き出したのだった。

お読み頂きありがとうございます!



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