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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
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第8章 数字は、嘘をつかない

[アークシステムズ・仮設ミーティングルーム/午後]



「……で、今わかっているのはここまで」


凪(なぎ)が、画面を操作しながら説明を終える。


「『坂辻(さかつじ)さんの報酬額は会社規定より低い』

 『それなのに“多くもらっている”という噂が立っている』

 『数字が合わない』という経理からの連絡も同時期」


柊(しゅう)は、腕を組んだまま黙って聞いていた。


「つまり」


柊(しゅう)が、ゆっくりと言葉を落とす。


「“少ない数字”と、“多いという噂”が、同じ人物に重なっている」


「うん」


凪(なぎ)が頷く。


「誰かが、数字を“ずらしてる”可能性が高い」


環(たまき)は、胸の前で手を組み、小さく息を吸った。


(……数字が、ずれる)


それは、どこかで、“誰かの手”が入っているということ。


そのとき。


「――それなら、話は早いわね」


柔らかく、しかし芯のある声がした。


3人が同時に振り向く。


ドアの向こうに立っていたのは、樫乃(かしの)灯(あかり)だった。


「灯(あかり)さん」


環(たまき)の声が、少しだけ明るくなる。


灯(あかり)は、ゆっくりと歩き、椅子に腰を下ろした。


「呼んでくれてありがとう」


「こちらこそ」


柊(しゅう)が頭を下げる。


「……正直、“人の問題”と“数字の問題”が絡(から)んでいて」


「ええ」


灯(あかり)は、静かに微笑んだ。


「一番、ややこしいやつね」


凪(なぎ)が、少しだけ笑う。


「でも、灯(あかり)さんが来てくれた」


灯(あかり)は、ふっと肩をすくめた。


「安心するのは、まだ早いわよ」


そして、静かに言った。


「でも――ひとつだけ、はっきり言えることがある」


灯(あかり)は、テーブルに置かれた資料に視線を落とす。


「数字は、嘘をつかない」


環(たまき)の胸が、ぽかりとあたたかくなる。


(……ははの声)


灯(あかり)は続けた。


「嘘をつくのは、いつでも人間」


凪(なぎ)が、画面を切り替えた。


「じゃあ、“数字の動き”を一緒に見てもらえますか」


「もちろん」


灯(あかり)は、杖を机に立てかけ、資料を引き寄せた。


「……まず、ここ」


指先が、帳簿データの一部をなぞる。


「報酬の支払い処理。この流れ……一見、問題ないわ」


柊(しゅう)が頷く。


「はい。表面上は、きれいです」


「でもね」


灯(あかり)は、ほんの少しだけ目を細めた。


「“誰が触ったか”のログは?」


凪(なぎ)が、すぐに答える。


「……経理担当者のみ、のはずです」


「“はず”ね」


灯(あかり)は、やさしく、しかし鋭く言った。


「“触れないはずの場所が、触られている”という相談だったでしょう?」


環(たまき)が、小さく頷く。


「……はい。経理課の方が、不審に思われていました」


灯(あかり)は、ふっと息を吐いた。


「じゃあ、“触れた痕跡が残らない触り方”がある、ということ」


凪(なぎ)の目が、きらりと光る。


「……バックドア、ですね」


「可能性は高いわ」


灯(あかり)は、即答した。


「しかも、“金額を増やす”んじゃなくて、“減らしたうえで、別の数字を見せる”やり方」


柊(しゅう)が、低く言う。


「……意図的に、誤解を生むための操作」


「そう」


灯(あかり)は、静かに頷いた。


「坂辻(さかつじ)さんは、“少ない数字”しか見ていない」


「でも、周囲が見ている数字は、別の顔をしている」


環(たまき)の胸が、きゅっと締まる。


(……同じ人なのに、見ている現実が違う)


「……それって」


環(たまき)が、恐る恐る言う。


「誰かが、坂辻(さかつじ)さんを“悪者”に仕立てている、ということですか」


灯(あかり)は、すぐには答えなかった。


一度、資料から目を離し、環(たまき)を見る。


「……まだ、断定はしない」


やさしい声だった。


「でも」


灯(あかり)は、はっきりと言った。


「数字は、“そう読める形”をしている」


凪(なぎ)が、静かに笑う。


「……ワクワクしてきました」


「凪(なぎ)くん」


環(たまき)が思わず声を出す。


凪(なぎ)は照れたように頭をかいた。


「いや、だって。これはもう、“パズル”ですよ」


柊(しゅう)も、口元をわずかに緩めた。


「……そうだな」


灯(あかり)は、その様子を見て、少しだけ微笑んだ。


「アークシステムズの本領、ここからね」


環(たまき)の胸の奥で、ぽかり、と何かが灯(とも)る。


(……はじまる)


数字と、人の心と、システムの奥。


それぞれが、少しずつ繋がり始めていた。

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