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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第2部 第1章 進級と記憶とお嬢様
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第四話 適任

 二人の男性がとある病室にいた。

 カーテンが開けた窓から吹き付けていて揺れている。

 窓辺に飾られた蓮の花も生き生きとしていて、春の陽気にはピッタリであった。

 しかし、二人の男性の様子はそうでもない。

 むしろ覚束ないと言ってもいい位だ。

 主治医と話をし終え、傍らの男の娘である人がベッドで横になっている。

 更にもう一人の方は現実を受け止められないと言ってもいい表情をしている。

 綺麗で華奢その顔はどこからどうみてもお姫様と称してもいい。

 しかし、彼らがいくら話していても彼女は目を覚まさない。

 目が覚めない。

 「まさか・・・・・こんなことになるとは」

 ブラウンのコートを羽織り、横にいるこの男とは二十歳ばかり歳が違う男にいう。

 「幸い、命に別条がなかったことだけは安心だ」

 彼女は青の信号で表示されていた横断歩道に躍り出た際に事件当時居眠りをしていた男性が慌ててブレーキを踏んだものの、回避できず倒れて来た荷物が彼女の頭上に降り注いで来たのだ。

 彼女は多量の出血で入院。

 脳には何の異常もなかったというけれど一つだけ問題点があった。

 それは、・・・が戻らない事。

 人間の記憶する脳、大脳だか小脳だか分からないが、その部分が大きなダメージを喰らったと医者が言っている。

 いくら彼女が目を覚ましたとしても、その事態は回避せざるを得ない。

 「もし・・・・・目を覚ました時はどうするんですか?」

 震え立たせながら男は言葉を紡ぐ。

 「いくら無くそうが、蘭は私の娘だ。接し方を変えるなどありないだろ?」

 「ですよね・・・・・・・・・・・」

 「けれど、私なんかよりもあの子なら適任かもしれないな」

 あのこ。ベッドで寝ている彼女の親である男が言っている言葉は彼にでもわかる。

 適任、つまりはこの子を支えていける唯一の存在価値。

 「蓮司・・・・ですか」

 彼の言葉に男は静かにうなずく。

 彼女のよき理解者であり、どんな場面でも一緒にいるそんな頼れる人物。

 彼、瀬原蓮司の兄である瀬原隆司。 

 額に汗が流れおちてくる。

 「蓮司が適任・・・・・」

 「彼も気持ちは同じはずだ。この事を知ればそれなりのショックは大きいだろうけれどこれも試練の内と言っていいくらいだ」

 試練、それは彼女が目を覚ましてからの日常の事。

 一体どんな事が起きるかが誰も分からない。

 しかし、由々しき事態である可能性が高いともいえないし、低いともいえない。 

 だがそんな状況も覆せる人物をピックアップした時今はあれくらいだけれど。

 「確かに難しいですよ。蘭ちゃんの後先を考えないといけない状況になったらどうすればいいんですか?」

 「私たちの方で対処を取る」

 「よろしくお願いします」

 深々と丁寧にお辞儀をする。

 「じゃあ、私は仕事の方に戻る」

 男はそう言って病室から出ていってしまった。

 取り残された男は窓の景色を眺める。

 外は既に夕染めで、病院の外からはカラスの鳴き声で溢れていた。

 「蓮司が適任ね・・・・・・」

 時間はおそらくない。 

 彼、隆司はこうして陰ながらでしか見守ることしかできない事が何かと心外深く感じるのであった。

 






 

 

 

 

 

 新学期が始まってから、はや三日が過ぎた。

 一年生はまだ、慣れない学校生活で戸惑いもあり、おそらく友達ができた人なんて早々いないだろう。

 おれでさえ、まともに話すのに二か月はかかったくらいだからな。

 それでもまだ初心な方なのかもしれなかった。

 二年生も、新しいクラスに馴染めた人はどのぐらいいるのだろうか。

 ちなみに俺は、まともに話したくらいの人と言えば俊哉とか大野とか以下略。

 まあこれだけ中学校時代のメンバーが揃えば新しいクラスに馴染むのも相当時間かかると思うけれどこれはこれでなかなかいい気がする。

 かくして三年生は、部活だの、文化祭だの、今年最後の行事もあるわけで一番は受験といったところなのかもしれない。

 この学校は一応進学校だからそれなりの有名大学に入っている人もいる。

 まあ、生徒のほぼ半数が笹野川大学に入っているのだが。

 という事で、改めまして新学期開始三日目。

 恒例と言ってもいい自己紹介が、二年生でも行われクラスは和気藹々としている。

 中でも知っている人がいたけれど直接的ではない人が多く、間接的な面で知っている人が多い。

 まあ、俺が知っているだけで相手は知っているかは否かだけれど。

 ああ驚いたことと言えば、担任の先生だったな。

 「ほれ、瀬原。さっさと仕事せんか」

 何故よりにもよって一年の時も担任だったアゲセンなんだよ。 

 紹介が遅れたと思うけれど、俺のクラス、二年一組の担任は俺が一年の時と同じ担任だった上尾公夫先生。

 通称、アゲセン。

 この人、数学専科で生徒からはかなりの評判はいいんだけれどなぜか俺に対してはやけに絡みが多い。

 ちなみに三十代後半の既婚者。

 イベントごとが好きだって一年の時から知っていたわけだけれど、そのイベントの内容が卑劣なものだったらもう最悪。

 たとえば誰かが付き合ったこととか。

 その情報があらゆるところに流れ、知れ渡る。

 もちろん、ごくまれに教師の耳に入ってくることも有る。

 それがアゲセンに入ったら終わりだ。

 担任や、教担じゃない人にとってはあまり害することはないけれどこれが逆のパターンだったら尚更だ。

 現に第一の標的は俊哉だった。

 俊哉の場合、すごかった。

 俺もこいつと同じ数学の講座だったけれど、その話題に入ったら、なんと一対一マンツーマンの会談となった。

 ちなみにそれだけで数学の授業は終了するなどマイペースな人と言ってもいい。

 俺もその餌食の一人だけれど。

 そんなアゲセンが俺の担任に。

 これって・・・・・・運命なのか?

 「いやー、俺もまた瀬原の担任ができるとなるとうれしいなー。これが運命のいたずらっていう奴か?」

 うわ、共感しちまった。しかもアゲセンが運命のいたずらとか・・・・・・吐き気がする。

 「先生、運命とかっていう言葉使わないでくださいよ。性に合わないですよ」

 「照れるなって。まあ、運命の出会いは今の女房なんだけれどな」

 いたずらを出会いと解釈するのは少し違う気がする。

 「まあ、テストも近いしお前もいろいろと大変だと思うから頑張れよ」

 「・・・・・・」

 頑張れないなんて言えるわけないだろ。

 「課題もしっかりやれよー」と、相槌を最後に入れられアゲセンは俺の元から離れていった。

 正直これだけでもかなりの精神力と体力を消耗する。

 よくも俺は一年間こいつの生徒をやってきたな。

 とりあえず俺はため息交じりで部室へと向かうのであった。





 部室は今日も沈黙の場と化していた。

 これだけ集中のオーラがまとっていれば、入るにも入れない。

 「お前等・・・・何やってんだ?」

 「見て分からないの?部活動勧誘の警備員配置地図よ」

 それはご苦労な事でなんてスルーすると、賀川さんから怒りの鉄槌が食らう。なんてことは最初から分かっている。だからこそこうして素直に手伝わなければいけないのだ。

 他のメンバーもそれ関係の事で紙に向けてペンを走らせている。

 「蓮司、これ」

 俺は俊哉から一枚のプリントを割らされる。

 見てみると、校舎の配置図。

 俺が配られたのは外であり、プリントの右上に蓮司とカタカナで書かれていた。

 つまりこの校舎外が俺の警備位置だ。

 俊哉の隣に座り、ペンを握る。

 ここからどうすればいいのか、俊哉に聞こうと思ったものの、周りの雰囲気でそのような状況じゃないと悟ったうえで俺は俊哉のプリントを見る。

 まるでカンニングする生徒のように見えるけれどこれはテストではないので問題ない。

 なんだ、必要なものと、時間によっての配置をここに記入すればいいんだな。

 えっと、必要なものと言えば・・・・・・・・

 まず、連絡するものだけれどこれは携帯で十分だよな。

 ってかそもそも警備って何するんだよ。

 脳内で大まかな仕事を呼び出すけれど、何一つ出てこないので生徒手帳から生徒会事項を見ることにした。

 ちなみにうちの生徒手帳は何かと厚い。

 下手をすれば漫画本一冊くらいのページ数はあるかもしれない。

 なんて無駄な考えは置き、生徒会事項の部活動勧誘の欄を見る。

 ・・・・・・げっ、これまさか全部把握するのかよ。

 部活動勧誘の欄には、反則事項が起きた場合の対処にその処罰の対象。

 細かいなー。

 しかも改正がつい最近だし。

 何々、一つ目の処罰対象は、非部活動所属生徒の意見を尊重せずに無理な勧誘を押し付けた場合。

 二つ目は金銭的なやり取りでの勧誘(致し、スポーツ推薦による入学生徒の場合は後に対応措置がとり行われる)

 などなど、いろいろな事項が並べられていて個人的には警備する側も大変な気がする。

 しかもこのメンバーでだ。

 当日は風紀委員の方も出向くらしいけれど校舎外の方までは出向かないらしい。

 この学校の部活は、男女別含めて20余り。

 それなら、だだっ広いグランドでできるのではないかと思うけれどこれがそうもいかない。

 どうやら俊哉の情報によれば今年から生徒会の方で、部活勧誘をもっと有意義に一年生も楽しめるようにパーティ制にしたりしなかったり。

 そもそもパーティ制とはなんだよ。

 俊哉をペン先でちょんちょんとつつき、パーティ制について聞こうとしたらそれに書かれたプリントを顔面に当てられた。

 集中しているところに水を差すのは悪いと思うけれどもう少しやり方を考えてくれ。

 俺は顔面からプリントをひっぺ返し、内容に目を通す。

 どうやら、勧誘とは裏腹に(というよりも勧誘の方が裏腹だけれど)パーティが行われるらしい。

 実際のところ勧誘なんていらなくないか?

 とは思うけれど、前半後半に分かれてやるらしい。

 生徒会もいろいろイベントごとが好きなんだな。

 一通り読み終え、俺はプリントを参考に配置図にいろいろ書き込んでいく。

 


 ~一時間後~


 辺りはだいぶ薄暗くなっていく中、俺は静かにペンを置いた。

 「あー、やっと終わった」

 気分は漫画を描き終えた人だ。

 しかし実際は配置図に時間割表。

 「もうこんな仕事引き受けたくないわ」

 「じゃあ利華、お茶飲みに行くか?」

 何かを飲む仕草をしながら俊哉は聞く。

 「そうね、ゆっくりとお茶をしたいわ」

 そう言うと賀川は席を立ち、帰る準備をする。

 さて、俺もそろそろ帰ろうとするかな。

 俺も席を立ちあがり、荷物を持って部室を出た。

 外は既に暗くなっていて生徒の気配もない。

 俺は暗い夜道の中、とぼとぼと歩く。

 街灯も所々照らされていて幾分、歩きにくそうではなかった。

 帰路をたどっている途中、部活帰りの人に彼氏彼女とすれ違う。

 春だというのになぜか少しだけ肌寒い気がする。

 まだ冬の余韻が残っているのかもしれないけれどいずれは春一色となる。

 いずれは・・・・・そうなるのだから。

 なんだか時が過ぎるのはつらいようでいいような、そんな感覚だった。

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