第七話 サラダじゃなくて肉がいいのに・・・・
まさに予想通り。と言ったところか、鈴川がコンビニで買ってきたこれの夕食はサラダにおにぎり二つという組み合わせ。
いや、まじめにサラダだけかと思っていたけれどおにぎりつけてきてくれたのは嬉しい。
でも肉は・・・・要望通りにはいかないわけですね。
せめて唐揚げとか欲しかった。
あたりもすっかり暗くなり、面会時間もそろそろ終わるころで俊哉たちは帰宅し鈴川はぎりぎりまで俺の面倒を見ることに。
なんかこうしてみていると病気になった旦那を介護する奥さんていう風に絵みたいな感じになるな。
末期がんで余命三か月と宣告された旦那に一生の思い出を作ってやりたいと某テーマパークに連れていったり一生に一度の思い出を作っていくという映画があったのを思い出した。
確かあの映画の最後は旦那さんが死んじゃって遺骨とか遺品とか全て墓に埋めたんだっけ。
あれ小っちゃい頃に見た話だからあまり内容は覚えていないや。
なんてことを思い出しつつ、俺はサラダを虚しくフォークで弄る。
シャキシャキとキャベツがフォークに突き刺さる音が響くだけ。
ああ、なんか虚しいな。
熱はだいぶ引いたみたいけれどまだ頭痛なのどの痛みなどが残る。この症状であと一週間安静かよ。
クリスマスパーティーまで何とかギリギリの状態でいたいな。
多分、さっきの俊哉との会話を鈴川が聞いていたなら強制的に俺を集中治療室に運びこんでいたな。いやいや、間違いなくそうだよ。
いくら毒舌で悪魔で性格が人前では捻くれている奴だけれど同じ人間だ。そういう感情もある。
しかし・・・・・・生々しい味しかしないのが難点だな。
ドレッシングも味が薄すぎる。イタリアンどころか市販のイタリアンのドレッシングに水で薄めたようにしか感じられない。
しかしそんな文句を言っていては買ってきた人に対しの報いがないと思われる。
という訳で律儀に俺はサラダを全て口へと入れる。
シャリシャリと音を立てていたのが次第にもぐもぐと柔らかな音へと変化していく。
口をリスみたいにいっぱいにした状態で鈴川を見ると、首がやじろべえみたいにかっくんかっくんしていた。
いつからいたのか知らないけれど相当疲れたんだな。俺の看病で。
これで自宅療養って言ったら俺ん家まですっ飛んで間で看病しに来るんかな。
そう思うと笑えてきそうだ。
口に残った野菜は噛み切らずそのまま飲み込む。キャベツの味がドレッシングと混ざって口の中に広がる。
おにぎりを食べようと思ったけれど封から出した寸前で止め再び袋に入れる。
気が付けば鈴川は寝ていた。
「ははっ、うっかり寝顔なんか見せやがって」
そういえばこいつの寝顔を見たのは何回目だろう。
最初が確か・・・・・・・・屋上からこいつが降ってきた時だっけ?
あれもあれでこいつのところなんて微塵にも思っていなかったから寝顔なんて見ても何も思わなかったな。
ってか鈴川って学校一モテる美女で通っていたんだっけ?
まあ誰かさんが変な噂を流したりしなければ俺は毎日半殺しにされる運命でいるんだけれどな。
こいつともいろいろあったよな。
初めての出会いが屋上でその後が保健室で意味不な行動に出る鈴川。
それから一緒に出掛けたりしたな。浴衣買ったり水着を買ったり。
そして兄さんと鈴川家に関係を持っていた事を知りこいつとの関わりも深くなる。
夏休みには父親とけんかして家出して俺ん家に泊まりに来ては雷に怯えて仕舞いには俺と一緒に寝る鈴川。
あいつらしくない一面が分かったのと同時に楽しいことも有ったな。
誘拐された鈴川を取り戻すべく廃墟と化した東京タワーに乗り込んで救出する。
文化祭ではまさかまさかの後夜祭で一目のつかない場面を見計らって俺に不意打ちのキスを。
そしてクリスマスパーティー。
そういや今まで俺が体験してきた日常って全部鈴川絡みじゃねかよ。
なんか次第にあいつが全てをうまく手回ししている黒幕。なんて設定だったら笑っちまう。
・・・・・・・・なわけねえよな?
それでも鈴川が今でもスースと寝息を立てて寝ている。
この顔を知るものが俺以外の男子以外どれだけいるのか。
なんてことを言ったらストーキングをしそうな人が続出したら濡れ衣を着せられるのは俺だ。
「・・・・・んっ」
「げっ・・・・」
顎を引いて寝ていた鈴川の体勢が変わり、鎖骨が露になる形になる。
別に俺は鎖骨フェチとかそういうものではない。けれどこういう女子の鎖骨を御目にかかった場合なんかドキッとするのが普通そうじゃないのか?
もちろん俺は後者だ。こんなんでドキッとしないわけがない。
どうにか目を背けたくても背ける気になれない。
うーん。これは宿命なのかはたまた運が悪いのかいいだけなのか・・・・・・・・
わからない事だな。
とりあえず時間が時間だ。そろそろ鈴川を返さないといけない時間になる。
「おい、鈴川!!起きろ!!」
いくら声をかけても起きない。
まあ、自分ちの病院っていうならあとで身内の人に送り届けてもらえればいい気がする。
こんな気持ちよく寝息を立てていちゃ起こす身にもなってほしいんだけれど。
はあ、どうするか。
今でも置きそうで起きない状態のなかこの後どうするかだ。
俺に委ねられた選択肢は4つ。
1、起こしてみるものの起きないのでそのまま放置
2、起こそうと試みるものの起こしたら悪いと思うので放置
3、起こそうと見せかけて起こさずにいて放置
4、とりあえず放置
考える間もない。全部だ!!
要は放置。放置しかないのだ。
という訳で看護師さんとか来るまで待っていよう。
あと三十分で面会時間は終了であるから看護師さんもまわっているころだろう。その頃になればどうにか鈴川を引き取ってくれるはず。
それまで鈴川の寝顔でも鑑賞しているか。
そんな風にしていたら突然鈴川が寝言を呟いた。
「あなたは・・・・私が守るから」
「え・・・・・?」
今なんて言った?
私が守る?誰を守るんだよ。
その前にも何回ったように聞こえたんだけれど聞き取れなかった。
不思議だな。
守るって・・・・・まさかな。
思い込みすぎだ。いくらなんてもそれは・・・・・・・・それは、ないはずだ。
どう考えてもそんなことはありえない。
あの時にかけてもらった言葉とは・・・・・単なる偶然の産物。
そう、偶然だ。
「考えすぎかな」
鈴川に向かって呟くと病室の入口の引き戸がスッと開いた。
中から看護婦さんが1人、中に入ってきた。
「あらあら、お嬢様寝ているんですね」
「はい、つい十分前ですけれど」
「このまま起こすのもあれですから院長先生の方から事情は説明しておきます」
「あ、わかりました」
やっぱりこうなる始末か。
けれどこれでもし鈴川の寝起きが悪かったとなればどうなっていたんだろう。
想像できないわけだ。
けれど俺はこれでぐっすり眠ることができる。
さて、明日からどうった生活になるのか・・・・・・・
◇
十二月二十四日金曜日
今日は私立笹野川学園の二学期終業式である。
二学期終業式となるとその翌日から冬休み兼年末年始休業と入る。
この間、先日のテストで赤点を取ったものやテストの出来がよくなかった人は長期休暇恒例の補習がある。
鈴川自身、成績は毎回トップテンには入るくらいの学力はあり、時通り蓮司に教えたりする時もある。
さすがに他の男子がいる前では教えてはいないが。
とりあえず鈴川にとってこの終業式は少しさびしいものであった。
寒い体育館の中、校長先生の長い憂さ話を恭しくスルーし明日行われるクリスマス会について考える。
蓮司が入院してその翌日からは自宅療養となり病院に行く必要はなくなった。
だからと言っていまだ病弱でいる彼の家に押し入ることも帰ってダメだ。彼女の信念に反する行為ともいえる。
明日のパーティーには彼は来れるのだろうか。それが彼女の心配なことだった。
別にクリスマスパーティが出来なくても彼の健康が第一にと思っているけれどこのクリスマスパーティは何かと特別なものだった。
彼が彼女へのプレゼントを渡すという期待。
淡い期待であると思うけれど彼女にとってプレゼントをもらうという事は今まで出も身内内でしかなかった。
しかしそれ以外の人から。ましてや気になっている人だと尚更になる。
そんな彼女の期待は時間が経つにつれてどんどん大きくなっていくのである。
教頭先生の終わりの言葉が終わり、生徒がどんどん体育館から退場していく。
鈴川も利華や瑠奈と合流して教室へと戻る。
彼女たちは鈴川自身、頼りになる存在。
ともに中学校時代に知り合った中であるためか高校でも意気投合としている。ただ鈴川としてはただの知り合った仲ではいたくはない。これからもずっと仲良くしていきたい仲と思っているはずだ。
それは彼女たちも同じことなのかもしれない。
ただそれだけが彼女の願いであって彼女の夢だから。
鈴川蘭は喫茶店へと入った。
今日は一人でお茶したい気分であったためいつも行きつけの喫茶店へと入る。
そこの店長は鈴川の祖父と知り合いなのか鈴川もよく顔を知っている人である。
いつもの席に座りオーダーを取ってそれまでの間、窓の外を眺めていた。
行く人行く人がクリスマスに向かっている気がする。
なんだかその光景を見ているだけで胸が苦しくなりそうなのである。
「あれ?蘭ちゃん?」
突然声をかけられその方へと向くと見覚えのある人物が・・・・・二名いた。
どちらもよく知っている人物だった。
「隆司さんに・・・・・・・椿姉さん?」
「久しぶりね。蘭ちゃん」
蘭の前に突如現れた人物は、蓮司の兄で蓮司の唯一の肉親である隆司。
そして隆司の腕に絡んできている女性は鈴川の父親の弟の娘にあたる人・・・・いわば従姉にあたる姉の鈴川椿である。
確か瀬原君のお兄さんはアメリカに留学して、椿姉さんは確か鈴川家が経営している会社の業務部長をやっていたような・・・・
そんな二人に接点などあるはずもないけれど・・・・・・
「ここいいかしら?」
「どうぞ。お構いなく」
「で、何か聞きたいことは?」
お冷が来るのと同時に隆司は注文をし鈴川に話しかける。
それに続いて椿も何かを注文した。
しかし普通は逆だと思うんだけれど鈴川にもちょうど聞きたいことがあったので聞くことにした。
「お二人は、付き合っているんですか?」
「あら、あなたにして意外にストレートな質問でくるのね。そうよ、私たちは付き合っている・・・・・というよりも結婚も決まっているわ」
「え・・・・・」
驚愕だった。付き合っていたのは分かるんだけれどまさかで結婚が決まっていたなんて。
「あ、この度はおめでとうございます」
うまく舌が回らない。焦りなのか。はたまたこの局面に初めて立ったのか。いや、過去にそんなことは一つも当てはまらない。こういった局面は当日に怒った事しかないのだから。
しかし、彼女としては想定外のミスだった。まさかこんなところでなんて思いもしなかっただろう。
「ふふふ、やっぱり蘭らしいわね」
「からかうのは止してくださいよ。それより今日はどうしたんですか?」
「ああ、結婚のことを君のお父さんに知らせにね。さっきまで行ってきたんだ」
そうですか。と小さくうつむく。
父親と隆司はそれなりの仲でもある。彼を海外留学を推薦したのは彼の父親だ。理事長である鈴川の祖父によるものでない。
だとしたらそれくらいの事は当然の弁えなのかもしれない。だって瀬原君とは違って隆司さんは頭もいいし顔もいい。
けれど瀬原とは何かが違う事は彼女も感覚では分かっている。
「ちなみにこの後家に戻ろうと思っている」
やっぱり・・・・と心の中で呟く。
「瀬原君。なんか過労で倒れたらしいです」
「過労?一体何したら過労で倒れるんだよ。面白い奴だな」
ケラケラと笑う隆司。それに対し椿が肘で小突く。
「ちょっと、大事な弟なんでしょ?すこしは心配しなさいよ」
「ははははは・・・・わりいわりい。で、蓮司は今家?」
その質問に鈴川は首を縦に振る。
「まあ、あいつのことだ。明日クリスマス会開くんだって?多分蓮司の事だから参加すると思うからその時はよろしくね」
よろしくお願いされてしまった。まあ、蓮司が来るのはおそらくクラス全員把握済みだろうけれど。
「とりあえずよろしく言っておくわ」
「よろしくお願いします」
きっと彼の事だから漫画でもなんでも読んでいるのだろう。
困った馬鹿だ事で。
夜メールでも送ってやろうかなとつくづく思う鈴川蘭であった。




