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EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season15 数字は嘘をつかない、嘘つきは数字を使う
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第11章 余裕の仮面

[アスペクト・デザイン部管理進行課/夜]



疋田(ひきた)大輝(だいき)は、誰もいなくなったフロアで、ひとりモニターを眺めていた。



静かな時間。

余計な雑音がない。



(……やっぱり、誰も気づいてない)


口元が、わずかに歪(ゆが)む。


この会社の連中は、自分が何をしているかなんて、想像すらしていない。



――進行管理。



聞こえは地味だ。

デザインでもない。営業でもない。


談笑の輪にも、ほとんど入らない。

飲み会でも、存在感は薄い。


(ちょうどいい)


疋田(ひきた)は、画面を切り替える。



案件管理。契約金額。支払いフロー。振込先。



すべてが、一本の線で繋がっている。


(全部、見える)


誰が、どの仕事を、いくらで受けて、どこに、どれだけ金が流れるか。


そして――


どこを、どう触れば、“誰にも気づかれずに”ずらせるか。


(俺は、一番いい場所にいる)


疋田(ひきた)は、椅子に深くもたれた。


この位置にいるのは、偶然じゃない。


自分で選び、掴み取った。


派手な才能なんて、最初から期待していない。


評価されなくてもいい。


(評価されるのは、“結果を出したように見えるやつ”でいい)


視線が、坂辻(さかつじ)陸斗(りくと)の名前に止まる。


(……あいつ)


自然と、鼻で笑った。



デザイン部のエース。

顔もいい。プレゼンも通る。



しかも――



金に興味がない。



(バカみたいだ)


生まれたときから、金に困らない家。


がむしゃらに働かなくても、勝手に“評価”が転がり込む。


(……癪(しゃく)に障(さわ)る)


疋田(ひきた)は、無意識に指を鳴らした。


努力しても、報われないやつはいくらでもいる。


数字を追い、スケジュールを詰め、尻拭いをし続ける人間は、誰にも見向きもされない。


なのに。


坂辻(さかつじ)は、“借り物のデザイン”で、次から次へと大きな仕事を取ってくる。


(運がいいだけだ)


それが、どうしても許せなかった。


(……だから、選んだ)



扱いやすい。疑わない。金額を細かく見ない。



そして何より――

“評価がすべて”の人間。


(エースを潰すには、一番いい)


疋田(ひきた)は、画面に表示されたログを眺める。



少しずつ、ほんの少しずつ。

数字をずらす。見せ方を変える。



坂辻(さかつじ)本人には、“少ない現実”を。

周囲には、“怪しく見える数字”を。



(噂は、勝手に育つ)


人間は、説明されなくても、“疑いたい理由”を見つける生き物だ。


最近の坂辻(さかつじ)を思い出す。



視線を避けられ、会話が途切れ、誰も近づかない。



(……いい顔してたな)


疋田(ひきた)の胸の奥に、黒く、ぬるい満足感が広がる。


(もう少しだ)


(光が消えるまで、あと少し)


画面を閉じ、疋田(ひきた)は立ち上がった。


(アークシステムズ?)


一瞬だけ、柊(しゅう)と凪(なぎ)の顔が脳裏をよぎる。


(大したことない)


あいつらは、“作る側”だ。


用意された設計の中で、正しく動いているだけ。


(バックドアを仕込める余地を残すような設計で、何がプロだ)


疋田(ひきた)は、心の中で嘲笑(ちょうしょう)する。


(俺にかかれば、楽勝)


気づかれるわけがない。


ここまで、完璧だ。


(まだ、大丈夫)


(誰も、俺を疑っちゃいない)


疋田(ひきた)は、フロアの電気を落とし、静かに会社を出た。


その背中には、“余裕”という仮面が、ぴったりと貼り付いていた。


だがその仮面は——


すでに、静かにひび割れ始めていることを、本人だけが知らなかった。

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