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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
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第9章 ログの裏側

[アークシステムズ・仮設ミーティングルーム/夕方]



「じゃあ、“裏側”を見に行きましょうか」


凪(なぎ)陽翔(はると)は、そう言って椅子に深く腰を沈めた。


さっきまでの、やわらかい笑顔はない。


メガネの奥の目が、静かに細くなる。


――凪(なぎ)のスイッチが入った合図だった。


「凪(なぎ)、無理はするなよ」


柊(しゅう)が声をかける。


「大丈夫です」


凪(なぎ)は即答した。


「これは“壊す作業”じゃない。“覗く作業”ですから」


環(たまき)は、少し背筋を伸ばして画面を見る。


(……凪(なぎ)くんの領域)


灯(あかり)は、その様子を黙って見ていた。


「まずは、“誰が触ったか”じゃなくて」


凪(なぎ)の指が、キーボードの上を滑る。


「“触ったはずがない時間”を見ます」


画面に、ログ一覧が表示された。



日時。処理内容。ユーザーID。



一見すると、整然としている。


「経理の入力、修正、確定。全部、正規の流れです」


凪(なぎ)は淡々と言う。


「でも――」


一つの行を、ハイライトする。


「ここ」


柊(しゅう)が身を乗り出す。


「……何もおかしくないように見えるな」


「そう見えるように、作ってあるからです」


凪(なぎ)は、少しだけ口角を上げた。


「この“修正ログ”。経理担当者が触ったことになってる」


「なっている、ということは」


環(たまき)が、そっと言葉を挟む。


「……実際には、触っていない?」


「はい」


凪(なぎ)は頷いた。


「この時間帯、経理課は全員、会議中です」


灯(あかり)が、ゆっくりと息を吐いた。


「アリバイは、成立している。

 なのに、ログは“修正済み”」


凪(なぎ)は続ける。


「つまり」


柊(しゅう)が低く言う。


「“誰かが、経理担当者になりすましている”」


「正確には」


凪(なぎ)は、画面を切り替えた。


「“なりすましているように見せている”」


環(たまき)の胸が、きゅっとする。


(……偽装)


凪(なぎ)はさらに操作を進める。


「このシステム、権限管理はちゃんとしてます。

 でも、“権限を通さずに触れる入口”があった」


「……バックドアね」


灯(あかり)が、静かに言った。


「はい」


凪(なぎ)は頷く。


「しかも、かなり丁寧に作られてる。

 一気に数字を書き換えない。

 少しずつ、“自然に見える幅”でずらす」


柊(しゅう)が、眉をひそめる。


「……経理が気づきにくい」


「ええ」


凪(なぎ)は言う。


「“昨日と今日で、少し違う気がする”程度。

 でも、それが積み重なると――」


「帳尻が合わなくなる」


環(たまき)が、ぽつりと言った。


「そうです、環(たまき)さん」


凪(なぎ)は微笑んだ。


「だから、経理課からの相談が来た」


灯(あかり)は、資料を指で軽く叩いた。


「このやり方……“お金を盗む”というより」


少し間を置いて、言葉を選ぶ。


「“誤解を育てる”やり方ね」


凪(なぎ)が、深く頷く。


「そうなんです」


「誰かが多くもらっているように見せる。

 でも、本人には、“少ない数字”だけを見せる」


柊(しゅう)の声が、低く落ちる。


「……悪質だな」


「しかも」


凪(なぎ)は続けた。


「このバックドア、“管理進行”の権限に近い位置にある」


環(たまき)の目が、わずかに見開かれる。


(……管理……)


灯(あかり)は、すぐに表情を変えなかった。


「進行管理は、数字とデータの“通り道”」


「ええ」


凪(なぎ)は答える。


「触れれば、“誰の案件が、いくら動いたか”が全部見える」


柊(しゅう)は、腕を組み直した。


「……まだ、名前は出すな」


「もちろんです」


凪(なぎ)は即答した。


「今はまだ、“仕組み”を確認している段階」


環(たまき)は、静かに息を吸う。


(……坂辻(さかつじ)さん)


彼は、この裏側を、何一つ知らない。


それでも、噂だけが先に走っている。


灯(あかり)が、ゆっくりと立ち上がった。


「凪(なぎ)くん」


「はい」


「このバックドア、“いつから”ある?」


凪(なぎ)は、キーボードを叩き、少しだけ黙った。


「……システム稼働直後です」


柊(しゅう)の目が、鋭くなる。


「最初から、仕込まれていた可能性が高いな」


「はい」


凪(なぎ)は、静かに言った。


「これは、“偶然の不具合”じゃありません」


ミーティングルームに、短い沈黙が落ちる。


環(たまき)の胸の奥で、ぽかぽかと、でも少し怖い感覚が混じる。


(……パズルが、形になってきた)


凪(なぎ)は、最後にこう言った。


「でも、まだ“最後のピース”が足りない」


柊(しゅう)が頷く。


「金の行き先だな」


凪(なぎ)は、静かに笑った。


「ええ。そこがわかれば――」


画面に映るログの列が、静かに光る。


「全部、ピタッとハマります」

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