第六話 部活勧誘における大事な事項
この学園の最初の大きな行事と言えば、部活動勧誘なのだろうか。
スポーツにおいても勉強においても色々な面で成績を残しているわが学校は至る所から生徒が来る。
しかし、それでも全校生徒のおよそ7割以上が県内の生徒。
隣接、あるいは近隣の市外から来る人もいるがさすがに静岡などから来る生徒は誰一人としていない。
俺は、この学園にただ単にごく普通の高校生活を送るために入学した。
俺の周りのやつもそのはず。
俊哉に至っては家が近いという理由でこの学園を選び今も楽しくやっている。
賀川も駅から四つ離れた市に住んでいるらしい。
何かと言って色々な人がこの学園に来ていることになる。
それでも、部活動勧誘というのは恐ろしいものである。
でもスポーツ推薦でこの学校に来た人もいるにはいるのだけれどそこまでの人数はない。
多くは勉強、それ以外の方へとあてはまる。
だからほとんどの人は部活動勧誘にて部活を決める人も中に入る。
これから恒例になっていくのかどうか分からないが、見た感じ俺の所属している部活も部員集めなきゃ廃部になる。
そもそも部活としての活動を何一つやっていないからもう廃部でいいんだけれど。
とまあ、青春乙は警備員として配置されたのであった。
◇
眠い。実に眠い。
ポカポカとした陽気が俺の体に降り注ぎ、眠気を誘う。
春の気候としては今年一番いいのではないのか?
授業中、いつもなら生暖かい風が吹き付けるものの空が曇っているのにもかかわらずなぜこんな場面で陽が出てくるのだろうか。
別にいいのだけれど、今は仕事中のみである以上爆睡はしていられない。
でも駐車場の一角で昼寝をしていると先生に怒られ、生徒指導の対象に入る羽目になるのだけれど部活の一環としての精神統一と適当に誤魔化してくれた人物も居たので俺はその人に感謝する。
と言っても借りとしてジュース一本をおごる羽目にはなったけれど。
昨晩は課題などで追われ寝る時間が遅くなったのが理由なのかかなり眠かった。
お昼を食べ後だからという理由にもなるけれどこの眠気は午前中のと同じくらい。
食べて寝るというニュアンスが考えられるけれどそんなことしたら牛になる。
迷信かどうかは分からない。
そんなことを考えていても、瞼がだんだんと重たくなっていき俺は目をゆっくりと閉じそうになる。
しかし、寸前のところで自分の頬を叩き、目を覚ます。
授業中もこれぐらいのことはできないのかと先生に言われそうだ。
備品として渡された竹刀はどことなくいかにも竹っぽい匂いがして竹刀の入った袋を抱えながら俺は春の日差しを堪能する。
今日は部活動勧誘の日。
今こうして俺たちは各位置についてトラブルなどがないように警備をしている。
しかしまだ始まっていない。
だけれど俺らは早めに来てこうして配置へとついていたのだった。
授業は半日だけ行われあとは部活動勧誘のほうでつかわれる。
校舎内と外ではやることが異なっている。パーティはなかで、勧誘そのものは外で行われる。
警備員は俺だけで、他のやつらは中の警備へと当っている。
勧誘場所となる駐車場スペースにはまだ人気はない。
第一パーティーと勧誘を分ける理由が俺の頭の中ではまだ理解できていない。
自分の意志でその部活に入るのが当たり前のことだし大体パーティーとは言えど歓迎会のような物だろ。
そんなことやったって後でむさ苦しい勧誘の嵐を喰らうか、先にむさくるしい方に言ってあとで天国へと踏み入れるかの二択しかない。
でもスポーツ推薦の生徒はそういうのがないんだっけ。
仮眠しながら脳内で思考していると途端にざわめきが生じるのを感じた。
普段なら反射神経で目を見開くのだけれど、その反射神経が鈍ったのか、あるいはそのような癖がもう無くなったのか俺は目を瞑ったままその場に座っている。
今現在、どの部活が部員の過小で廃部寸前だとか聞いたことがない。
本来ならそのような情報は俊哉からもらうものだけれど聞く余地もなかった今回に至ってはあまり意味のあることではないような気がしてきた。
とは言えどここは私立。
廃部寸前の部活などがあるのは当然だと思うのだけれど、部員が多い部活の方が多い気がするんだが。
たとえば野球部。
甲子園に出場したのか、坊主頭らしき人物がちらほらとみられる。
多分この中の三人に一人が柔道部とかだろうな。
すると、校舎内からチャイムの音が響いた。
『新入生の皆さん、これより新入生歓迎パーティーを兼ねた部活動勧誘会を開きます。
みなさん、自分に合った部活を見つけ、更には自分の個性を他人に知ってもらう事ができる場でもあります。新入生だけでなく、勧誘する二年生三年生も頑張ってください』
そんなアナウンスがかかるのと同時に、俺の横------とは言っても校舎裏から出て来た多数の生徒------を地響きを鳴らすように新入生の元へと走っていった。
これは冷静に後ろから言った方が利口なやつだな。
前線の人たちはおそらく第一印象ガタ落ち。
ご愁傷様で。
そんなことで俺は遠目でどの部活が誰を勧誘しているのか見物する。
大してこれといったものは視られない。
ただ、処罰対象に引っかからないよう、ぎりぎりのところで勧誘している生徒もいる。
本当なら、ここで処罰対象として罰しておきたいのだけれど事項に書いてある通りのことがされていなければ警備員としては見逃すあるいはそれを予測したとしても次の手には映らない。
けれどそれはいくら事項であっても俺の信念に反することだ。
俺は次の一手を見逃さないように逐一チェックしなくてはならない。
だからと言って他の処罰も怠ってはいけない。
俺は勧誘で行き交う生徒たちを流し眼で見ながら先ほどから処罰の対象に引っかからない生半可な処罰紛いの勧誘をしている生徒たちを監視する。
俺の眼は半分しか開いていないけれどこれでも視力はいい方であるため細目でもよく見える。
勧誘側の生徒は三人、そして一年生の方は二人。
勧誘側の生徒の方は三人とも男子で道着を着ているため剣道部員なのだろう。
至って一年生側の方は全員が女子。
手には何枚ものビラを持っていることが分かる。
この光景は誰も気づいていない。
いや、気づかないのかもしれない。
部活勧誘であるため誰しもがどの部活も勧誘と成しているためそのような眼では見ることはない。
しかし、俺から見ればまるっきり悪質な手口。
傍から見ればナンパにしか見えない。
この場合で一番典型的な処罰対象は『非部活動所属生徒の意見を尊重せずに無理な勧誘を強いること』だ。
俺が推測する限り今現在、数十メートル先に起こっていることがそれなのかもしれない。
そして、俺はずっと最初の状態でいると五分。
また暖かい日差しによって眠気が襲ってくる。
耐えなければいけない事だけれどここで寝てしまえば何のために警備員とやっているのかみんなからなんと云われるのやら。
考えただけで吐き気がする。
しかしその途端。
俺の視界の前をよぎった生徒が通った瞬間、俺の一瞬の洞察力で奴らをとらえた。
知らない間に俺に距離を遠のけていたらしく、俺はそれと同時に立ちあがった。
なれた仕草で道着を着た生徒は新入生と連れて何処かへといった。
それを気にしない他の生徒。
しかし俺にとっては仕事の始まりである。
携帯を取出しある番号へとかける。
『どうしたんだ?』
十秒後、俺が電話をかけた人物、佐藤は少し驚き気味の声で第一声を発してきた。
「中の警備まだ足りるだろ?俺急用できたからお願いしたいんだけれど」
電話越しからは騒がしいからきっと盛り上がっているのだろう。
確かに体育館からはお祭り騒ぎの様な歓声や悲鳴が聞こえて来たのは分かっていた。
『は?別に中は足りるから大丈夫だけれど急用ってなんだよ』
理由を細かに言っている暇でもない。
けれどそれほど急ぐ理由でもないので簡潔に俺は急用の内容を述べた。
『なるほど、そういう訳なら田中にも言っておくよ』
「頼んだぞ」
俺はそれだけを言って電話を切った。
それから佐藤たちが来るのを待たずに俺は先ほどの道着を着た生徒たちが新入生の女の子を連れて行った校舎裏へと竹刀袋を肩に下げて走り出した。
校舎裏は正門の正反対の場所と、体育館に挟まれた通路の事を俺たちは校舎裏を言っている。
普段は告白の場として知らされているが、見た目からしてはよくドラマでありがちないじめのシーンにも見えてしまう。
しかしこの笹野川学園にはいじめといった卑劣な事は一切存在しない。
だけれど、いじめのようなものは多少はある。
カツアゲなどそのようなものはよくある。
しかし、最近になってはそのような事はなくなったのだった。
理由は生徒会長の絶対的な権力による制裁。
まあ、前会長が漆原先輩だったからそれなりの制裁は下せたのだろうな。
けれど今回の会長、安里壮也はどうなのだろうか。
俺にはよくわからない。
顔もいまいち覚えていないしどのような政策を取っているのかすら、情報は皆無である。
だからと言ってこのような事態になるのはある時はある。
みんな人間なのだからそれぐらいのことはあるだろう。
けれど世の中にはやっていい事とやってはいけない事くらいの区別はつくはずだ。
俺はそんなことを考えながら校舎裏へと立ち入った。
立ち入る寸前の方が正しい。
俺は壁に縋り付いて先ほどの生徒の会話に耳を澄ませる。
「だからさ、入らない?うちの剣道部強いしカッコいい先輩もたくさんいるよ」
たくさんいるという事はお前等も入っているという事になるのかよと突っ込みを入れたくなったけれどそんなことをしている暇ではない。
話はどんどん進んでいく。
「で・・・でも、私たち剣道なんてしたことないし」
二人の女子生徒の内の一人はそう答えた。
確かに高校からの剣道は難しいぞ。
素振りもなかなか大変だしルールを一応把握していないと後後大変だからな。
・・・ってなんで俺が否定理由を話すんだよ。
「確かにさ、でも初心者でも俺たちが身振り手振りおしえてやるから」
「そうそう、あ、でも部長にだけはそれを言わないでくれよ」
なんとも見てはいられない交渉。
身振り手振りとあの男子から言わせればあまりにも気色悪すぎる。
このまま話を聞き入ってしまおうかと思ったが、俺は今は警備員のみでいる。
だから仕事忠実に行分ければならない。
さもなければ・・・・・・・・
うん、まずそれはないから安心しておこう。
「ほら、チャンスは今しかないからさ」
「だから俺たちとやろうよ」
「で・・・でも」
男子生徒が女子生徒に手を差し伸べようとした瞬間。
男子生徒の手の甲に何かがふれた。
乾いた竹の音に反射的に手を引く男子生徒。
その先を見れば一目瞭然。
「はい、そこまで。剣道部員ですよね?これ以上強制的な勧誘をするのであるなら生徒会の名義で剣道部に減点しますけれどよろしいですか?」
ありふれた表情で俺は三人の男子生徒に聞いた。
それにたいしてポカンと口を開けただけの女子生徒に唖然とする男子生徒。
「な・・・なんだよ。出てきていきなり」
「ですから警備員です。生徒会よりもうした青春乙から来たものですが?」
挑発交じりの敬語に俺は得意げな顔をする。
「お前・・・・・俺たちには向かうとどうなるのか分かっているのか?」
「分かっているのはあなたたちの方ですよ?俺は今、生徒会の名義で警備員をやっているものですから。これ以上下手に手を出すとあなたたちは物凄き痛い目に遭いますよ」
「うう・・・・・・」
うろたえる男子生徒。
そして、俺を払いのけて一目散に校舎裏から逃げていった。
これでまあ一件落着かな。
活動報告みたいのあったらこの件は書いておいた方がいいのか・・・・
「あ、あのう」
「うん?」
声をかけられ振り向いたら先ほどの女子生徒二人が。
「さっきは助けてくれてありがとうございました」
深々と丁寧に礼をされてしまうけれどさすがにそこまでして助けたような記憶はしていない。
「気にすんな。俺は本当に生徒会の名義で警備をやっているだけだから」
「そうですか・・・・・・・・じゃあ、まだ何かおごらせてください!!それで借りはいいですよね?」
「うーん、ジュースか。いいね。分かった」
俺がそう答えると女子生徒二人はそそくさと帰っていってしまった。
とりあえず・・・・・・・・これでいいのかな。
さて、田中と佐藤に報告をしてから中の方へと行こうとするのかな。
俺は竹刀を袋に閉まってから、竹刀を使って大きな伸びをするのであった。




