友好的マジョリティー
出る杭は打たれる。
そんなことわざがあるように、集団の中で、飛び抜けて何かが出来る奴であったり、変な奴であったりすると、大抵避けられたり虐められたりするものなのだ。学校という、狭い世界の中では。
だが、私はまだまだ分かっちゃいなかったらしい。異質すぎる奴は、むしろ人気が出るということを。今日一つ、学んだ。
「お前すげぇなぁ!」
「僕は少しも凄いなんてことはないよ」
「いやお前やっぱすげぇよ!」
はいはい、凄いんですね。分かります。そんな言葉を心の中で呟く午後1時。お昼である。
まぁ、今日はしーちゃんが欠席のため、新しく友達になったまこっちゃんと共に弁当をかっ食らっているわけなのだが…、やっぱりしーちゃんのあの立派な重箱が目の前にないというのは落ち着かない。まこっちゃんの可愛らしい弁当箱が異常に小さく感じる。そして、なんだかとても…何かを忘れてしまっているような、モヤモヤした気持ち悪い何かが胸にたまっている。胸焼けをしてしまいそうだ。
「やっぱり、霧雨さんじゃないと嫌だよね…」
「えっ?」
知らず知らずのうちに、つまらなそうな顔になっていたらしい。まこっちゃんは悲しげに俯いてそう言った。卵焼きをつつきながら。私は、否定しようと手を上げた。
いや、まこっちゃん。つまらないわけではないんだ。今日は馬鹿みたいなしーちゃんのテンションについていかなくとも良いのだから、むしろ楽なんだ。
しかし、その言葉が、何故か喉に引っ掛かってしまったように出てこない。手を上げたまま、不思議な表情で私は動きを止めた。
…どうして?
え?と私を見ながら卵焼きをむぐむぐする彼女を前に、考える。このモヤモヤは何だろうか。いや、まずこのモヤモヤは精神的なものであるのだろうか?身体的なもの…つまり、ただの胸焼けであるならば、薬を飲めば治るわけだから…って、違う違う。ほら、また私の悪い癖。変なことは考えないで、単純に原因を探さなくちゃ。
助けを求めるように視線をキョロリと動かす。隣のミヤシロの探るような目と目が合う。その瞬間、モヤモヤがなお一層濃くなったような気がした。…あれ?
私は、はっと目を見開いた。原因は、ミヤシロかもしれない。いや正しくは、ミヤシロも原因の一つかも知れない、だ。何故なら、しーちゃんが欠席なことは確かに寂しいと思っているし…まぁ、しーちゃんは学校を休むことがあったので、今更寂しいなんて…という感じだから。いや、でも、どうしてミヤシロなんかが…。
「ミヤシロ君?」
「うぎ!?」
ガタン。まこっちゃんの言葉…ミヤシロという単語に反応して、体が揺れる。机も揺れて派手に音を立て、私は変な声を出した。弁当が倒れそうになって、慌てて押さえた。
何だアイツどうした、とでも言うような、集まる視線に顔が熱くなる。ああ、こっち見ないで!今の私はまさに顔から火が出る状態。…これ大丈夫かな。私の顔、燃えてない?大丈夫?
「…ふふ」
「な、何で笑うんだまこっちゃん!」
俯いて赤くなる私を見て、まこっちゃんが笑った。だってさっきミヤシロ君の方をチラチラ見ていたよ?とまこっちゃん。み、見てなんかないよ!と否定する私。…いやいや、これは我ながら下手くそすぎるよ。明らかに挙動不審じゃないか。というか、何故にミヤシロという単語に取り乱した?私。らしくないよ。落ち着け、麦茶でも飲もう。平常心平常心……。麦茶の入った水筒を傾ければ、カララン、と溶けきっていなかった氷が音を立てた。
「ふふ…笑ってごめんね。鈴ちゃん、ミヤシロ君と一緒にお昼食べたかったんじゃないの?」
「げほっ!」
げほげほ。驚いて息を吸ってしまったのがまずかった。まぁ、人間は驚いたり、動揺したりすると息を吸ってしまうことがあるから。麦茶が気管に入ってむせる。息が、できな、
「大丈夫?鈴ちゃん?」
「う、ん。大丈、夫」
まだ違和感はあるものの、とりあえずは落ち着いた。心配そうなまこっちゃんの目から逃れるように、私は顔を手で覆った。覆ったまま、ため息を吐く。…幸せが逃げる?知らないよ。今はそれどころじゃないんだ。
チラリ。指の隙間からミヤシロを盗み見る。ミヤシロは、数人の男子の真ん中に混じって笑っている。前からそこにいたように違和感がない。
楽し、そうだな。目を逸らした瞬間、ずんっと胸が重くなった。…いや、胸よりほんの少し下、みぞおちの辺りが。何かが渦巻いているような気がして、私はそっとそこを押さえた。
「…そうかもね」
まこっちゃんの言う通りだ。私はミヤシロと一緒にお昼を食べたかったのかも知れない。
だって、私、お昼は一緒に食べるのだろうなと思っていたのだよ。この流れでいくとそうなるんだろうな、って。でも、違ったじゃないか。君は何も言わずに行ってしまったじゃないか。休み時間に好きな食べ物の話だとか、趣味だとか、たくさん話したのに。気が合うなぁって思っていたのに。私は楽しいと思っていたのだけれども。…君は楽しくなかったのかな。
まぁ、男子は男子と一緒にいるのが当たり前なんだけれどもね。
…何だか、置いていかれてしまったみたいなんだ。変かな。
ああもう、止め止め。考えるのって本当疲れる。前を見れば、私の不思議で可笑しな内側を知らずにニコニコ笑うまこっちゃんがこっちを見ていた。ヘラリ、誤魔化すように笑う。ツキリと、経験したことのないような痛みが胸を襲った。
私、おかしいかも。そんな、こぶみたいな違和感を残して。




