想像的スケール
息のつまるような授業が終わり、解放感漂う放課後、只今午後3時45分。さわさわと心地良い風が吹き抜ける昇降口なう、だ。
「とっつぁん、さよならー!」
「おぅ、気をつけて帰れよ霧雨ー」
疲れをにじませ、出席簿を脇に抱え、職員室へと向かうとっつぁん。それに向かってブンブンと私の隣で、手をちぎれんばかりに笑顔で振るのはしーちゃんである。佐藤もなー、と爽やかな笑顔を向けられた私は軽く頭を下げた。…とっつぁんはこれから、小テストを採点するのだろうか。そんなことを考える。まぁ、いつものごとく私はそれなりだったから。別にいい。
しばらくとっつぁんの背中を見送って、歩き出す。バタバタと走って自分の靴箱へ飛び付いたしーちゃんは、無駄な速さで私のものよりピカピカに磨かれた自分のローファーを出した。とても立派な、ローファーを、しゅばっと。そして、鼻歌まじりにそれを履くしーちゃん。何の曲だろう。私も靴箱に手をかけた。
一瞬止まる。しーちゃんがローファーを履き終えたのを確認し、私も出した。ローファーを出すのを躊躇ってしまうのは当たり前のことなんじゃないかな。だってほら見て、私のローファーは、埃まみれで見るに耐えないから。
埃まみれでよれよれのローファーを履くと、いつの間に移動したのだろうか、しーちゃんが、私の腰に腕をまるで逃がさんとばかりに絡めてきた。暑苦しいな、なんて思う。というか、端から見たらこの体制はレズっぽ……げふんげふん。
まぁ、これですっかり退路が絶たれてしまったわけなのだが、しーちゃんから逃げようと思うなんて百年早い。私はしーちゃんから逃げられないのだ。まぁ、逃げようとも思わないけれども。…何だかなぁ。なんともいえない脱力感が私を襲った。
「さ、すっちゃん。行くぜ!」
「…歩きづらいんだけど。これで行くのかい!?」
元気良く言ったしーちゃんにすかさずつっこむ。だっておかしいじゃないか。しーちゃんはへっぴり腰で私にくっつき、私はそんなしーちゃんを引きずっている、凄く奇妙な状態なのだよ?私としては離れていただきたいって言うか…しーちゃんだって歩きづら……
そうじゃないみたいだね。
凄い嬉しそうだね。つーか何?私が歩きづらくてぎこちない歩きになっているっていうのに、全然平気な顔してるんだけど、この子。何当たり前みたいな顔してるんだろうこの子。
もう一度歩きづらいよと訴えて、しーちゃんの腕をぺしぺし叩いた。
「あっ、途中でクレープ買ってい?」
「話を聞けよォオ!」
私の訴えを見事なまでにスルーして、気にせず言ったしーちゃん。少し、イラっとした。いや、少しと言わずかなりイラっとキタ。ぶち殺したくなった。冗談だけども。まぁ、この腰に巻き付く腕を折ってもいいかな、いいよね、と思ってしまうくらいイラっとキタよ。
まあ、しーちゃんが話を聞かないのは昔からなので、今更どうこうするつもりもないのだけれどね。…別にいいけど。気にしてないけど。
諦めてがっくりと脱力する私と、へばりつきながらクレープキャホォォオウ!と叫ぶしーちゃん。シュールな光景すぎて嫌だ。嗚呼、嫌だなぁ。なにもかも。
私はため息をひとつ吐いて、暑苦しい掛け声をかけてランニングをする野球部を横目に、しーちゃんをひきずった。
…重い。
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さて、ここでしーちゃんについて話しておくとしよう。そう、私の隣で上機嫌にイチゴクレープ¥350を頬張っているしーちゃんについて、だ。
(頬にクリームをつけた女子高生とも言う。)
まぁまず最初に言ってしまえば、しーちゃんは平凡ではない。断じて違う。平凡の基準は決まってはいないと思うし、どこからが平凡でどこからが非凡なのかとか、聞かれても分からないけれども、しーちゃんは平凡の基準がどうのとかの話ではない。それ以前の問題である。
しーちゃんのことを説明するためには、町とその歴史からの説明を必要としなくてはならないくらい、彼女は平凡からかけ離れていた。
全てを話してしまうと長くなってしまうので、少しかいつまんで話してみよう。
さぁ、私が住んでいるこの町、空町と言うのだが、緑が多い町として有名………ではないけれど、それなりに名を馳せている。それなりに田んぼがあって、それなりにコンビニやら何やらがあって、それなりに(以下略)
とにかく平凡な町だ。
特産品はなんですか?と聞かれたら、町に住むほとんどの人々が口ごもるような、平凡………言ってしまえば中途半端な町。それが空町。
でも、こんな平凡な町でも、私は気に入っていたりするのだ。例えば、山に沈む夕日の綺麗さだとか、例えば、町の人の温かさだとか。父さんの台詞を借りてしまえば、『日本で珍しくなった優しい町』だから、ね。
綺麗事のようで変な気持ちになるけれども、簡潔にまとめてしまえば、そういうことなのだ。
まぁ、結局私が言いたかったことは、私はそれなりに空町を気に入っている、ということなんだけれどもね。
それは置いておいて、私が通っているのは、大田高校。
『将来を見据え、自分を極める』なんてかっこつけた校訓をかかげているけれど、所詮は私が通っている学校だからね。そこんとこ、ヨロシク。
学力、並。部活動、並。
野球部の全国大会、甲子園なんて夢のまた夢だし、吹奏楽部の全国大会、普門館なんて、ナニソレ美味しいの?状態だ。
(何故吹奏楽部でもなんでもない帰宅部な私が知っているのかって?そんなの私が知りたい。)
まぁ、そんなことはあまりしーちゃんに関係ないので端によけておくとしよう。
さて、想像してくれ。平凡高校、大田高校の無駄に立派な校門を出て、桜街道と呼ばれる道路を東へ突っ走っているところを。出来たら、そのうち見えてくる私の家を通り過ぎ、ずっとずっと突っ走ってくれ。
え?私の家が分からない?庭にウッドデッキがあって、繁殖したブルーベリーの木がもっさりしているからわかるはずだよ。
しばらくしたら『灰島ビル』と書かれた、威圧感半端ない建物が見えないかい?そこを右に曲がるんだ。それはすぐに見つかるよ。
あれは何?あれは、こんもりと緑を繁らせ、どこか神秘的な雰囲気を醸し出す、その名も『霧雨山』。大きい、とは言い難いのだが、空町が誇る歴史のある山だ。
なんでもその昔、有名な腕のたつ陰陽師が、この山に何千という邪気悪霊を封じ込めたとか。真偽のほどは定かではないけれど、時折山で火の玉を見た、だとか言われている。まぁ、あくまでも噂だからね。信じていないけれど、ちょっぴり怖かったりする。
さぁ、ここまでの私の説明の中で、違和感を感じた人がいるのではないだろうか。
『霧雨山』
そう。しーちゃんの名字、霧雨と同じではないかと。お揃いじゃないかと。
それを頭の片隅にちょっこり置いて、霧雨山の109段ある長くて急な石の階段を上がってくれ。大変だろうが。
登りきったら、達成感と爽快感が胸を通り抜け、鮮やかな朱色の鳥居が見えるはず。
そして、大きくて立派な鳥居の向こうの、神聖な空気に包まれた神社の存在感に圧倒されることだろう。
私もかつてはそうだった。…今となっては昔のことだが。
「はい、到着ー!」
元気よく伸びをしたしーちゃん、苦笑いの私。ここは、空町の誇り。『霧雨山の霧雨神社』。
そして、しーちゃんのたでーまーという声に、ドタバタと駆けてくる足音複数。私は身構えた。
「「お嬢!!鈴様!!お帰りなさいませ!」」
「うん、たでーま」
「こ…こんにちは」
ここ、霧雨山の霧雨神社は、しーちゃんの家、である。証拠に今。私達に向かって、90度に腰をきっちり折り曲げ、嬉しそうに挨拶するのは、白い袴を着た神社の方々。
初めて見た時は、やのつく職業なのかと勘違いしたけどね。それほど凄く非凡な光景だよ。
そして何故、しーちゃん(私も)がここまで非凡なお出迎えを受けているのか。
聞いて驚け、見て騒げ。我らなんちゃら盗賊団…ではなくて、
私の隣で、もっさもっさとクレープを咀嚼するこの女子高生。
まさかの霧雨神社の跡取り娘、七代目当主(まだ継いでないけれど)、霧雨 時雨なのだ。
「学校お疲れ様でした、お嬢。小雨様と六代目がお待ちにごさいます。」
「すっちゃん、行こう!!」
「…うん。」
何でそんな凄そうな彼女と私が親友なんだって?………そんなこと、私が知りたいくらいだよ。
読んでくださってありがとうございます。
難しいですね…
書き直しするかもです。




