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暴姫



「条件は本当にあれで良かったのか?」

「ええ、勿論」

「……そうか、まさか女帝である私の体を求める輩がいるとはな、久々に驚いたぞ」

「照れるな、そんな褒めなくても」

「褒めてはおらん」


「「……」」


 俺達がいる場所は、帝国の闘技場。

 ローマでお馴染みの、コロッセウムみたいな円形の建物だ。


 エリザさんが言うには、この闘技場には強力な結界が張られていて、どれだけ暴れても外に被害は出ないそうだ。魔法ってすげえ。


 観客席にはセレナ、ミリィ、アルメリアさんの三人。その三人の俺を見る視線が、どこはかとなく冷たいのは何故だろう。


「はぁ……平太さんはエロ魔人ですぅ。頭おかしいですぅ」

「淫乱なのじゃ!」

「私も驚きを隠せません。まさか魔王を倒したヘイタ様がこれ程までに色欲にまみれていたとは」


 言いたい放題言われてんなぁ。どうやら三人は、俺が提案した勝利報酬に不満があるようだ。

 いいじゃないか別に、一目見た時からエリザさんのおっぱいを揉みたいと思ってたんだから。揉みしだきたいと思ったんだから。


 そしたら、都合良くエリザさんの方から勝負を申し込んで来る。飛んで火にいる夏のおっぱいとはまさにこの事だぜ。


 ……ん? なんか違うな。まあいいか。



「ヘイタは、武器や防具を身に着けなくていいのか?」

「ああ……俺は拳これ一つで十分だ」

「そうか、ならこちらも準備を整えよう」


 不敵な笑みを浮かべたエリザさんがそう口にした刹那、彼女の足元から轟々と真っ赤な炎が燃え上がる。その炎から現れたエリザさんの姿は軍服ではなく、煽情的な紅い鎧を身に纏っていた。


 ……エロすぎない? おへそ丸出しだし、鎧っていうよりは水着じゃねーか。パッと見、戦隊番組にいる敵キャラで必ず一人はいる女幹部みたい。


「これが私の戦闘服バトルドレスだ」

「……はぁ」


 めちゃくちゃエロい鎧を着ている筈なのに、羞恥心が全く無いエリザさんの様子に若干引いていると、彼女は右手に掴んでいる紅い大剣を突き付けてくる。


「では、ゆくぞ」


 そして、凄まじい速度で迫ってきた。


「はぁああああああああああああああッ!!」


 瞬く間に接近してきたエリザさんが、薙ぐように大剣を振るってくる。

 速さは申し分ない。が、避けられない程ではなかった。余裕をもって後方に回避する。


「ほう、いい動きだ。ならば、これならどうだ?」


 避けられたにも関わらず、嬉しそうに口角を上げるエリザさんが、間髪入れずに大剣を一線。高速で振るわれた剣から放たれたのは、膨大な熱量を持った炎の波。


 それも、どこにも逃げ場がないぐらい拡散されている。まあ、逃げる必要はないんだけどな。


「ふっ」


 小さく息を吐き出して、引き絞った拳を撃ち放つ。拳から放たれた衝撃波は、うねる炎を全て掻き消した。


「……」

「おいおい、そんな驚かなくてもいいだろ」


 驚愕するエリザさんに声をかける。すると彼女は、その美しい顔を好戦的な表情に変えた。



「……驚きました。拳を振るっただけで、エリザ様の炎を消し飛ばすとは。流石に魔王を倒しただけの事はありますね」

「そんなに褒めなくてもいいですよ。平太さんなんて、強さを除けばただの変態ですから」

「お姉様もヘイタもどっちも強いのじゃ」


 外野が騒がしいな。それにセレナが悪口を言っている気がするのだが、気のせいだろうか。


「そうか……強いとは思っていたが、まさかここまでやるとはな」

「いいのか、全力を出さなくて?」

「むっ……それはどういう意味だ?」

「しらばっくれなくていいよ、全然本気を出していないのは分かってんだから。心配せず本気を出していいんだぜ、"あんたがどれだけ暴れようとも、俺が死ぬ事は絶対無いから"」


 紅い瞳を見つめながら、大胆不敵に訴える。するとエリザさんは、ふっ……と笑みを零し、


「ヘイタの気持ちに感謝する。だが、そう言うのならば絶対に死んでくれるなよ」


 エリザさんの目の色が変わる。纏う雰囲気も一変し、内包する魔力を溢れさせ、己を極限まで高めていく。


 そうだ、そうでなきゃ態々勝負を受けた意味がない。俺は、全力のエリザさんを見たかったんだから。


「行くぞ」


 エリザさんの艶やかな唇から言葉が洩れた瞬間――彼女の姿が消えた。


「――ッ!?」


 背後に気配を感じたので、即座に防御をしようと思ったのだが、もう既にエリザさんは大剣を振りぬいていた。


「ぐっ!」


 強烈な斬撃を浴びせられ、吹っ飛ばされる。スピードもパワーもさっきまでとは段違いじゃねえか。


「花火」

「うおっ!?」


 エリザさんが何かを呟いた刹那、吹っ飛んでいる俺の眼前に小さな火玉が出現する。激しい熱量を持った火玉はいっきに膨れ上がると、爆音を轟かせ爆発した。


 回避出来ず、爆発の衝撃を受け上空に打ち上げられた俺に、エリザさんが容赦無く攻め立てて来る。


「見た目に似合わず頑丈じゃないかッ!! これならもっと暴れられるなぁあ!!」

「まだ出し切ってねえのかよ!?」


 これはちょっと予想外だ。マジで強くなり過ぎだろ、おい。

 アリーシャや騎士のおっさんなんかよりも全然強いぞ。変身する前の魔王と同じぐらいか、下手したらそれ以上かもしれない。


「ほへー、エリザさんガチで強くないですか? 平太さんが押されている姿なんて初めて見ますよ、私」

「ありとあらゆる実力者から、エリザ様は『暴姫』と呼ばれています。本気を出した時のエリザ様が、一たびそのお力を振るえば、周りもろとも消し炭にしてしまうからです。それ程エリザ様は他者よりも圧倒的にお強く、それゆえあの方は普段本気を出すことはありません。ですが……」

「どうしたんですか?」

「いえ……本気のエリザ様は誰にも相手をする事は出来ません。魔王を倒したヘイタ様がお強い事は承知の上なのですが、それでも私はエリザ様の方がお強いと考えています。ですから、本気を出しているエリザ様が攻めあぐねているこの光景が、未だ信じられないのです」

「まあ、平太さんは脳筋ですから」


「「……」」


 おいセレナ、アルメリアさんとミリィが「その一言で片づけんなよ」って言いたげな顔してんぞ。


「余所見をしている余裕があるのか?」

「ちょっ待っ」


 一層笑みを深めたエリザさんが、何十もの熱線を飛ばしてきたので、慌てて手の甲で弾く。だが、俺が防ぐのを読んでいたかの如く、彼女は次の攻撃を仕掛けていた。


「焚火」


 足元から火柱が噴き上がってくるのに対し、バックステップで後方に跳び下がると、そこには――、


「待っていたぞ!」

「マジかよ!?」



 背後に待ち構えていたエリザさんが大剣を振り下ろす。

 俺は迫り来る大剣を白刃取りして、彼女と間近で言葉を交わした。


「やるじゃないかヘイタ、伊達に魔王を倒したことだけはあるな」

「そりゃどうも」


 ぐぐぐっと大剣を押し込んで来る。何だこの馬鹿力、ゴリラかよこの人。


「だが、守ってばかりで攻めて来んのは、いけ好かないな」

「乙女の肌に傷を付けたくないもんでね」

「ハッ、抜かせ」


 彼女の細くしなやかな脚が、一歩踏み込んで来る。


「なら、その余裕ぶった態度を崩してやれば、お前の重たい手も上がるのだろうな」

「やってみればいい」

「言うじゃないか、だったらその気にさせてやるッ!!」


 エリザさんの力がさらに膨れ上がったと同時に、俺は瞬時に下がる。が、すぐさま追撃してきた。

 勇猛果敢に攻めて来る彼女の攻撃を紙一重で躱し続けると、俺は殴打で大剣を弾き飛ばし距離を取った。


「遠慮してるのはそっちじゃないか。もっとヤバいのを撃ってもいいんだぜ」

「む……見抜いていたか」


 そりゃそうだろ、と聊か呆れる。

 俺の推測が当たっているならば、エリザさんの真骨頂は圧倒的な魔力によるゴリ押し。なのに今までの戦闘で彼女は、陽動の為の魔法と純粋な剣技しか見せていないのだ。戦っている俺からしてみれば遊んでいるようにしか思えない。


「いや、すまない。ただ誤解しないでくれ、久々の戦いでつい興奮してしまったのだ、他意はない」

「ああ、そう」

「ヘイタがそう言ってくれるのならば、私も遠慮なくいこう。ただし、死んでくれるなよ」



今日ももう一話更新予定です!

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