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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
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第10章 消えた数字の行き先

[アークシステムズ・仮設ミーティングルーム/夜]



画面に表示された数字は、静かだった。


派手な動きはない。

急激な増減もない。


「……やっぱり、一気には動かしてないですね」


凪(なぎ)が、キーボードから手を離す。


「“盗んでいる”というより、“抜き取っている”」


「しかも」


柊(しゅう)が続ける。


「坂辻(さかつじ)さん本人には、“減った数字”だけを見せている」


「はい」


凪(なぎ)は頷いた。


「周囲には、“多く動いたように見える数字”を残して」


環(たまき)は、画面を見つめながら、息を呑(の)んだ。


(……同じお金なのに、見える形が違う)


灯(あかり)が、静かに口を開いた。


「……この流れ、お金そのものが目的じゃないわね」


凪(なぎ)が、少し驚いたように灯(あかり)を見る。


「どういう意味ですか?」


「お金が欲しいなら、もっと早く、もっと大胆に取れる」


灯(あかり)は、指で数字の列をなぞる。


「でもこれは……“時間をかけて、誰かを疑わせるやり方”」


柊(しゅう)の目が、細くなる。


「……坂辻(さかつじ)さんを」


「ええ」


灯(あかり)は、静かに頷いた。


「彼を“悪者に見せる”ための流れ」


環(たまき)の胸が、ぎゅっと締まる。


「……でも、坂辻(さかつじ)さんって」


思わず言葉がこぼれた。


「お金に、あまり興味がなさそうでした」


凪(なぎ)が、小さく笑う。


「ですよね」


「報酬の額も、ほとんど気にしていなかった」


「それが、逆に“都合がよかった”」


凪(なぎ)の言葉に、ミーティングルームの空気が沈む。


灯(あかり)が、ゆっくりと続けた。


「……金に無頓着な人ほど、金で壊される」


「気づくのが遅いから」


柊(しゅう)は、腕を組み直した。


「坂辻(さかつじ)さんは、評価と肩書きがすべてだ」


「だから」


凪(なぎ)が言葉を引き取る。


「数字を“評価に変換できる形”で歪(ゆが)められた」


環(たまき)は、ふと坂辻(さかつじ)を思い出す。


孤立し、何が起きているかわからず、噂だけが先に走る姿。


(……あの人は、何も知らなかった)


灯(あかり)が、ぽつりと言った。


「……狙われた理由は、“弱さ”じゃないわ」


環(たまき)が灯(あかり)を見る。


「“羨(うらや)ましさ”よ」


そのひと言で、すべてが少しだけ、繋がった気がした。


「名家の生まれ。金に困らない。努力しなくても評価される」


灯(あかり)は続ける。


「そう見える人ほど、怒りの矛先(ほこさき)にされやすい」


凪(なぎ)が、静かに言う。


「……しかも、坂辻(さかつじ)さんは“運も持っていた”。大型案件を、次々と勝ち取っている。デザインを“借りて”いたとはいえ」


柊(しゅう)の声が、低く落ちる。


「……それが、癪(しゃく)に障(さわ)った」


誰かの感情が、はっきりと浮かび上がった。


名もない“誰か”の、静かで、粘ついた怒り。


「エースを潰す」


そのために選ばれたのが、“金”だった。


凪(なぎ)が、画面を切り替える。


「お金は、坂辻(さかつじ)さんの口座には行っていません。別の、ごく目立たない口座に流れてる。額も、一度に見れば小さい。でも――」


凪(なぎ)は、はっきり言った。


「積み重なると、無視できない額になります」


環(たまき)は、胸の奥が冷えるのを感じた。


(……静かな搾取(さくしゅ))


灯(あかり)が、静かに結論づける。


「これは、偶然でも、不具合でもない。誰かが、“坂辻(さかつじ)さんという存在”を壊すために設計した流れ」


柊(しゅう)は、ゆっくりと息を吐いた。


「……名前は、まだ出すな」


「はい」


|凪(なぎ)は頷く。


「でも」


柊(しゅう)の目が、鋭くなる。


「もう、“点”は揃った」


画面の数字が、静かに並ぶ。


それはもう、ただの数字じゃなかった。


人の感情が刻まれた、動かされた痕跡だった。

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