第八話 兄、女連れてくる
自宅療養はやはり暇。
と、テレビでもしインタビューされてこんな言葉を言ったら間違いなく画面の端に『個人差があります』とテロップが出るだろう。
いや、そんなことはどうだっていい。
たった一日の病院生活からおさらばして俺は今現在、こうして自宅療養という形を取っている。
そんなわけで今年、今学期最後の週は学校に行って早退して以降、行っていない。
単位が少なくて留年という事はない。
うちの学校はそう言ったものは三学期にまとめてとり行うらしく、二学期でいくら1を取ろうが、学期末で1を取らなければよい話なのである。
しかし休み明けにすぐテストがあるためその埋め合わせは自分で何とかとり行わければいけない。
聞けば俊哉もなんとか冬休みの地獄の補習には招待されなかったと聞いて俺は少し安心した。
あれば俺まで巻き添いを・・・・・年越しで補習なんてこともあり得そうなくらいだからな。
という事で本日12月24日。今宵も晴天なりという訳で俺はベッドなうです。
正直言って病院で生活している方が暇がなくて個人的にはよかったのにやっぱり自宅に来ればそれなりにひまであり漫画を読もうとしていても最新刊の漫画も買わずじまいでいる。
昼はなんとか俊哉が勝ってきてくれたものをどうにか凌ぐことができたけれどさすがに喉の渇きはしのげない。
脱水症状を起こす可能性もあると言われたからアクエリアスを何本か脇に置いておいたけれどこれがものの見事に数時間ですべて完売。
下へ水を飲みに行こうとしても体が重くて立てる状態にならない。
正直介護の手付けが欲しいところだが、唯一の肉親である兄さんが帰ってくるのは今日の夕方ごろ。
今の時間帯ではまだ空港にもついていないだろう。
なんか暇だなー。
学校も今日は終業式だしみんな景気づけでカラオケとか行っていそうだけれど明日はクリスマスパーティーだったっけ。
そう考えれば料理組は特に大変そうだなー。見るからにできなさそうな連中しかいなかったし。
文化祭の事をどうにか生かしてくれれば師匠としてもなんとか安心できるけれど。
他に何の係があったっけ?クリスマスツリー係とかあったような覚えがあるな。
あと一発芸だ。
正直あれはやりたくない代物。だって一発芸だぞ?やりたいか?やりたくないだろ!!
しまった、熱が上がっちまう。
でもこれだと確かに人手が足りなさそうだな。明日は午前中から準備しそうだし。
俊哉にも連絡しておくか。一応行けそうだったら無理強いしてでも来るって。
携帯を取出し俊哉に簡単な文面でメールを送った。
あいつの事だからすぐ返すだろう。
ピロピロリンピロピロリン
ほら来た。
再び携帯を開くと俊哉から。
【件名:RE明日】
【来る来ないも俺はお前の判断で任せるけれど来るなら空気読めよ。
あんまいい時間帯じゃない時に着たらそれでこそ追い出されるからよ。
P・S お前の通知表、9が3つあるってどういうことだよ】
確かに時間帯とか把握したうえで参上しなきゃ帰って家に帰されるけど・・・・・・・
なんで俺の通知表の評定知っているんだよ。
ってか嫌み?嫌みなのか?
すかさず俺は返信する。
そしてさっきと同じ着信音が響き渡る。
【件名:RE RE明日】
【鈴川が見ていたから?】
何故に疑問形なんだよ。
おかしいだろ。
ってか鈴川も見ていたのかよ!!
休み明け学校に来ていて掲示板に俺の評定が張り出されていたらどうなっているんだろう。
まず猥褻物陳列罪の容疑で鈴川が訴えられるけれど何故か被害者である俺が告訴され裁判所行。
で、あいつの口からしてもいない事を淡々と述べれられ、重罪の罪で追われる。
・・・・・どんな新年の幕開けだよ。
とりあえずおみくじはひかないでおこう。大が3つ出てきて凶が入っていたら怖い。
むしろ吉でも怖いけれど。
「そういえばだれがその通知表届に来るんだよ」
俺はその事を口にしてメールで送る。
俊哉が届けるのならば近くのコンビニで・・・って言っても俺のバイト先から飲み物を取りに行ってきてほしいのだが。
ピロピロリンピロピロリンピロピロリン
【件名:RE RE RE RE RE明日】
【利華と学校行って準備があるから無理。ってか届けに来るの鈴川だし】
なにーーーーーーーーーーーー!!
よりにもよってあいつが来るのかよ。
なんでだよ。おかしいだろ。
ああ、あいつには俺のパジャマ姿を見せたくない。
こんな・・・・・・・・・・熊柄のパジャマなんて。
高校生にもなってクマ柄のパジャマはありえねえんじゃないかって?はっ、着ている身にもなれ。
これあったけえんだぞ!!毛布でもふもふしてんだぜ。
この温もり感を知らないものはいつか凍死するな。
ピンポーン。
突然チャイムが鳴った。
脳内突っ込みをしたのに気付かなったけど誰なんだよ。
まさか・・・・・鈴川か。
携帯で聞こうとしたけれどそんなする勇気にはなれない。
とりあえず俺は布団から出て思い足取りで玄関へと向かう。
階段一段一段下りるのも辛い。ヒアルロン酸なくなったお年寄りな気分だ。
骨粗鬆症になった気分だけれどさすがに両手が使える。俺は手すりにつかまってスムーズに階段を下りる。
うう、なんか扉を開けるのが躊躇われるのは何故だ。
この扉の向こうに鈴川がいたらどうしようか。
状態が良くないのにもかかわらずダッシュしてあとから悪化するのを覚悟するか、潔く通知表を受け取るか。
・・・・・・どちらも後後危ない選択肢だという事には変わりはない。
ええい!!こうなればありのまま!!
と、ドアノブに手をひこうとした瞬間。
あれ?人影が2つも。
しかも一人は男の人の身長だ。あれで女という事はまずない。
だって着ているものも男のばかり。
まさか男装している女子?背まで男紛いなのか?
それにもう一人は女性という事は分かる。
しかし鈴川じゃない。
鈴川ならいちいち着替えてこっちにくるような奴じゃない。
あいつの事だから夏休み同様、スーツケースを持ってくるに違いない。
「あれ?居ないんかやー。まさかもう脱走?」
何処かで聞いたことのある声がドアの向こうから聞こえてくる。
「そんなことないでしょ。こんな寒い日にどこかに出かけるような馬鹿な弟じゃないでしょ?」
もう片方は聞き覚えのない声だけれど馬鹿な弟ってなんだよ。馬鹿なって。
失礼なやつだなと思うけれど・・・・・弟?
ってことはあれは。
俺はそっと扉を開ける。
そして隙間から少しだけ顔を出す。
やっぱり・・・・・
「あれ、いるじゃん」
「ほんとだ」
なにツチノコ見つけた様な顔は。
俺は希少動物かよ。
「どうしたんだよ」
いや、それはこっちのセリフなんですけれど。
「中入んないのかよ。彼女さん?にこんなところで立たせてないでさっさと入らせればいいのに」
「おいおい、疑問形でしかももう勘ぐられているのかよ。しょうがねえなぁ」
と渡されたのが緑色の冊子。
どこかで見たことのあるそれは紛れもなく通知表。
「なんで兄さんが持っているんだよ」
俺の言った通りに中に入り靴を脱ぎ、ロッカーにしまっている兄さんに聞く。
「なんでって、蘭ちゃんに渡されたから。たまたま喫茶店にいたからさ」
あいつまた一人でお茶しているんかよ。
でも喫茶店て確か空港から逆方向じゃなかったけ?
「ああ、たまたまこいつと街をぶらぶらしていたんだよ。
あ、ちなみにこいつは俺の彼女で鈴川椿」
鈴川?聞いたことある名字だけれど敢えて伏せておこうかな。同じ苗字なんてどこらにいっぱいあるわけだし。
「あ、弟の瀬原蓮司です。さようですが、今体調を崩しているんでもう一眠りさせていただきます」
「お前、過労なんだって?」
自室へ戻ろうとしていた俺は一歩踏み出してその場に踏みとどまった。
なんで知っているのか、俺は聞かずともわかっている。
鈴川か。
「何して過労になったんだ?」
「ちょっと勉強のしすぎで」
とりあえず適当な嘘をついてみた。
そうすれば簡単で済まされることだと思っていたから。
「勉強のしすぎで過労になる奴なんて聞いたことねえぞしかもこの時期テストなんてねえだろ?なんで今更勉強なんだよ」
そりゃあそうだ。勉強もしていない。する必要がない。
おそらく兄さんは気づいているかもしれないが敢えて気づかないふりをしているだけ。
俺がバイトをしていたことは多分、他の誰かから聞いている。
そして鈴川にはばれていない。
「バイト・・・・・だよ」
「はっはー、バイトね」
なんだよ。その顔は。
いちいちむかつきそうな顔をしているけれどよくこんなんでアメリカに行けたなと思う。
「まあ、お前が何考えているか分からないけれど一応蘭ちゃんからの伝言だ。明日は絶対外出するな。・・・・・っていうのは嘘だけれどもしお前が来るようなら倒れるのはやめておけよ。
俺病院の匂いあんまり好きじゃないから」
「それは単なる個人的嗜好だろ。たぶん俺が無理強いしてまでも来ることは全員分かっている。
そこまでも覚悟を持っていなければ行く意味がない」
「まあ、明日はショッピングにでも行く予定だし。デパート内じゃ携帯は無理だからな」
「え?デパートってあそこの?」
あそこの。というのは先日俺が鈴川のプレゼント用に確保してもらったネックレスが売っている店舗があるデパートだ。
ちょうど資金もあるから明日あたり買いに行きたいところだった。
「というわけだからお願いできますか?」
何故だか敬語になる。
こう言うときの自分って案外惨めだなって思っちまう。
「別にいいぞ。なあ?」
「もちろん」
兄さんの彼女、椿さんもうれしそうにうなずく。
「じゃあ、俺もう一眠りしてくる」
そう言って俺は階段を上る。
これじゃあ明日の朝も倦怠感に包まれたまま起きるだろうな。
その瀬原の後姿を見送りながら隆司は言う。
「やっぱりあほな弟だな」
「あら、可愛いじゃない」
「まあ、いずれは鈴川家の跡取り・・・・っていうのはないか」
「あら、蘭ちゃんにはお似合いの人じゃない」
どうだか。と欠伸をかきつつ隆司はリビングへと入っていった。
 




