拳で語る
「--ッ!!」
このタイミングでは避けれないと察したヘルシー姉さんは防御の構えを取る。だが彼女の細腕では紙切れのように吹き飛ばされてしまうだろう。
だから俺は、ヌシとヘルシー姉さんの間に割り込み、迫り来るを拳を右手で受け止めた。
「ンゴ!?」
「だ、ダンナ!?」
突如現れた俺に警戒したヌシは一瞬で後方に下がり、ヘルシー姉さんは化物でも見たかのような驚愕の表情を浮かべている。
「ヘルシーさん、ちょっと下がっててもらえるか」
「アンタ……大丈夫なのかい?」
「ああ」
心配する彼女に笑顔を向けて告げる。するとヘルシー姉さんはくっくっと笑った後言う通りに下がってくれた。
「……さて」
改めてヌシと対峙する。近くでみると一回りデカく見えるな。
多くの傷痕が残っているミノタウロス、この魔物はどれだけの死闘を生き延びてきたのだろうか。屈強な肉体から迸る重圧は、どこぞの魔王なんかよりも深く重くのしかかってくる。
……いいね、ガラにもなく俺も滾ってきた。
「来いよヌシ、ケンカをしようぜ。俺は逃げも隠れもしねえから」
手招きをして挑発すると、ヌシは天に向かって雄叫びを轟かせ突進してくる。
「おいおい、あの兄ちゃん馬鹿なのか!?」
「見ろ、避けようともしてねえぞ!?」
勢いを乗せたヌシの剛拳。俺は躱すことも防御することもせず、その拳をまともに喰らった。
「……ぐっ」
顔面を殴られ、凄まじい衝撃を受ける。が、俺は足を一歩引いて踏ん張り耐え抜いた。
「ぺっ……中々良いパンチだったぜ」
口の中に溜まった血を吐き出し、敵に賞賛の言葉を贈る。
いやー重い一撃だった、効いたぜこんちくしょー。
「おい、ヌシの拳を喰らってもケロってしてるぜ」
「きも」
「どんな体してんだよ」
「つーかあの兄ちゃん笑ってんだけど、こわ」
耐えきった俺の姿を見て、ヌシは信じられないと驚いたご様子だ。
おいおいおい、たった一撃で俺がノックアウトするとでも思ったのか?
「今度はこっちの番……だッ!!」
「ブッ……ウゴ……ォォオオ!!」
おー耐えたよ、やるじゃねえか。俺の腹パンを受けたヌシは悶絶し膝を着きそうになったが、気合で踏み止まっている。勿論、超手加減はしているが……はっやるじゃねえか。
「さあ、今度はお前の番だぜ」
「ブ……ブモォォオオオオオオオオオオオオッ!!!」
それから俺とヌシは、どちらかが倒れるまで殴りに殴り合った。プライドの高いヌシは俺のケンカに乗ってくれて、互いに躱す事無く交互に殴り続ける。
その激しい殴り合いに制し、最後まで立っていたのは俺だった。
「……」
「ブゴ―……ブゴ―」
力尽き倒れたヌシを見下ろす。
強かった。
手加減をしたとはいえ、俺のパンチを何度も受けここまで耐えるとは思いもしなかった。何度も膝を屈し倒れかけたが、意地かプライドか、ヌシは幾度も踏ん張っていた。
久しぶりに、胸が躍る闘いだったぜ。
「マジか、殴り合いでヌシに勝っちまったぞ」
「きも」
「おったまげー」
「ダンナ、凄いじゃないか!」
「ハム!」
ヘルシー姉さんとネネが駆け寄って来て、興奮しているヘルシー姉さんは俺の肩に腕を回し、ギュッと抱きしめて頭を撫でてくる。
若干苦しいが、大きくて張りのあるおっぱいに充分に堪能出来て満足です。セレナやミリィが居ない内にもっと楽しんでおこう、ぐへへ。
「まさかヌシを倒しちまうとはね、恐れ入ったよ!」
「いやいや、それほどでも」
ヘルシー姉さんに褒められて浮かれていると、倒れていたヌシが突然起き上がる。
「おい、こいつまだ動くぞ!」
「離れろ!」
「だ、ダンナ!?」
「まあ、落ち着けって」
狼狽えるヘルシー姉さんや冒険者を落ち着かせ、ヌシを見やる。
ヌシは俺の眼前にまで歩いてくると、じっと見つめてきた。俺とヌシの瞳が交差する。
するとヌシは突然片膝を着き、深く頭を下げた。
「お、おいまさか……」
「ああ、ヌシが兄ちゃんに忠誠を誓ったんだ」
「そんな事があるのかよ」
えっ、これってそういう感じなの?
一向に頭を上げる気配が無いので、ヌシに声をかけて頭を上げさせる。
「楽しいケンカだった、またやろうぜ」
そして拳を突き出した。ヌシは俺の拳を見つめた後、そっと己の拳を突き出す。
こつんっと軽い音を立て、俺とヌシの拳が交わされた。
「あんまり悪さするなよ」
「ブゴ」
俺の言葉に頷くと、ヌシは立ち上がり静かに去って行ったのだった。
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