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女帝の過去




「ふぅ……気持ちがいいな」

「ええ……そうですね」


 壁に寄りかかるエリザさんは長い息を吐くと、手の平でお湯をすくい肩にかけてゆく。彼女のそんな煽情的な姿を、俺は少し離れた所でチラチラと童貞臭い眼差しで眺めていた。


 あれ、どうしてこうなった……?


 闘技場で、俺がエリザさんを必殺絶頂殺しでノックアウトさせ、セレナに「きゃーえっち変態童貞!」とひっぱたかれた後。

 真っ青な顔をしたアルメリアさんがエリザさんの体を抱きかかえ、どこかに行ってしまう。怒るセレナと蔑んだ目で見てくるミリィと一緒に待っていたら、軍服に着替えたエリザさんとアルメリアさんが戻ってきた。

 

 エリザさんが突然汗を流したいと言ってきて、どういう目的があっての事なのかは知らないが、何故か俺も一緒にと湯に誘われた。

 勿論断ったが、女帝権限と嫁入り前の体を穢したという罪で強制連行される事になったのだ。



 そして今、俺とエリザさんは二人っきりで大浴場の風呂に浸かっている。彼女は胸をタオルで隠さず、惜しげもなく大胆に豊満なおっぱいを晒していた。


 思春期真っ盛りな高校男子である俺としてはちょっとばかしツラい。だってエリザさん、マジで体付きがエロいんだもの!!



「ヘイタ、そう露骨に見られると、いくら私でも恥じらいを覚えるんだが」

「あ……すんません」


 じゃあタオルで隠して下さいよエリザさん。おっぱいに目がいってしまうのは男の条件反射なんだから。


「それにしてもヘイタは強いな。まさかあれ程力の差があるとは思わなかった。私も力については自信があったんだが、井の中の蛙だと思い知らされたよ。魔王を倒した勇者なだけはあるな」


 悶々としていると、突然エリザさんが笑みを零し話しかけてきた。俺はいやいや、と首を横に振って、


「まあ、俺って力だけはあるんで。そういうエリザさんこそ、結構強かったですよ。さっきの勝負でまだ余力残してましたよね。多分、魔王にだって通用すると思うんですけど」


 エリザさんは本当に強かった。

 まず火力が半端ない。それに戦闘センスも抜群だ。マジで魔王と同じぐらいかもしれない。それに、俺と勝負していた時、切り札を何個か隠し持ってたっぽいしね。


 まあ、この話しはこれくらいにしておいて。


「で、何を話したいんですか?」

「……何の事だ?」


 折角こっちから話を切り出したのに、彼女はとぼけるように首を傾げる。

 おいおい、そりゃあないでしょ。そっちがそのつもりなら、遠慮なく言ってやるよ。



「俺が勝負を受けたのは、あんたの目の奥に悲しみの色が映っていたからだ。誰にも言えなくて、けど誰かに聴いて欲しくて……。自分じゃ気付いてないかもしれないけど、あんたの目はそう訴えてるよ。あんたと会った時に聴いても良かったんだけど、どうせ答えはしないだろうと思った。だから俺は勝負を承諾し、勝とうと思ったんだ。あんたの、その目の理由を聴くために」


 俺は一息つき、続けて、


「エリザさんも話したかったんだろ? だけど、帝国最強の女帝である自分が、誰かに弱音を吐く訳にはいかなかった。だから俺に勝負を振った。魔王を倒した程の強さを持った俺になら、弱音を口にしてもいいんじゃないかと思ったんだ。そして勝負に負け、俺を風呂に誘った。邪魔者がおらず、二人きりで話す為に……違うか?」


「…………」


 つらつらと長い言葉を言い終えると、とぼけた顔をしていたエリザさんは、急に瞼を閉じて黙り込む。

 彼女の魅惑的な唇が開くその時まで、俺はじっと待った。


 すると突然、エリザさんは、くっくっくっと笑い出すと、その笑い声は徐々に音量が上がってゆき、終いには狂ったように大声で笑う。


 え、きも……どうしちゃったんだこの人。いきなりぶっ壊れたんだけど大丈夫かな。

 ちゃんと治るよね? ショック療法とかでおっぱい揉めば治るかな、揉んでいいかな?



「くはははっ、いやいやすまない。笑わずにはいられなかったのだ、気にしないでくれ」


 いや、気にするでしょ。


「にしても、凄いなヘイタは。超能力者か何かか? お前の言う通りだ」


 超能力者だけど、別に人の心を読む力なんてないんだけどね。


「まさか、お前みたいな冴えない顔の子供に私の心が筒抜けだったとはな。全く恐れ入ったよ」

「おい、戦争がしたいなら早くやろうじゃないか」


 指を鳴らしながら迫ると、エリザさんは「冗談だ」と柔らかい微笑みを零す。その彼女の笑顔を目にした俺は拳を収め、ため息をついて風呂に浸かった。


……その顔は反則だって。


「聴いてくれるか」


 と彼女は言った。俺は「ああ」と頷く。

 エリザさんは目を瞑ると、昔を思い出すかのように、静かに語り出す。



「私の父は絵に描いた暴君だった。暇があれば人を殺し、欲しい物は力ずくで奪い、気に入らなければ戦争を起こす。力こそ全てという人間だった。愛していた筈の母でさえ、糸も容易く切り捨てる。それが私の父であり、帝国の前帝王だった」


「そんな父の背中見て、私は育った。子供の頃は父のように強くなり、父の背中を支えたいと思っていた。……ふっ、今思えば、あの頃の私は本当に馬鹿だったな」


「だがある時から、私は父を追うのを止めた。それは初めて父に戦争に連れて行かれ、戦という名の地獄を見た日だった」


「父にも敵はいたからな、刺客の死体ならば、いくらでも見た事がある。が、戦争で人が死んでいく光景を見たのは初めてだった。生まれて初めて、声が出ない程驚いたよ。無数の人間が呆気なく、人としての形が残らないぐらい無残に死んでゆく……それは凄まじい光景だった。あぁ……戦争の後の虐殺や略奪も酷いものだったな。あれは余りにも惨い」


「ちょうどその頃だったな、ミリィが生まれたのは。それはもう可愛かったよ、私にはミリィが天使に見えたものだ。そんな可愛いミリィを見て、私は決断した。あの子には、戦争を見させてはならない、と」


「そう決断してからは早かったよ。私は力をつけ、学生時代に唯一馬が合ったリオンとの仲を深め、信頼出来る部下を手に入れ、そして――」


「父を殺した」


「父を殺した後は私が女帝になり、戦争を止めた。それで今は、ミリィが生まれた直後に父に殺されてしまった母の代わりに、私がミリィを可愛がりながら、面倒臭い事務仕事に励んでいるのだ」



 語り終えたエリザさんは湯に顔を突っ込むと、ブハッ!と勢い良く顔を上げる。その顔は、話す前と比べて、清々しくなっているように見えた。



「壮絶な人生だな」


 まあ、俺が今まで会ってきた奴等程でもないけど。


「何だ、麗しい乙女が告白したのに、つれない言葉じゃないか」

「慰めて欲しかったか? それとも『がんばったな』って褒めて欲しかったか? エリザさんがそうして欲しいなら、言っても構わないけど」

「……いや、やめておこう」


 だろうな、俺もエリザさんみたいな辛い道のりを歩いてきた人に向かって、簡単な言葉を簡単に言いたくはない。

 俺は彼女の事を何も知らないから、上っ面を並べただけの言葉で慰めるような事だけはしたくなかった。


「私が身の上の話しをしたのは初めてだ。よしヘイタ、私と結婚しよう。お前ならば、私の夫にふさわしい」

「えっ、やだ」


 何この人怖いんだけど。サラッとプロポーズしてきたぞ、普通求婚って男からするものじゃないのか?男よりも男らしいぞ。


「即答とは気に入らないな。私に何の不満がある? 私と結婚すれば、このカラダもお前の好きなように出来るのだぞ? さっきからお前が、ジロジロと見ているこのカラダをな」


 豊満なお胸をたゆませながら、エリザさんが挑発的な表情で言ってくる。

 うっ、それはちょっと惜しいような……。っていうかバレてたのかよ。


「あれでバレていないとでも思ったのか? ふっ、力は凄いが、そっちの方はまだまだ青いな。いいかヘイタ、女は男のイヤらしい視線に敏感なのだ、覚えておくといい」




 ……はい、肝に銘じておきます。


今日、もう一話更新予定です

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[一言] 誤字報告27部分×そんな父の背中見て、私は育った。        〇そんな父の背中を見て、私は育った。
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