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危ないメイド



「なんか物々しい雰囲気ですね」

「ああ、今にも戦争をおっ始めそうだ」

「…………」



 俺達は今、宿にポチを預けて帝国の街を散策していた。どこもかしこも険しい顔の兵士がいて、街中は緊迫した雰囲気に包まれている。


 何でも一か月前ぐらいから王女様が行方不明になっているらしい。国中を探し回っても未だに見つからない。死体も出て来ないので、陰謀に巻き込まれた恐れがあり、それでこんなにも騒がしいのだと。


 ちなみにこの情報源ソースは、恰幅の良い屋台のおばちゃんに教えてもらったものだ。

 おばちゃんの情報網を侮ってはいけない。中学の時、泣いている迷子の女の子の話しを聴いていたら、何故か次の日の俺のあだ名がロリコン鬼畜野郎になっていた。しかも生徒指導室にも呼ばれた。


 どうやら近所のおばちゃんが、俺が子供を泣かしていると勘違いしたらしい。それが周りに回って、俺が女の子に変態行為をしていると学校に通報される事になったのだ。何とか誤解は解けたのだが、ロリコン鬼畜野郎というあだ名は卒業するまで残ってしまった。


……おばちゃん怖いよぉ。


 脱線してしまったが、何が言いたいのかというと、おばちゃん達の噂の伝達速度と網の広さは馬鹿に出来ないって事だ。


 だから信憑性はさて置き、手っ取り早く情報を手に入れたければ、おばちゃんに聴くのが一番なのである。


「どうしました平太さん、顔が引きつってますよ」

「いや、ちょっと嫌な事を思い出しちまった」

「……」


 俺とセレナが会話をしている間、ミリィは一度も口を開いていない。顔を隠すようにマントのフードを目深にかぶり、じっと黙っている。


 それには理由があった。





 山のヌシとのケンカを制した後、俺達はヘルシー姉さんや多くの冒険者からお礼の言葉を言われ、沢山の食料を貰い温泉街を後にした。


 そしてガロード山脈を下り、遂に目的地である帝国にたどり着く。

 だがそこで、入国する前に一つ問題があった。


 元々、帝国に用があったのは魔王をぶっ殺す他に、帝国の王女であるミリィを帝国に送り届けるという目的もあった。俺達は門兵にミリィを引き渡そうと思ったのだが、彼女はいやいやと首を振って決して離れないように俺の腕を抱きしめてくる。


 俺とセレナはどうしたもんかと顔を見合わせ、決断した。

 ミリィは身内に裏切られ戦争の道具として利用された身。もしかしたら門兵の中に裏切り者がいるかもしれない。もしそうだったらミリィはまた捕らえられてしまう。ならば門兵に引き渡すのでなく、俺達が直接彼女の姉である女帝エリザに預けようという結論になったのだ。


 しかしミリィの顔は割れている。鮮やかな紅い髪を見られただけで疑われてしまうだろう。だから入国する前、ミリィには全身泥塗れになってもらった。


 その上で汚いマントを羽織りフードをかぶれば、誰もミリィとは分かるまい。というか臭いし、近づきたくない感じだ。

 予想通り入国する際、門兵は嫌な顔をして、さっさと行けと言わんばかりに審査が適当だった。恐らく、ミリィの事は召し使いか何かと勘違いしていたと思う。


 こうして俺とセレナ、泥塗れのミリィはどうにかこうにか帝国の中に入る事が出来た。


 ここの土地勘は、帝国の王女であるミリィが詳しい。彼女に案内されて、女帝がいる巨大な王宮の目の前までたどり着いたところまでは良かった。


--しかし、


「どうするんですか?」

「って言われてもなぁ」

「困ったのじゃ」


 三人揃って深いため息を吐く。

 王宮に着いたはいいものの、どうすればいいか分からず立ち往生している。女帝に用があるから合わせてくれって言っても警備兵に門前払いされるのは目に見えている。


 俺が力強くで正面突破するのも考えたが、後々ミリィに迷惑が掛かると判断して断念した。お尋ね者になるのも嫌だしな。


 三人寄れば文殊の知恵とは言うが、一向に良い案が浮かばない。はてさて、どうしたもんかと思考を懸命に働かせていた、その時。


 突然誰かに攻撃された。


「伏せろ!」

「ふぇ!?」


 驚くセレナの頭を掴んで無理矢理下げさせ、飛来するナイフのような刃物を手の甲で弾き飛ばす。

 何だよ突然……と胸中で悪態を吐きながら見てみると、右目を黒い眼帯で覆い隠した黒髪のメイドが、おっかねえ顔つきで立っていた。

 何故かは分からんが、すんげー怒ってんだけど。


「賊が、よくノコノコと姿を現しましたね。どういう魂胆かは知り得ませんが、全て吐いてもらいます」


 小さな声音で呟くメイドの姿が忽然と消えた。

 これはやばい……と危険を察知した俺は、セレナとミリィの首根っこを掴んで後ろに放り投げる。


「うむ!?」

「ほげえええええッ!!」


 その後、俺の腹に強い衝撃が走る。


「ぐっ」


 さらに間髪入れずに胸と顎を撃ち込まれた。にゃろう、やりたい放題やりやがって。


「ほう、今のを受けてまだ立っていられるか……。賊の癖にしぶといですね」


 声は聞こえてくるが、姿は見えないまま。

 ちょっと困った……魔法を使っているのか、完全に気配が断たれている。殺意とかも全く感じられないので、居場所も攻撃の瞬間も把握出来ない。


 反撃もろくに出来ないから、さっきからずっとタコ殴りをされ続けている。


 大して痛くないが、めちゃくちゃ鬱陶しい。


「まだ倒れないですが、ならばこれで--」

「調子に乗んなよ」

「ぐっ!?」


 いい加減ウザかったので、全方位に向けて殴打の嵐を放つ。手応えは無かったが、恐らく一、二発は捉えたと思う。


「……まさか、賊がここまでやるとは思いませんでした。ですが、次は確実に仕留めます」


 少し離れた距離に、不意に姿を現したメイドが宣言してくる。


「…………」


 俺は基本女性に手を上げたりしない。小さい頃から父さんに、女性に手を出す奴はカッコ悪いと言い聞かされてきたからだ。俺もそう思うし、俺自身女性は守るべき存在だと思っている。


 だが、


 だが、だ。


 前にも言ったが、俺は決して聖人君子じゃあない。

 こうもあからさまに殺す気で殴られた上、あまつさえあのメイドはセレナを巻き込みやがった。これはもう女性だ何だという話しを通り越している。


 パキパキ、と指の骨を鳴らし、冷めた視線で"敵"を見据えた。



「殺るか」



 俺の口から、そんな物騒な言葉が漏れた、その時だった。


「やめるのじゃっ!」


 後ろに放り投げた筈のミリィが、メイドから守るように俺の眼前に立ちふさがる。彼女は大きく手を広げ、メイドに訴えた。


「もうやめるのじゃ、アルメリア!この者達はわらわを助けてくれたのじゃ!」

「……ミリィ様」

「だからもうケンカはよすのじゃ!」


 ケンカってレベルじゃなかったけどな。


「……分かりました、ミリィ様がそう仰るのなら一先ず話しを聴きましょう。ですが、何かあったらその時点で斬りますので」

「うむ!」

「……」


 なんか勝手に話しが纏まってんだけど。ちょっと納得出来ないが、ミリィの知り合いっぽいし、まあいいか。俺も好きで女性をぶち殺したい訳じゃないしな。


 ふぅー、と一つ息を吐く。

 あれ、なんか忘れている気がするような……。


「平太さーん、助けて下さーい。腰が抜けて立てないんですぅ」




……お前、パンツ見えてんぞ。




お読み頂きありがとうございます!

今日はもう一話更新予定です!

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