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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第2部 第1章 進級と記憶とお嬢様
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第五話 突然の・・・・・

 街灯が降り注ぐ中、二人は最寄りの喫茶店にいた。

 友達と言っている喫茶店は既に閉店しているけれど、この喫茶店は夕飯のピークが過ぎるまでやっている。

 平日だというのにも限らず外食をしている親子に彼氏彼女、そのなかにこの二人は含まれていた。

 「豪い悩んでんだな」

 「じゃなきゃずいぶん楽なんだけれどね」

 頼んだコーヒーをすすりながら少年、林俊哉は向かいにいる賀川利華に話しかける。

 利華もまた、横にあるチョコレートケーキを食べながら、現在悩みの種でもある紙へと向かっていた。

 紙は二枚重ねでおかれていて、一枚は校舎内の配置図。

 赤ペンで至る所が丸で囲まれ、そこには名前がずらりと並んでいた。

 「しかし生徒会長もまた豪い仕事を頼んできたよな。こんなこと俺たちにやらせるなんて」

 「まあ、この部を作った伝手も今の生徒会長にあるらしいからね。そのお返しというかなんというか・・・・・」

 そういやこの部って鈴川の職権乱用で作ったものだったんだけれどいつの間にか文化祭にも参加していたし部費もちゃんと割り当てられているんだよな。

 そうとなれば公認の当てとなるのが生徒会なわけで・・・・・

 まあ今考えればこの部活も何かと無理があるわけだしこんな借りがなければ公認なんてしてくれないだろうからな。

 利華も作業をしながらコーヒーを飲んだりケーキを食べたりの繰り返しをしている。

 食ったり愚痴ったり飲んだりと忙しいよなー。

 それでも投げ出さないのが彼女の性格。 

 どんなことがあろうと、投げ出さない真っ直ぐな性格が利華の持ち味。

 こうして今も生徒会にあだこだ言っているけれどこんな行事も彼女では楽しいように思えるんだろうな。

 「ねえ、大野君と俊君はこの範囲いける?」

 「あ?・・・・まあ、この周辺ならあまり人通らないし。でも外も一応あるんだろ?そっちを投げ出しておいて大丈夫なのかよ」

 「そうだけれど・・・・・外の方はまだ勧誘の方じゃん。しかも瀬原君が警備しているわけだから大丈夫なんじゃないの?」

 疑問形で言われも俊哉自身何も言う事がない。

 そもそも今年から施行される部活動勧誘は全校生徒対象の物。

 もっとも、主役は一年生である。

 この学校に仮入部というものは存在するのだけれど、仮入部は仮入部で大変すぎる。

 正直のところ、職員会でもその煽りは届いているようで勉強も部活も両立できているこの学校ではインターハイに多くの部が出場しているためなのか仮入部というのは行われない。

 そのためなのか、この時期にこのような制度を導入したのだろう。

 よくもまあ、職員どもを納得させられたわけだ。

 「ま、蓮司の方は確かに大丈夫だ。あいつなら一人でも何とかできるしな」

 「なんでそう断言できるのよ」

 コーヒーを一口飲み、利華は聞く。

 「あいつはあいつだから?」

 「説明になってないじゃん」

 「国語は得意じゃないんだよ」

 「前回学年トップだったくせして」 

 「・・・・・・」

 それについては何の反論もできない。

 文系である俊哉は、なぜか国語、社会、英語においては学年上位の成績。しかし数学や理科などの理系教科はぼろぼろだ。

 「でも俊君がどれだけ瀬原君のところを凄いと思っているか分かったよ」

 「それで分かってくれただけで俺たちは進歩したんだな」

 「意味が分からないわよ」

 「それだけで俺たちのきずなが深まったんだよ」

 「愛じゃないんだ・・・・・・・」と小さい声で呟きながらペンを持つ。

 「なんか言ったか?」

 しかし、鈍感であほな俊哉にはその言葉は耳に入っておらず、聞き取れなかったようなそぶりで聞いてくる。

 「なんでもないわよ。それよりこれ手伝ってよ」

 「げっ、これ時間割?うそだろ。こんなの作るのかよ」

 「しょうがないじゃない。生徒会に渡されたのだから」

 それでも限度というものがあるだろと心の中でそうぼやく。

 渡された紙には各部活動の名前が横に並べられ、縦には時間帯がかかれていた。

 「まさかな・・・・・・」

 「何まさかって」

 「何も」

 とりあえずこれをかかなければ帰れないと考えたほうがいいよな。

 「これって、適当に配置していいのか?」

 「いいわけないでしょ、この紙に時間と記憶をちゃんと練りこませるのよ」

 「時間は分かるけれど記憶が出てくる意味が分からない」

 細かい事は気にしないと念を押され俊哉は作業へと入った。

 にしてもこの時間割振りは疲れる。

 何処からどう見てもこれは地獄だ。

 一足先早い地獄に決まっている。

 えっと、野球部が朝の最初から昼の最初までで・・・・・・・

 あー、こんな同じ文を何度読んているとこんなに頭が痛くなるなんて・・・・・

 俊哉は何となく自分の彼女がどんな仕事をしているのかついつい感心してしまった。

 これもこれでなかなか大変なんだが。

 で、サッカー部が朝の最初から体育館のここで・・・・・・・・

 バスケ部がステージ前で、バレー部がその横で・・・・・・・

 こうしていると気分はイベントを開催するディレクターのようだ。

 しかし現実こんなに簡単なものではない。

 もしここで配置を失敗したとしたら後後大変なことになる。

 こうして手慣れてきている俊哉ではあるけれど、調子に乗ると、とんでもないことになるくらい自分も分かっている。

 「俊君」

 「なんだ」

 「さっきも聞いたけれど、なんで瀬原君一人だと大丈夫だって断言できるの?」

 いきなりであった。

 でも俊哉だって答えられないわけではない。

 ただ、どう答えればいいわけなのか分からない。

 「あいつはまあ、元から運動神経が良かったからな。それでも一人で何とかできそうに見えるだろ?」

 俊哉の答えに対して、利華はあまり納得のいく表情ではなかった。

 「瀬原君、昔は剣道をやっていたんだよね」

 「っ!?」

 声にならない悲鳴が、表情で伝わる。

 確かに蓮司は昔、剣道をやっていた。

 しかし、それを知るのは事情を知っている俊哉のみ。

 彼らの通うこの学校においては(・・・・・・・・・)・・・・・・

 利華と俊哉は違う学校だ。

 至って蓮司とも違う中学校。

 しかしその情報を漏洩されたとしたら?

 別に悪い意味ではない。

 しかし俊哉にとって、蓮司のあの出来事をはある意味最悪と言っていい。

 どう考えても知っているものはいない。

 「なんで知っているんだよ」

 「・・・・蘭から聞いたのよ」

 「鈴川から?」

 訳が分からない。

 なんで小学校中学校と違う鈴川が瀬原が剣道をやっていたことを知っているんだ。

 瀬原がとてもじゃないけれど自分の口から言うはずない。

 いくら鈴川でもそれはないはずだ。

 「そうなんでしょ?」

 そうと聞かれれば嘘をつけるわけにもいかない。

 嘘をついてどうしろと?

 俺に、蓮司に、利華に、鈴川に何のメリットがあるんだ?

 「・・・・そう、蓮司は小学校の頃剣道をやっていた」

 俊哉の口から解き放たれた言葉はそれだった。

 利華は「やっぱり」と確信づけたような表情をしている。

 「でも、なんで鈴川がそれを知っているんだよ。あきらか蓮司と鈴川は違う学校だったわけだろ」

 「学校・・は、でしょ?」

 学校は・・・・・・という事は。

 けれどそれは本当の話なのか。

 本当にそれなのか。

 俊哉は過去に蓮司から話されたことを思い出す。

 それは中三の夏だった。

 プールだの祭りだので騒いでいる俊哉に蓮司が何か思い出すように話していたのだった。

 蓮司曰く、夏が来るたびに思い出すのだという。

 それは、かつていじめていた集団から助けてもらった女の子の話だった。

 俊哉はその話はちらほら聞いていたけれど今度蓮司からされた話は少し違かった。

 そのいじめられていた蓮司を助けた女の子はある日を境にどこかへ行ってしまったこと。

 まだその時からさほど時間がたっていなかったわけだけれど、当時蓮司が所属していた剣道チームは名を連ねるほどでその日から蓮司の剣道チームは市外にある体育館で活動をしていたらしい。 

 隣の体育館では例のチームが練習をしていたらしくそこにその女の子もいたらしい。

 蓮司も視力がだいぶ回復してからお礼と言いたいことがあったからその体育館に足を運んだ。

 しかし、その体育館にはその子はいなかったのこと。

 その時はたまたま風邪で休んでいたのだろうと思ったらしくまた次の週行った。

 けれど、彼女はいなかった。

 思い切ってそのチームの人に聞いたところ、その子はこの辺では有数の偉い人の娘らしく家の都合で引っ越したらしい。

 それ以降、蓮司はその事で会う事はなく今に至る。

 「違う学校だったとしても、違うチームでも、同じ場所で剣道をやっていたのかもしれないわよ」

 「でも・・・・・そんな事って」

 人気のなくなりつつある喫茶店で俊哉の声がこだまするように響く。

 「利華・・・・なんで鈴川がその事を知っているのか聞いたか?」

 「聞いたわよ。聞かないわけないでしょ。あんなに二人は仲いいのに」

 ちがう・・・・・・・仲がいいんじゃない。

 あの二人は既に・・・・・・

 「それじゃあ、話の辻褄を合わせると鈴川も昔は・・・・・・」

 「剣道をやっていたの」

 これは単なる偶然なのか。

 神様のいたずらなのか?

 こんな衝撃な事実に驚きを隠せるわけがない。

 「ちなみに蘭は中学まで市外の方で高校からはもともと家があったこの町の学校に入るために来たらしいわよ」

 もともと家があった。

 これでもう確信がついてしまった。

 あの時蓮司から聞かされた言葉の一文字一文字が淡い記憶の中から呼び戻された。

 信じたくもなかったし信じられなかった。

 「まさか・・・・それじゃあ」

 俊哉は震える声で呟く。

 「瀬原君が言っていたその女子は蘭で、蘭がこの町に戻ったのも瀬原君がいたからよ」

 交差されていく記憶に俊哉は追いつけず、ただじっと利華を見つめるだけだった。

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