絶頂殺し
一層笑みを深めると、エリザさんは大剣を地面に突き刺す。
すると、ボコボコとマグマのように地表が噴き荒れだした。彼女を中心に濃密な魔力が収集されると、徐々に形を成してゆく。
その魔力量は膨大だ。そこら辺にいる魔法使いが束になっても届く事はないだろう。
「朧火」
エリザさんの詠唱によって形成されたのは、燃え盛る巨大な龍だった。
天に向かって蜷局を巻く灼熱の龍。距離が離れているのにも関わらず、龍から発せられる熱はジリジリと俺の肌を焼いていく。
……こいつはやべえな。
もしあの龍が放たれたのならば、ここら一帯焦土と化してしまうだろう。まあ、エリザさんは闘技場に張られている結界の強度をしっているから、大丈夫だとは思うけど。
「この魔法は、私のとっておきの一つだ。受け止められるものなら、受け止めてみろ!」
エリザさんが「ゆけ」と命令を下すと、龍は顎を広げて襲いかかってくる。
迫り来る炎の龍を睥睨しながら、俺は胸中で決断した。
エリザさんは全力を見せてくれた。ならば、俺も誠意を持って彼女に応えるべきだろう。
「すぅぅぅぅぅ」
大きく息を吸い込み、丹田に力を込める。体内に眠るエネルギーを呼び覚まし、右拳に集中させた。
拳からユラユラと炎が灯ったのを確認した瞬間。俺は吸った息を吐き出すと同時に、引き絞った拳を解放した。
「星皇拳――"螢惑"」
それは、一条の軌跡。
音すら呑み込む、真っ赤に煌めく一筋の炎は、エリザさんの炎龍と真正面から衝突した。されど、拮抗した時間は一秒もなかった。
俺が放った炎は炎龍を侵食し、破壊し、燃やし尽くしてゆく。尻尾の先まで、全てを喰らった炎は役目を果たし終えたと同時に、燐光となって消えていった。
「……馬鹿な」
その光景の一部始終を目にしていたエリザさんは動揺を隠せず驚愕している。そんな彼女に、俺は得意気に言ってやった。
「炎はエリザさんだけの専売特許じゃないですよ」
勝ち誇ったような俺の顔を見たエリザさんは悔しそうに呟く。
「ああ、ヘイタの言う通りだ。本当にこれは……まいったな、ここまで驚いたのは久しぶりだよ。まさか炎で他人に打ち負かされるとは……」
「どうっすか、これで少しはスッキリしました?」
「したさ……が、まだ足らないな。ここまできたら、もう少し付き合ってくれッ!」
「えっ嫌です」
ハッキリと断ったのに、エリザさんは嬉々とした表情で次々と強烈な攻撃を仕掛けてくる。それを何とか躱しながら、俺は心中で、このくらいで終わらせるかと思っていた。
エリザさんも楽しんで少しはスッキリ出来たと思うし、もういいだろ。
という事で俺は、戦闘を終わらせる為にお約束のアレを繰り出した。
「必殺――脱衣パンチィィィィィィィィィィィィイイイイッ!!!」
エリザさんの懐に音も無く潜り込み、腹部に拳を突き入れる。しかし、その拳は彼女の体に傷一つ付ける事はなく、代わりに身に纏っている着衣を木端微塵に粉砕した。
勿論、着衣というのは下着を含めた全てである。
という事は、必然的にエリザさんの姿は全裸であった。
「ふぅ……これで終わりですよねぇぇぇぁぁああああああ!!?」
服をひん剥いた事で戦いが終わったと一息ついていたところに、エリザさんが大剣を振り回してきたので慌てて回避する。
何だこの人、真っ裸のまんま斬りかかって来たぞ!?
羞恥心ってものはないのか、おっぱいがぷるんぷるんしてんぞ!!
「ヘイタの助兵衛心には脱帽したが、私の服を破った所で大して意味はないぞ。私は軍人になったその時からとうに女なんぞ捨てたからな」
ま、マジかよ……それはお兄さん困っちゃうぞ。
「ふっ、裸程度でヘイタの動きが鈍るのなら安い物だ」
と言って、エリザさんは恥ずかしがる事もなく、あられもない姿のまま仕掛けてくる。ち、痴女やんけ。
「……はぁ」
俺は一つため息を吐き出す。仕方ねえ、この技は可能な限り使いたくなかったが、こうなってしまったら使わざるを得ない。
多分、いや絶対後でセレナの機嫌が悪くなると思うが、俺はやる。
やってやる……やっちゃうぞ!!
「必殺――絶頂殺しぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいい!!!」
「ィッッッ――ァァ、アアア!!!」
俺の必殺技を受けたエリザさんは色香のある絶叫を上げると、力尽きたようにバタンと背中から崩れ落ちた。
「……ふぅ」
説明しよう!
必殺絶頂殺しとは、俺が半年間脳内訓練で必死に編み出した技である。人体に数百ある経穴を一瞬で同時に押し(大事な所以外)、凄まじい刺激を与える事で相手を失神させ気絶させる技だ。しかも、目覚めたら体調がすこぶる回復しているというオマケつき。
この技は、今回のエリザさんのような脱衣パンチを受け全裸になっても平気で襲いかかってくる痴女に対して使っている。だが、俺自身としては余りこの技を使いたくない。
何故なら――、
「……平太さん、私は失望しました。女神としてあなたをこの世界に呼んだのが間違っていました」
「へ、ヘイタはケダモノだったのじゃ……」
「エリザ様ぁぁあああああああああああああああああああ!!?」
女性が周囲にいる場でこの技を使うと、俺の信用は地に堕ち「変態」とか「エロ魔人」とかのレッテルを張られるからだ。
「俺は悪くない」
「いいえ駄目です。平太さんには女神からの制裁を与えます」
笑ってない目で俺を見ながら、ゴゴゴッ!という効果音を背中から出してセレナが迫ってくる。後退りながら言い訳を連ねるが、許す気はないそうです、はい。
俺はため息をつくと、諦めて目を瞑る。
その刹那、パンッと気持ちの良い乾いた音が闘技場に響き渡り、俺の頬に真っ赤な紅葉が咲き誇ったのだった。
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