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ポチ(馬)




「ヘイタ、魔王軍に勝利する事が出来たのはお主のお陰だ。本当に感謝している」

「あの時君が助けに来てくれなかったら僕は死んでいたよ、ありがとうヘイタ」

「私からも感謝を。ヘイタ様、この国を救って下さって本当にありがとうございます」


「いや、そんな大した事してないから」



 王様、アリーシャ、そして王女様が次々と真摯にお礼を告げてくる。けど、そんなに英雄扱いされても困るんだよな、俺は魔王ぶっ殺しただけだし。

 それ以外はマジで何もやってない。健闘したのは騎士や冒険者達だ。


 魔王軍との戦争から三日が経つ。結果を言えば、勝利を収めたのは人間側だった。


 俺が魔王をぶっ殺した後、魔物は統制が取れず慌てふためき、じゃんじゃん湧いてきていたのも急に止まった。その事により人間側が息を吹き返し、回復したアリーシャや騎士団長のおっさんが戦線に加わったことで猛反撃。少なくない犠牲を出しながらも、勝利をもぎ取ったのだ。


 現在の居場所は王室。

 豪奢な室内には俺とセレナ、王様と王女様、アリーシャとおっさんの六人がいる。



「平太さん平太さん」

「ん?」

「この壺売ったらどれくらい美味しい物が食べれるんでしょう……じゅるり」



 高そうな壺を見つめて涎を垂らすセレナ。おい、恥ずかしいから自重してくれないかな女神様、お願いだから。



「謙遜しないでくれ、ヘイタには返しきれない恩がある。どれ、褒美をやろうと思うのだが、何がいいか。金か、爵位を与えて貴族として迎えるのがいいだろうか」

「それはいいね。ついでに騎士団に入団しちゃえばいいんじゃないかな。ハリマンさんも賛成だよね」

「ふん、こんな若造が騎士になれるとは思えんが、魔王を倒した力は認めてもいいだろう」



 王様とアリーシャが随分と推してくる。あとおっさん、頼むから急にデレないでくれ、気色悪いから。おっさんのデレとか誰得なんだよ。



「駄目です!ヘイタ様は私と結婚するんです!」


「「え?」」



 王女様の突飛な発言に場が凍り、誰もが驚愕する。何を言ってるのこの王女様、トチ狂ったのか。



「り、リオン、突然何を言い出すんだい?」

「そそそそうだぞ、変な食べ物でも口にしたのか?」

「お気を確かに王女様!」



 動揺で三人の唇が震えている。俺も耳を疑ったぐらいだ、この三人の驚きは計り知れないよな。



「ちょ、ちょっと待って下さいい!全然納得できませんよぉ!どうしていきなり結婚なんですかぁ、こんな冴えない顔の平太さんのどこが良いんですかぁ!?」



 おい女神、聞き捨てならんぞ。



「大体、この人ただの脳筋ですよぉ!顔も平凡ですしすぐ怒りますし、おまけに一緒に寝ても手を出して来ないヘタレ野郎なんですぅ。まあ、襲ってこられても困るんですけどぉ」



 柔らかそうな頬を膨らませプンプン怒るセレナは俺の株を急降下で下げまくる。というかお前、あの夜寝たふりしてたのかよ。



「いえいえ、ヘイタ様はとても素敵な方です。戦っている時は男前ですし、何より凄くお強いです」

「で、本音は?」

「魔王を簡単に倒せるヘイタ様が私と結婚して王になれば、この先ベルン王国は安泰ですわ」



 んなこったろうと思ったわ。本当、この王女様はしっかりしてると言えばいいのか、腹が黒いと言えばいいのか、頼もしいよ。



「リオン、お前って娘は!」

「はあ、リオンらしいね」

「心臓に悪いですぞ」



 王様が涙目で、アリーシャとおっさんが呆れた風にため息を吐く。

 綺麗な瞳で見つめながら返事を待つ王女様に、俺はこう答えた。



「悪いが、断るよ」

「えっどうしてですか!?私に何か問題でも?」

「へっへーん残念でしたぁ!平太さんは私にメロメロなんですぅ。なんてったって私の胸を揉む事が条けフガフガ!?」

「いやー気にしないでくれ、こいつちょっとアレだから」



 慌ててセレナの口を手で抑える。何を口走ってるんだこのポンコツ女神は、その言い方じゃ俺がただの変態だと誤解されちまうじゃねえか。



「「……」」



 ほらー、セレナのせいで変な雰囲気になったじゃねーか。あらぬ誤解をされるのも嫌だし、本当のことを全部話しちまうか。もしかしたら協力してくれるかもしれないし。



「実はな--」



 俺は王様達に包み隠さず話した。

 セレナがこの世界の女神だという事や、俺が異世界の人間である事。邪神が間もなく復活し、魔王軍が本腰を入れて攻めてくる事など。



「なんと、ヘイタは異世界の人間だったのか。信じられんが、それならヘイタが強いのも肯けるな」

「魔王ベルゼートが言っていた絶対主って、邪神の事だったんだ」

「うむ、そのようだな」

「それで、セレナ様が女神なのですよね……?」



 なんとか信じてもらえたようだ。セレナが本当に女神なのか疑われているのは仕方ないよな。

 このアホが自分達の女神だなんて誰も信じたくは無いだろう、だから泣くなセレナ。



「じゃあヘイタは異世界の勇者だね!」

「そんなんじゃないって」



 アリーシャが瞳をキラキラさせ、興奮した様子で言ってくる。勇者とか止めてくれよ、マジで恥ずかしいから。



「という事で、俺は魔王をぶっ殺す為にこの世界にやって来たんだ。残り三人の魔王も倒さなきゃならないから、この国に残る事は出来ない、すまんな」

「そうですか……それは残念です」

「そこで一つ聴きたいんだけどさ、この国に一番近い大国ってどこなんだ?魔王はそれぞれ大国の近くにいるらしいから、次はそこを目指そうと思っているんだけど」



 問いかけると、王様達は顔を見合わせ急に黙り込んでしまう。……なんか言いづらそうだな。



「この国から近いとなると、"帝国"だな」

「帝国?」



 耳にしただけで行きたくない名前だな、と思っていると、おっさんが鼻息を荒くして続けて、



「いけ好かん国だ。今は落ち着いているが、数年前までは他国に戦争をふっかけていた」

「うわぁ、行きたくねー」



 絶対一悶着あるぞ、行く前から想像できる。でも魔王を倒すには行かなきゃならないんだよなぁ。



「分かった、その帝国に行くとするよ」

「お勧めは出来ませんが、ヘイタ様がそう仰るのならば止めません。そうですわ、近いといっても帝国まではかなりの距離があります。馬と馬車を用意しましょう。他に必要な物があったら何でもお申し付け下さい。ベルン王国を救って下さった恩、この世界の為、協力は惜しみませんわ。

それと、帝国で私が個人的に懇意にしている人に、ヘイタ様達の事を伝えておきますわ。もしかしたら、現地で助けになってくれるかもしれませんから」

「ありがとう、助かるよ」



 王女様の申し出に礼を告げる。

 本当の事を話して良かったな、援助してもらえると凄く助かる。


 と、そんな時だった。

 ぐぎゅるるるるるる!という爆音が不意に室内に木霊する。

 おい、何だこの音は。



「あははは、真面目なお話を聞いていたらお腹がすいちゃいましたぁ」

「お前なあ」



 音の正体は、頭をかいて照れているセレナの腹の音だった。いつから食いしん坊キャラになったんだお前は。


 呆れていると、王女様が笑顔でパンッと手を叩き、



「そろそろお食事にしましょうか。ヘイタ様もセレナ様も今日はゆっくり休んでいって下さい」

「お言葉に甘えさせてもらうよ」

「やったーご飯ですぅ」



 頼むから食べ過ぎて太らないでくれよ、ぽっちゃり女神なんて需要はどこにもないからな。





「そうか、もう行っちまうのか。寂しくなるな」

「もっと一緒に戦いたかったなぁ」

「道中、お気を付けて下さい」

「必ずまた会いましょうね!」


「ああ、世話になった」

「ありがとうございましたです」



 ジャッカル先生と、アカヤ、アオト、ミドリの四人と最後の別れの挨拶を交わす。誰もが皆、寂しそうな表情をしていた。


 昨日王宮で一晩過ごした翌日、王女様の計らいで馬と馬車、旅の道具に食料を譲って貰った俺とセレナは、帝国を目指す為王国付近のブロード平原にいた。

 ジャッカル先生達は魔物狩りついでに俺達の見送りをしてくれている。本当に人の良い連中だよ。



「もう一度言うが、ヘイタのお陰で俺もこいつ等も無事に生き延びる事が出来た。ありがとよ」

「感謝の言葉は祝勝会の時に聞き飽きたよ。気にすんなって」



 ジャッカル先生と弟子達は結構危なかったらしい。

 俺が魔王をぶっ殺した事により、形勢が逆転した事でピンチを切り抜けたとか。戦争が終わった後、ギルドで冒険者達とドンチャン騒ぎしている最中に何度も頭を下げられたのだ。



「ここから北に向かい、『ガロード山脈』を越えたら帝国だ。ヘイタなら心配する必要も無いと思うが、気を付けて行けよ」

「ああ。そっちも頑張れよ」



 ジャッカル先生と握手を交わす。彼は「じゃあな」と告げると弟子達を連れて去って行った。



「……」

「良い人達だったですね」



 セレナの言葉に対し、俺は賛同するように頷いた。



「さて、俺達も行くとするか」

「はい!」

「で、誰が馬車を引くんだ?俺は馬を扱った事なんてないぞ」

「私だって無いですよぉ」


「「……」」



 あはははーと誤魔化したように二人で笑う。完全に出鼻を挫かれたな。



「大丈夫です、私に任せて下さい!」



 セレナが大きな胸をドンと叩いて自信あり気に言う。どうしたんだお前、何か変な物でも食ったんじゃないだろうな。それにしてもおっぱいデカいな。



「ポチー、私と平太さんを連れて行って下さい、お願いしますぅ」

「ブルル」

「ありがとうですぅ、ポチは良い子ですねぇ」



 馬の頭を優しく撫でながら語りかけるセレナ。あーこいつ確か動物と話せる能力があるんだっけか。すげー忘れてたわ。


 というかポチって何だよ、犬か。いつの間に名前を付けていたんだ。

 まあこれからお世話になるんだし、俺もポチにお願いしとくか。



「これからよろしく頼むな、ポチ」

「ぺっ」

「……」



 おい、このクソ馬すげー嫌そうな顔で唾を吐き飛ばしてきたぞ。「野郎が気安く触んじゃねーよ」みたいな顔をしている。


 いい度胸だ、馬刺しにして食ってやろーか。



「ぷぷぅ、平太さんポチに嫌われてますぅ!残念でしたぁ、ポチは男の子なので男の平太さんはお気に召さないようですぅ」

「ブル」



 ドヤ顔のセレナの胸に、にやけた顔を擦りつけるポチ。ただのエロ馬じゃねえか。



「はあ、もういいや。行こう」

「レッツゴーですぅ!」

「ブル!」



 ため息を吐く俺と、ご機嫌なセレナが馬車に乗り込むと、ポチは緩やかに足を進ませる。気持ちの良い微風を受けながら、俺達はゆっくりと帝国に向かったのだ。



お読み頂きありがとうございます!

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