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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第2部 第1章 進級と記憶とお嬢様
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第三話 予算案

 三日後、俺は放課後に青春乙の拠点となる第三理科室にいた。

 今年度初めてこの部室に立ち寄ったものの、俺はあの日以降、ここにきていない。

 来れば鈴川との思い出が失われてしまいそうだからという信念というか何というか・・・・

 会長が不在の現在、この部活がすることはあるのだろうか。

 青春を掴むために己を鍛える会。

 もといは己が乙なわけだけれどそんなことはどうだっていい。

 活動内容がいまいち定まっていないこの部活がすることと言ったらただ喋るだけ。 

 それが青春を掴むための練習、あるいは作法なのか俺には分からない。

 物心がついた鈴川によってつくられたこの部活はどことなく自由気ままであったのは間違いないだろう。

 鈴川がいたころまではの話であるけれど。

 普段使われていないこの第三理科室は、職権乱用によって獲得したものだから生徒や先生はあまり入ってこない。

 ここに用がある限り。

 先ほども言った通り、会長兼部長兼顧問である鈴川が不在の今、俺たちはこうして目の前にある課題をずっと見つめていた。

 「なあ、これは電卓で計算していいんだよな?」

 聞いてきたのはこの春から同じクラスになった悪友の林俊哉君。

 「算数のテストじゃないからいいんじゃねえのか?」

 俺は呆れた顔をしながら答える。

 すこし茶色がかっている髪の毛にいかにも問題児であるような顔つき。

 俺はこいつを陰ながらチャラ男と称しているけれど、本人はその自覚は皆無と言っていいほど。

 しかし情報系にしては抜群の網羅数を誇る。

 ランキング系統を端から端まで調べ上げ、昼休みだの朝だの放課後に俺に教えてくる何とも便利な情報屋だと俺は思っている。

 何よりも、こいつには彼女がいる。

 名前は賀川利華。

 しかもとびっきりの美人。

 校内で指折りでしか数えられない子が俊哉の彼女。

 ちなみに今も告白玉砕人数を更新中。

 懲りない奴も懲りないけれど、まさか入学したての一年が数十人も告白してくるなんて思わなかった。

 おそらくだけれど、賀川の弟妹がこの学園に入学してきたっていうのを機に告白なんて無謀なことを試みたんだろう。

 ちなみに俊哉は自分たちが付き合っていることをばらそうとはしないつもりでいるそうだ。

 とは言っても二年三年は既に知っている。

 文化祭であんな大衆の前であんなリスクの高い告白をしたのだから、みんなの記憶もかなり鮮明な・・・・はず。

 俺は鈴川にキスされたことが鮮明だったけれどな。

 けれど彼女は今ここにはいない。

 「これを今日までに仕上げるんでしょ?誰か一年間の計画とか見通せる人いないの?」

 賀川はいかにも人任せする気でいるような口ぶりをする。

 にしてもこいつも鬼だな。

 「とりあえず一年間の計画から立てるとしようぜ」

 「そうするしかねえよな」

 一部員である大野の意見に田中と佐藤が頷いた。

 ちなみに大野君こと大野大地君は半リア充である。

 とりあえず学内三位の春富瑠奈からチョコを貰った時点であいつの死は確実と言ってもいいかもしれない。

 たぶんの話だけれど。

 ・・・・・話がそれた。

 「それで、どうするのよ」

 机に置かれた数枚のプリントに掌をバンと置き皆に訴える。

 ちなみにプリントの内容は今年度の部活動予算案の記載。

 ようは必要で与えられた部費でどのような活動をするのか、支出など求めて、予想残高を生徒会の方で今机に置かれているプリントに書くという仕事。

 「でも思えばこの部活って文化系なのか?」

 「からだとか動かしていないから文化系とかじゃないの?」

 そんなことはどうでもいいと思うけれど、部費を見れば一目瞭然のはずだ。

 運動系の部活は遠征代など、部費で賄われるものが多いため、文化系の部活よりも、運動系の部活の方が部費が多いのである。

 ちなみに青春乙の部費は最低の150000という数字。

 何とも低い・・・・としか言いようがない。

 どうする、これで今年の夏合宿しようなんて誰かが言い出したりしたら・・・・・・

 俺はしそうな人物を脳内でピックアップする。

 まずは俊哉。こいつは決定事項だ。

 それに賀川、春富と行ったところだな。

 とりあえずばれない様に視線を奴らに向ける。

 「でもこの十五万どう使えばいいんだよ」

 「確かに使いづらいわね・・・・・・・・・・・・」 

 いっその事川に捨てればとか言いたかったけれどあいつらもあいつらでかなり真面目な話ししていたし。

 「これ終わってもまだ帰れないからなー」

 突然叫びだす田中。

 何処の先生だよ。

 「じゃあ帰るか―」

 そこ刃向ってどうするんだよ。

 「部活勧誘期間のことについてもあるのになんでこんなめんどくさい事するんかな」 

 部活動勧誘期間。

 俗に言う部活動の経験みたいなもので

 新入生とどんどん勧誘していくイベント。

 これが案外盛り上がらなそうではあるけれど、これがまたすごい。

 何がすごいのかというと各部活の勧誘の仕方。

 俺も去年巻き込まれたことも有ったけれどもう凄いとしか言いようがなかったな。

 大学のサークル勧誘みたいに色々と人が波のように押し寄せてくる。 

 確かにここは大学と高校が一貫のようなところだ。大学に影響されて、なんて言う事もあり得なくはない。

 物凄いのはアメフト部に柔道部。

 あれと遭遇したら終わりと思った方がいい。

 新入生だと判断されたら背中を見せずに逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!

 なんて言う風に当時友達から言われた記憶がある。

 でもそれが今では校風で規制されてその部活の入部規定人数が減少するだとか。

 そもそもどの部活に入ろうが人数制限なんてなくないか? 

 「生徒会の方から頼まれたんでしょ?」

 「まあ、生徒会長が生徒会長でどうせ青春乙は勧誘なんてしないでしょって言われたから」

 生徒会長、確か名前は忘れたけれど剣道部の主将とか・・・・・・・

 「ってか会長直々に言われたのか?」

 ポテチをバリバリ食いながら俊哉は賀川に聞く。

 とりあえずここでスナック菓子は食うな。

 「私一応生徒会役員だから」

 一応・・・・・って籍を置いているだけみたいで何かと怖いな。

 「まあ、会長直々から言われるとやるしかないか」

 「その前に予算案をどうにかしなきゃいけないでしょ?」

 その前にお前はポテチを食うのをやめろ。

 予算案に部活動勧誘の係とこの部活もいろいろと忙しいものだ。

 予算案などは全員でやるとして、部活動勧誘の方は賀川中心になるな。

 でもこうしていると、なんだか鈴川の存在が薄れてきているようで寂しいような・・・・・・

 しかし、鈴川がいつも座っている席はちゃんと残されている。

 そう、まだ鈴川は意識がないだけ。

 いつかここに戻ってくるとみんな信じているはずだ。

 「おい、蓮司!!」

 「っ!?」

 ぼうっとしていたせいか、俺は大野に声をかけられてハッとなった。

 「どうしたんだよ。お前にしては珍しいじゃん」

 「いや、ちょっと考え事してて」

 鈴川の事。なんて言えるはずもない。

 「しっかりしろよ、お前にもたっぷり仕事あるんだから」

 「なっ!?お前ら均等に分けろよ」

 考えれば考えるほどつらくなる。

 だから、今はちょっとだけ・・・・・考えるのはやめようかなと思うのだった。









 バイト先のコンビニへと今日は早く着いた。

 しかし、どの時間帯に来ても同じ。

 店長は仕事をしない、矢幡さんをいつもの持ち場。早見さんはいつもの感じ。四十川さんは・・・・・・言うのは伏せておこう。

 とりあえず俺のバイト先は何かと不思議な地。

 下手をすれば警察の手に負えない無法地帯となる・・・・わけない。

 そんなかんなで俺は路地裏の入口から事務室へと入る。

 「こんにちわー」

 そっけない挨拶をして部屋に入ると、事務室には店長一人だけだった。

 しかも机に向かってパソコンをしている。

 そういや最近ソリティアに嵌ったとか言っていたっけ。

 とりあえず仕事をしてほしいものなんだけれど・・・・・・・・・・

 店長の仕事をするというのは着替えて帰ると事なのだろうか。

 もしそうだったらぶん殴りたい。

 「店長、今日は早く来たんでパンの仕入れ早くやりますからね」

 「そうそう、今月から桜系の食べ物が入るからそっちの方もよろしくね」

 は?

 ちょうど俺が更衣室へと向かおうとしていたところだ。

 店長が店の品物について喋った。

 しかも倉庫へと確認せずに。

 一体どうしたことなのか俺も頭の中がチンプンカンプンだった。

 「あのう、店長?店長ですよね?」

 「瀬原君。店長は店長だよ。店の品物の在庫位頭に入っているよ」

 ・・・・・・・エイリアンにでも乗っ取られたのか。

 このコンビニを拠点としようとしているのか。

 違う意味で怖くなった俺は制服に袖を通して急いで表へと出る。

 「矢幡さん矢幡さん」

 「おっ、瀬原君じゃん。今日は早いね」

 「ありがとうございます。・・・・って、そうじゃないです。店長どうしたんですか?」

 「あ?店長か?うーん・・・・・・・そういや変わったな。店の在庫の状況、いつもなら聞いても見てくれば分かるよって言われるんだけれど今日に限って端から端まで言ってくれて適当かと思ってみてみたら全部あっていたんだよね」

 ・・・・・店長恐るべし!!

 ってかいつも店の在庫の状況知らなかったんかよーーーーーーー!!

 「それがどうしたの?」

 「いや、俺に関してはそれだけです。ってかエイリアンにでも乗り移られたんでしょうかね」

 「うーん、ユーモアなセンスは認めるけれどそこはやはりプレデターの方がいいんじゃないのかな?かっこいいし」

 それはどっちでもいいしカッコいいとかかんけえねー!!

 ユーモアでもなんでもないよね?え?違う!?

 「でも心当たりがあるとしたらあるんだけれど」

 「なんですか?」

 「ほら、瀬原君の彼女さん?この前事故に遭っちゃって数週間バイト来なかったし店長凄い落ち込んでいたんだよね。その彼女さんも店長とは顔合わせしているらしかったしそれで自分も頑張らなきゃなって思ったんじゃないの?」

 確かに俺がバイトを数週間休んだ時の理由を話したら店長は鈴川の事を知っているような感じだったのは前もある。

 という事はやはりそうなのか・・・・・・・・・・・

 「分かりました。とりあえず店長とは少し話しておきます」

 「そうしなよ。事故に遭っちゃった彼女さんとの将来の話も交えてさ」

 「何度も言いますが、彼女ではないです」

 とりあえずシフトが終わったら、店長と一緒に夕飯を食べに行こうかなと俺は軽い足取りで仕事をしていった。

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