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セレナの手料理




 帝国を目指し旅立ってから数時間が経ち、休憩をしている最中の事だった。俺はふと疑問に思ったことをセレナに尋ねてみる。



「そういやご飯ってどうするんだ。俺に家事スキルなんてないぞ」

「ふっふっふ、それには心配ご無用です平太さん。私に任して下さい」



 何故か自信満々に言うセレナは、馬車の中から調理器具を取り出すと、テキパキと手を動かして料理を作っていく。



「……なん、だと」



 その様子を眺めて驚愕する。あのポンコツで何一つ役に立たなかったセレナが、得意げに料理を作っているだと……信じられん。


 こいつは本当にセレナなのか?魔物か何かが化けてるとかじゃねえよな。


 怪訝な表情で見ていたら、セレナが唇を突き出して抗議してくる。



「失敬しちゃますぅ。私だって料理ぐらい出来るんですよぉ!」

「……いや、なんかすまん」

「平太さんは私を何だと思っているんですかぁ」



 えっ、ポンコツ女神だろ?っていうかお前、いつも食べる専門だったじゃねえか。


 セレナが料理を作り出してから30分程経った頃。暇だったので馬車で寝っ転がっていた俺は、漂ってくる美味そうな匂いに釣られて起き上がった。



「出来ましたぁ」

「お、おおー!」



 出来上がった料理を目にして感嘆な声を上げる。

 そこにあったのは温かそうなシチューにふんわり焼けたパン。ハムと色とりどりの野菜炒めだった。


 何故かは分からないが、目の前にある料理を見ていると口の中で唾液が溢れてくる。なんだこれ、すげー美味そうだぞ。



「これ、セレナが作ったのか」

「そうですよぉ、簡単な物ですが味は保証しますぅ」

「く、食っていいのか?」

「どうぞ、召し上がれですぅ」



 鍋からシチューを皿によそってもらい、受け取った俺はスプーンですくうと、パクリと口に運んだ。



「ん……!?」



 口に入れた瞬間、余りの衝撃に目を見開き驚愕する。

 何だこれ、何なんだこの料理は……。



「……ど、どうでしょうか」

「う、美味い。いや、美味いなんてもんじゃない……これは」



 口の中でほろりと溶け崩れる芋、苦みなんて一切無く芳醇な甘さが滲み出る野菜、舌が蕩けるような濃厚なルウ。全てが合わさる事で、極上なシチューに仕上がっている。


 香ばしく焼けたパンはそのままかぶりついても美味いし、シチューに浸しても美味い。

 胡椒が効いていて手が止まらないのはハムと野菜の野菜炒めだ。味付けは薄味なのだが、逆にそれが良い。あー、白米が恋しくなってきた。


 しかし、この料理はただ単純に美味いという訳ではなかった。

 なんていうのかなー、セレナが作った料理を食べていると、"懐かしい"という感情が溢れてくるんだよな。


 例えるなら、田舎に帰った時に食ったばっちゃんの料理に似ている。



「あれ……俺なんで」



 知らない内に目から涙が出ていた。マジか、泣いたのなんていつ以来だ。



「……お前、これどうやって作ったんだよ」

「えっ?普通に作りましたけど。って平太さん何泣いてるんですかぁ、全くもうお子ちゃまなんですからぁ。頭なでなでしてあげましょうかぁ」



 何でもないかのようにあっけらかんと言い放つセレナ。そんな馬鹿な、普通に作ってこんな深い味が出せるもんか。



「あーそれ多分私の女神補正だと思います。言ってませんでしたが、私って豊穣を司る女神なので、作るご飯とか不思議と美味しくなっちゃうんですよねえ」

「へえ」



 セレナの話しに、なるほどと相槌を打つ。すげーな女神補正って。

 まあこの美味さが女神の力だったとしても、作ってくれたのはセレナの力だ。


 だから俺は全ての料理を残さず平らげ、彼女に「すげー美味かった、ご馳走様」と、そう告げた。



「お粗末様です。それにしてもあれですねえ」

「ん、何だよ藪から棒に」

「ほら、料理は作れるんですけど今まで誰にも振舞った事がなかったので……作った料理を残さず美味しいって食べてもらうのって、なんだかとても嬉しいんだなあと思っちゃいました」


「--!?」



 にへら、と柔和な笑みを零すセレナ。その女神のような--女神だけど--笑顔を見た瞬間、俺の心臓が早鐘を打つ。


 何だこいつ、めちゃくちゃ可愛いぞ。今のは反則だろ。やばい、顔が赤くなっていないか心配だ。



「ほ、ほらさっさと片付けて行こうぜ」



 照れているのがバレる前にセレナを促す。すると彼女はニンジンのような赤い野菜を何本か手に持ってポチの方へ向かうと、



「ちょっと待ってて下さい。ポチにご飯を上げますので」

「じゃあ俺は片付けをやっておくわ」

「ありがとうございます、お願いしますぅ」



 鍋や皿を片付けながら、ポチにニンジンもどきを与えているセレナを横目に見る。



「はーいポチーご飯ですよぉ」

「ブルル」



 美味しそうにニンジンもどきを咥えているポチを、嬉しそうな表情で眺める姿に、俺は不覚にもドキドキしてしまうのであった。





 セレナに不意打ちのボディーブローを喰らわせられた昼食後。魔物と遭遇する事もなく、ポチが引く馬車に揺られて静かな時を過ごしていたら、いつの間にか日が暮れていた。



「今日はこの辺で休むか」

「そうですねえ、ポチも歩きっぱなしで疲れたようですし」



 という事で、今日は草原ど真ん中で野宿する事になった。

 人生で野宿なんかした事なかったから新鮮だ。大自然の中で寝るなんて小学生の遠足以来だろうか。


 軽い夕食を取った後、王女様から貰った寝袋を芝の上に敷いて、もぞもぞと中に入る。おぉー意外と中は暖かいんだな、知らなかったわあ。

 寝袋のぬくもりに感動していると、隣にいるセレナがはふぅーと心地良さそうな息を吐いていた。



「ぬくぬくですぅ」

「悪くないな」

「景色も最高ですしね」

「ああ」



 地面の上で寝れば、自然と顔は上を向く。瞳に映るのは、闇に包まれた空を淡く照らす三日月と、仄かに輝く満天の星々。


 アステリアの夜空はこれ程までに絶景だったのかと、ガラにもなく感傷に浸る。



「……」

「……」



 空を眺める俺とセレナは互いに無言。されど、決して気まずい空気とかではなかった。



「なんだか今日は、凄く落ち着いた一日でしたねえ」



 不意に、セレナが小声でそんな事を言ってきた。俺は「そうだな」と頷いて、



「アステリアに来てからバタバタしていたからな。こんなにのんびりしたのは初めてじゃないか」



 今までの出来事を思い返してみる。


 金も寝床も無い最悪なスタートには絶望したが、ジャッカル先生達と出会い、一人目の魔王を倒し、王様や王女様に支援してもらって、結果を見れば良い形に終わっている。


 本当、あの無一文の状態からよくここまで来れたと不思議に思うわ。



「最初はどうなるかと不安でしたけど、やっぱり女神である私のお陰ですかね?」

「抜かせ」

「あうちっ!」



 調子に乗るセレナの額にデコピンする。全く、誰のせいで苦労したと思っているんだ。

 冷めた視線を送ると、セレナは誤魔化す為、急に話題を変えた。



「あっ、あれ見て下さい平太さん!夏の大三角形ですよ!」

「えっ?」



 セレナの言葉に首を傾げる。夏の大三角形って、確かデネブ、アルタイル、ベガを結んだ地球の星の事だよな。何でそんなものがアステリアにあるんだよ。



「ほら、見て下さい。あれですよ、あれ!」



 セレナが指す方向へ視線を移す。するとそこには--、



「……マジか」



 衝撃の事実に驚愕する。

 セレナが言っている事は確かに本当だった。小さく輝く星々の中、ひと際煌めく三つの星。その点と点を結べば、地球にある夏の大三角形に酷似している。


……おいおい、どういう事だってばよ。



「なあ、何で夏の大三角形って言うんだ?」

「え?そんな事聞かれても分かりませんよ」



 おい、お前この世界の女神だろ。



「ただ、夏になると大きなお星様が見えるってだけで名付けられたんですよ」

「あっ、そう」



 そりゃそうか、アステリアに星座の概念なんて無さそうだしな。何も考えないで、見たまんま名付けられたのかもしれない。


……でもなんか引っかかるんだよなぁ。うーんなんだろ、少しもやもやする。まあいいか、そんなに気にするもんじゃないしな。



「そろそろ寝ましょうか」

「そうだな、おやすみ」

「おやすみなさい、平太さん」

「……」



 なんだろ、今日のセレナはいつもより百倍は可愛いかったな。


 いつもこんな感じだったらいいのになぁと思いながらも、ポンコツでないセレナは、それはそれで違うなと二律背反な事を考えながら、俺は徐々に眠りに落ちていったのであった。


お読み頂きありがとうございます!

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